逃げる作物・積もる泥炭
感想や誤字脱字の報告が有りましたら幸いです。
この星に来てからあっと言う間に数週間が経過してやっとこの村での生活も慣れてきた。
1日にやることは先ず早朝、コンフェの自宅近くの納屋で起床。
身体が錆びないように整備キットから起動させた修理用ナノロボットに整備させながら朝日を見て過ごす。
それが終わり次第コンフェが研究の為にバラした竜機兵の部品に番号を振り仕分けながら資料を整理する。
その後はコンフェを起こすのに時間が少し空くので村を散策しながら家畜が肉食動物に襲われていないか見ながら過ごし自宅に戻る。
コンフェを起こすのに丁度良い時間なので家を壊さぬ様に家に入り、天井を突き破らないか注意しながら寝室で寝ているコンフェを起こす。
起床を確認したら家を壊さぬ様に注意しながら外に出て、村から少し下った場所にある湿地帯で泥炭を掘り出して使いやすい形に整えて積み上げていく。
ある程度積み上げたら作業を辞めて予め積み上げていた泥炭燃料を村に運び込む。
そこからは手伝いを求められなければ夕方まで自由な時間を過ごし、夜間は駐在兵が来るまで見張りをして終わりである。
・・・・毎日が本当に楽しい。
殺し殺されが当たり前な目覚めぬ悪夢の日々を毎日過ごしていた傍ら、この様な生活を密かに望んでいた。
澄んだ青空の下で私自身の意思で生きている事が如何に奇跡なのかを秒針を刻むが如く自覚出来る。
あぁ…………何と幸せなのだろうか。
《メインシステムより 日の出をお知らせします。》
どうやら今日も日が昇り……朝日を拝める事ができそうだ。
そうして私は納屋の扉を押し開けて朝日を飽きるぐらい浴びながら朝露に脚を湿らせ、修理用ナノロボットに身体を点検させる傍ら、朝ぼらけに浮かぶ村の光景を見つめる。
比較的小高い場所に位置するコンフェの研究室兼自宅は村を一望するのに最適で、私のお気に入りの場所である。
村の家々から揺らめく煙突の煙、平原から離れた場所にある森や湿地帯を照らす太陽と飛ぶ鳥の鳴き声、時より草木を揺り起こす風が身体を通り抜ける。
《システムより点検作業の終了を確認》
体中を這いずっていたナノロボットが役目を終えて修理キットの中に戻っていく。
「・・・・よし、すべき事をしようか。」
そう呟きながら私はコンフェの研究室に向かった。
村の一般的な家の白塗りの壁に煙突の映える赤い屋根とは少し違って二回りほど大きくて研究物を運び込む為にガレージのみたいに開閉出来る様にコンフェ自身が改築したと村大工が教えてくれた。
彼女に雇われてから研究馬鹿なのは昼から夜まで研究室に籠もっている姿を見ているので知っているのだがそれ以外の一面を私は知らない。
村人が話している内容的に凄腕の商売上手らしいのである、何でも王国で商業組織の一派を統率しているのだとか…………普段ののほほんとしている姿からは想像し難い。
壁に取り付けてあるボタンを押してガレージを開ける。
朝日に照らされて埃がダイヤモンドダストの様に煌めいてカメラに光を反射する。
風に捲れる資料を余所に私はコンフェが分解してある程度並べてある人工竜機兵の部品に番号を割り振っていく。
歯車に人工の内臓らしき部品に人体に近い骨組み等に手早く番号を割り振っていきながらスキャンを実施し、技術解析を行いながらシステムの出す結果に耳を傾ける。
《人工内臓部品のスキャンが完了。 未知の物質による化学培養による人工内臓である可能性98.7%》
《また、外骨格装甲部品に刻印された不明言語の解析を開始……………解析完了。》
《解析結果。 アルテミス銀河系言語のポプタ語に類似した言語パターンを確認》
《部品の製造社刻印の解析結果。 製造社名ハルカンドラと判明、データに無い情報の為言語データ並びにハルカンドラ社を重要データとして保存します。》
どうやら亡国ロンドールと関わっていたのは私の様な他の星からやって来た者達で間違いなさそうだ。
人を模した兵器………ましてや4メートルを大きく超える二脚の人型兵器を製造出来る技術を持つ銀河はかなり限られる。
しかもデータベースにも無い古い技術と企業、この星を知るには星外企業による文明への干渉の影響を確かめる事が必要なのかもしれない。
そう思いながら最後の部品である頭部の部品を見つめながら未だ見ぬ宇宙の文明に想いを馳せる。
最後の頭部部品は竜の様な外殻に口の奥には高出力の光線砲が内蔵されていて、左右2個ずつ備わっている眼球は水槽に保存されている。
最後に人工と思わしき脳に複数の機械が繋がる物が丁寧に水槽に浮かんでいるので水槽の縁に番号を貼り付けて終了である。
ふぅ……………今日でやっと仕分けが終わった。
一体何日掛かったのだろうか………私がこの村に来てからコンフェは寝るのを惜しんで擦り傷だらけの身体で研究に齧り付いていたので大体1・2週間くらいだろうか?
番号を割り振った部品数は凡そ数千点の大作業だったので流石に機械の身体である私も疲れてしまった。
それなのにコンフェは疲れた様子を見せずに何かを一生懸命造っていたので、健康に気を付けるように言ったが大丈夫か心配である。
雇われの身であるのであまり強く言えないので、王国で私について報告する為に滞在しているアレフおじさんに手紙を送って現状を伝えたり村人の皆さんにも世間話の中でそれとなく心配である事を話しているので多分大丈夫だろう。
部品の整理が終わったので軽く埃や汚れを掃除した後にシャッターを閉めてから私は何時もの散歩の為に納屋に戻り、肩に武器を掛けてから外に繰り出した。
下り坂を下り、家畜の様子を遠見しながら村の中に脚を運ぶと既に村人達が朝日を背に広場の公衆調理場で各々料理をしていたり鍛冶場からは既に鉄を叩く音が聞こえてくる。
「ん? おぉ! ヘラルドじゃねぇか今日も早起きじゃねぇか。」
「あぁダンマークの親父殿朝から随分と忙しそうじゃないか」
この人はダンマークさん 村の鍛冶師であり、一番の力持ちである。
昼間に金床を両肩に担いでいる所を見た時は思わず二度見してしまった。
どうやらこの星の人間達は肝っ玉も身体能力も地球人よりも何倍もある様だ。
「今日の火床の調子はどうだ?」
「そうだな………まぁ温度は妥協点だな! 鉄の粘り気が何時もよりちと柔らかい気がするがな」
「だとすると………農具辺りでも納品するのか?」
金床で紅く熱せられた金属を叩きながら鍛冶場を覗き込む私を見上げる。
「いや、もうすぐ王国の新兵の募集時期なんでな……コンフェの嬢ちゃんの商店に納品する長剣の芯材になるな」
ダンマークの親父さんが耐火性の分厚い作業服から煤汚れた注文書をチラつかせながらそう答える。
・・・それにしてもコンフェは若くして商才を振るっている様だな…………普段の振る舞いからは想像出来ないがな。
村人達から聞いた話だとアレフおじさんがあの娘と共に村に移住して数年後には村の畜産物を王国への卸売業を始め、取り憑かれたかのようにどんどん多方面に事業を広げていき、王国での商業組織の一派として君臨しているのだとか。
「ヘラルドよ……そろそろ嬢ちゃんを起こす時間じゃないか?」
「あ、そうだな………起こすにはいい時間だな、そろそろ家に行かねば………ダンマークの親父殿私はこの辺で………。」
「おう、行って来い………また家の天井を壊さん様に気を付けるんだぞ」
「あぁ………今度は気を付けないとな」
コンフェを起こす時間を危うく忘れるところだった。
後は家の中に入る時は天井に頭をぶつけない様に注意し無ければ・・・。
…………朝くらい自分で起きろと思うのは心の中だけにしておこう・・・一応雇われの身だからな。
◆◇◆◇
村から自宅に戻った私はガレージを開けてから研究室から寝室へ壁や天井を壊さぬ様に注意しながら這うように寝室で寝ているコンフェを起こしに行くと、何時もの様にベットに丸まりながら寝ているので布団を引っ剥がす。
「ゔぅぅ……まだ眠いにゃぁぁ」
「起きろ雇用主。 毎朝起こすのも契約の一部なんだろ?」
ベットにしがみつくコンフェの首後ろを掴み上げて台所近くの椅子に座らせ、コンフェが発明したらしい冷蔵庫擬きからサンドイッチを取り出して机に置く。
「んにゃ〜………仕分けは終わったかニャ?」
寝ぼけ眼でコーヒーを淹れているコンフェがそう聞いてくる。
「あぁ……終わったぞ。 かなり骨が折れたがな」
「何言ってんニャ、ヘラルドの身体は合金だから折れる骨なんてニャいでしょうが」
「ハハハ…まぁ何だ、言葉の綾って奴だ」
サンドイッチを珈琲で流し込みながらツッコミを入れてくるコンフェを尻目に暖炉に火を付けて泥炭燃料を投げ込む。
泥炭の独特の匂いが漂う………。
「それじゃコンフェ、私は暖炉の燃料掘りに行ってくるからな」
「朝っぱらから忙しにゃいにゃね。」
未だ少し寝ぼけ眼のコンフェがサンドイッチを頬張りながらそう聞いてくる。
「やるべきことは早めに済ませたい性分でな………何かあったら村まで来てくれ。」
「お勤め頑張ってニャ〜」
家を壊さぬ様に出ようとする私を見送るコンフェを背に私は次の仕事の為にコンフェの自宅を後にした。
◇◆◇◆
場所は代わり村外れの湿地帯【コマヤ湿地】
此処は雨季になると近くの川から増水した水で浅く浸り、肥沃で泥炭が豊富な土地なのだと村長から聞いている。
最近までは村の若い衆に暖炉の燃料として掘らせていたが若い衆が王国で働きに出ていったりして困っていたそうだ。
そこで新入りである私の出番である。 昼までの時間帯に暖炉に入れやすく掘り出した泥炭の形を整え、日の当たる場所に積み上げて乾燥させて置くと言う作業を繰り返す。
持ち込んだ折畳式のシャベルはすぐに折れてしまったので、鍛冶場の親父さんに作って貰った私の背丈に合ったスコップで積み上げたら前の週に積み上げて乾燥させた泥炭燃料を村に運び込むまでが私の仕事である。
村外れの低地にある為に人間が運ぶには骨が折れるだろうななんて思いながら柔らかく水分を含んだ地面に脚を踏み入れる。
朝の冷気に当てられて湿地帯の向こう側の森が見えない位に霧が地面から立ち昇る光景を目にしながら地面にスコップを突き刺し、泥炭を掘り出して形を整える。
単純でつまらないと感じるかもしれないが私にはこの時間が大切で幸せな事でもある。
掘っては積み上げてを繰り返していると村から誰かが向かってくる。
全身鎧に赤い髪飾りを靡かせた出で立ちに人の背丈程の大鉈と大盾を携えた騎士が近付いてくる。
名前は確か…………グウィン・タワーズと名乗っていたな、どうやらコンフェを代表とする商業組織である【エヴァグリーン】 の傭兵警護部門の一人だそうで、王国へアレフおじさんが私についての報告の為に居なくなる穴埋めに村に在中していると聞いている。
最初こそ出会い頭に戦闘になって家屋を何軒か破壊してしまったが普段は夜の見張り番をしている為昼間に外を出てくることは少なく、夜間に見張り番の交代の際に世間話をする仲である。
雇い主が同じなので意外と話して見れば悪い奴では無いと知った。
今までむせ返る程の爆煙と機械に囲まれていた人生で初めて友達を得たと感じていた…………もしかしたら私の一方的な感情なのかもしれないが。
「朝から精が出てるなヘラルド」
「おう、日課だしな………やらないと気持ち的にも落ち着かないんだよ。」
「お前は退役軍人の宇宙人? に、人間? なんだろ………無理なんかせずにアレフ殿の連絡が来るまで羽を休めても良いのだぞ。」
「心配させてスマンなグウィン、だが今の状況はこの星に降り立つ前から密かに望んでいた事なんだ」
「うぅ〜む………ヘラルドがそう言うのであれば止めはせん」
「今まで私はクソッタレな世界で過ごしてきたんだ。 控えめに言っても終わりだったんだ…………でも戦争が終わって機械の光りに照らされて、俺の存在は唯の3000ギガワットの落し子だったと気付いてしまった。 だから私は最悪では無いと信じたかったんだ………だから私は私自身に最悪を否定させたくてこの星に来たんだ。 だから今の私はこの綺麗な世界で働ける事に満足しているんだ。」
そう答えながら掘り出した泥炭を使いやすい形に整えて積み上げていく。
グウィンは近くの石に腰掛けて静かに聞いてくれていた。
「ヘラルド………まあ、何だ………現状に満足しているのであれば深くは聞きはせんよ」
「すまないなグウィン…………話は変わるが朝っぱらから私の下に来ると言う事は何か用事が有るのだろう?」
泥炭を最後まで積み上げてからスコップにこびり付いた泥炭を取り除き腰掛けていた石から立ち上がったグウィンの方に向き直り、目線を合わせるために片膝をついて耳を傾ける。
「最初の出会いは覚えているかヘラルド?」
「最初の出会いか? 確か出会い頭にお前が大盾で私の事をぶっ飛ばして大工のダンカンさんの家屋がぶっ壊れただっけか……。」
出会いは1・2週間前に遡る。
◆◇◆◇
段々と村の皆と打ち解けてきた朝の日。
乾燥させた泥炭燃料を村の広場に運び込んでいた私は積み上げていた泥炭を下ろした後に、往復で通る何時もの道から湿地帯に向かわずに家屋が点在する公共の調理場の近くを通っていた。
《本日の作業達成率8割に更新。 残り作業、泥炭燃料の運び込み作業を完了してください》
「早く終わらせて、今日は何をしようか…………釣りも良いがお菓子作りも捨てがたいな………ん~~悩ましい」
私が村に来てから注力したのは村の人々の恐怖心を取り除く為に、胃袋を掴む事からであった。
和食に洋食や中華料理等を私が作れる全てを現地の食材などで出来るだけ再現してみせたのだ、最初こそ金属のデカブツの作る物など危なくて食べれた物では無いと懐疑的だったがある日転機が訪れた。
皆がどうしたら私の料理を食べてくれるか悩みながら作っていたクッキーを子供達が食べてくれたのだ。
この星と言うか現地では砂糖を使ったお菓子は高額で買うのに躊躇してしまうのだと教えてくれたので私は果実のエキスや野菜から抽出した糖でお菓子を作ることにした。
結果的にこの選択肢は大正解で子供の胃袋をガッチリ掴み、大人にはレシピと言う価値のある情報と共に扱って警戒を和らげることに成功したのだ。
これには雇い主であるコンフェからも太鼓判を押して貰い、私が書いたレシピを商品として売れると喜んでくれたので嬉しい限りである、………因みにこの巨体で料理やお菓子を作るのは大変苦労したな。
公共の調理場の天井を突き破るし、調理器具は握り潰す等…………人間の普通の身体が恋しいと強く感じた期間だった。
人の身体で私は何時まで生きていたかもう覚えちゃいないけどな…………。
クソッ………また食事を楽しみたいな………ガス検知センサーの副産物で料理匂いを感じ取れるのがせめてもの救いか、或いは生殺しと言うべきか。 そんなこんなで私は村人から一定の信頼を得たので万々歳ーーー。
「村にどうやって入り込んだか知らんがデーモンも呪縛者も皆殺しだ。」
《脅威度判定急上昇。 メインシステム戦闘モード起動》
家屋に曲がり角を曲がって邂逅したのは人間としては最上級の2m弱の巨体を持つ赤い髪飾りを靡かせた全身鎧の人物だった。
「誰だお前ha――――」
思わずシステムの警戒を余所に会話を試みようとした刹那、大きく踏み込んで右斜め下から掬うように大鉈を叩き込まれ、咄嗟に反応出来ずに家屋にまで吹き飛ばされて壁を突き破り埃を被る。
「ほぅ…………喋れる化け物を相手にするのは何時ぶりか………まぁ結局は殺すからどうでも良いか。」
そう全身鎧の人物は語り掛けながらゆっくりと埃の舞う半壊した家屋に近付いてくる。
幸い私は自動防御が発動していたので傷一つないが吹き飛ばされた事に驚きを隠せなかった、何故なら重量数tある上に全長も4m弱ある巨体を吹き飛ばす胆力を持った人間など地球には改造手術を受けたごく僅かな者しか私は知らなかった。
「随分な挨拶じゃないか………この星では当たり前のことなのか?」
「未だ喋れる元気があるか化け物が…今消し炭にしてやる」
《強いストレス反応を検知。 人格分離抑制信号の増幅を開始》
「消し炭か………随分と物騒なa■□□■、あぁ!?やってみろよッッッ!!」
呑気に歩いて近付いてくる男に俺はメインブースターを全開で吹かして蹴りで向かい側の家屋に叩き込む。
クソッタレは咄嗟に大盾で防いだみたいだな、金属の巨体をぶっ飛ばせるとかどうなってやがる………この星の人間共はそっちのほうが化け物だろうが。
《分子の高速運動反応を検知》
土埃の中から真っ赤な火が揺らめきながら複雑な魔法陣を描き出す。
「今のは背筋が凍ったぞ………だが、次はそうはいかない」
紅く光る魔法陣が大鉈に吸収される様に収縮していくと大鉈から火が揺らめき出す。
体勢を低くして大盾を構えながら地を駆け、家屋の残骸を弾き飛ばしながら迫ってくる。
「来い、地球人の本気って奴を見せてやるよクソッタレ」
肩に懸架していたエンフォーサーを取り出しながら吐き捨てる様に宣言し、寸分の狂いなく照準を合わせ…………躊躇無く引き金を引いた。
緋色の閃光が形になって銃口から放たれ、大盾に吸い込まれる様に直撃する……………が。
「どんな金属を使えば装甲を簡単に貫通出来る光線を防げるんだ!?」
「面妖な飛び道具…………呪縛者では無いのか貴様?」
当たりはしたが大盾は表面を少し融解させるだけに留まり、以前此方に向かってくる速度は衰えず大鉈を振り下ろさんと迫るのを見て俺は咄嗟にメインブースターで空に飛び立ち反撃を受けぬ様に光線をひたすらに撃ち込んでいく。
然し未だ揺らめく陽炎に流れることの無い冷や汗が流れるのを感じる。
「どうなってやがるこの星の人間は…………なぁ!!?」
「空を飛ぶとはな………然しこの程度なんてことは無い!!」
そう啖呵を切ると奴は人間とは思えない跳躍で俺の懐近くまで近付いて右振りの攻撃を仕掛けてきたので咄嗟に左肩のマデューラを起動させ、大鉈に振り抜きざまにぶつける。
「大人しく焼き切られろ!」
「人型兵器の力を侮るんじゃねぇ!!!」
刹那の鍔迫り合いの後に火花を散らしながら湿地帯に墜落する。
俺と奴は泥濘んだ地面を抉りながら一瞬で間合いを詰めてレーザーダガーの青い閃光と火を纏った大鉈が再び鍔迫り合う。
何度も火花と残火を散らしながら打ち合い、近接格闘術と大盾のと大鉈の応酬が地面に夥しい足跡を生み出す。
「機械の力に抗うか人間!?」
「化け物は化け物らしく戦え!!」
お互いに拮抗状態で罵り合っていると村から見覚えのあるボロボロの作業服を着た人が此方に走ってくる。
「ウニャャャっっっ馬鹿たれぇぇェェ!! 今すぐその手を止めるニャ!」
両者共にその声に手が止まり音源の方向に目を凝らす。
「ちょっっっコンフェ!? こっち来んな危ねぇぞ!!」
「コンフェドール様! な、何故に近寄ってくるのですか!? 此方に来てはなりません!!」
此方に向かってくるコンフェにお互いに咄嗟に得物を仕舞いながら慌てて静止を掛けるが般若の如き彼女はとんでも無い跳躍を見せた後に一瞬で姿を消したかと思ったら次の瞬間、頭部に衝撃が走った。
《精神の鎮静化を検知》
「あだっッァァ! 何すんだコンフェ!!」
「この馬鹿ゴーレム! 何で村をめちゃくちゃにしているニャ!」
「いや、ソレは私の所為でHA」
「言い訳無用ニャ!」
「いやいやいや………飽くまでも正当防衛であってだな、と言うか私はゴーレムではなく地球製人型兵器……」
「黙らっしゃいッッッ!!」
「はい…………御免なさい反省します。」
「あ、あの…………コンフェドール様? 此れはどうゆう状況な」
「グウィンはちょっと黙っててニャ」
「あ、はい。」
困惑するグウィンを余所にコンフェが拳を擦りながら毛を逆立てて怒り出したので抗議をするが効果なさそうである。
◇◆◇◆
「まぁ、そんな感じだったな」
「もう1・2週間程度か………時間が過ぎるは矢の如しだな。」
あの後私とグウィンはお互いに雇用関係が発覚して村に皆に頭を下げるまでの合間にひたすら謝り倒したのだ。
その後はコンフェにも両者共に叱責を受けてしまった。
「それで? 用事の内容とはどの様な内容だ」
「あぁその件なんだがな、先程アレフ殿から手紙が届いたんだ。 サルヴァ王国より謁見の許可が下りた、直ちに出立せよ。 との事だ。」
遂に来たか………私自身もそろそろ何かしらの接触が有るんじゃないかととは思っていたがこのタイミングだったか。
「承知した。 直ぐにでも村を出立しなければな…………だが私は音よりも早く飛べるがサルヴァ王国はこの事は知らないのでは?」
「何だと………音よりも早く飛べるのか? 確かにあの時に飛べることは知っていたが………」
何を隠そう私の身体は宇宙での戦闘も考慮されてはいるが本来は惑星での地上戦が主な用途なのである。
大気圏突入や大気圏脱出さえも考慮された馬力も持ち合わせているのだ、数百km程度なら直ぐに行軍出来るのである。
「その様子だと知らなそうだな」
「あぁ、恐らくサルヴァ王国はヘラルドの容姿はアレフ殿から聞き認知しているが足の速さまでは知らないだろうな……」
「取り敢えずコンフェにも知らせるかな」
アイツの事だし研究の事に集中し過ぎて今の状況は知らないだろうしな。
「いや、その件についてはコンフェドール様は既に承知している。 お前の護送と監視を含めてコンフェドール様は私を呼び出したのだからな」
「そ、そうだったのか………アイツの事だから研究に没頭して知らないかと思ったが、既に手を回していたのだな……全く気付かなかったな」
どうやらコンフェは今日アレフおじさんから連絡が来るのを知っていて色々と手を回していた様だ。
それにしてもサルヴァ王国………か、一体どんな所なのだろうか………地球で言う所の都道府県の規模なのか?
どちらにせよ胸が躍る出来事になるのは間違い無いだろう………その反面、心配なのはこの星の国々に敵と認識されて戦争になる事である。
負けはしないだろうがこの星の人間はどうやら地球人とは違い、摩訶不思議な力を持っているのでもしかしたら私は鉄屑と化す可能性も捨て切れない。
兎に角に油断大敵である。
「ふむ…………この感じだと私は拘束された状態の方が国にとっては好ましいか?」
「そうだなヘラルド。 お前が少し大きめの人間だったら拘束していたさ………だが実態としては金属の固まりの様な身体は流石に馬車に詰める事もぐるぐる巻きにする事も出来ないから悪いがお前にはサルヴァまでの道程は歩いてもらうしか無いな。」
・・・・でしょうね、分かってた。
「了解した。 出立の準備を開始する、それでいつ村を出るんだ?」
「明日の早朝にサルヴァ王国の第四騎士団長様が護送部隊を引き連れて村に来る。 村を出てからは普通の人間だと数日掛かる道のりを進み、野営を挟みながらサルヴァ王国に入国する予定だ。」
「なる程な………然し、そんなにも厳重ならグウィンが居なくとも普通なら大丈夫そうだが」
恐らく私がこの星準拠な生命体や兵器、魔物や呪縛者ならまた違った対応だったのだろうが私は異星からやって来た宇宙人だからだろうな。
まぁ宇宙人だと馬鹿正直に話しても村の皆からは変なゴーレム扱いなのだがな。
「普通なら私がいても過剰戦力だがな………お前の存在が特異過ぎて万が一の為にコンフェドール様は俺を呼んだのだ。」
「なる程なぁ………」
《数百メートル付近にて無数の移動物体を検知》
グウィンと話し込んでいると不意に村の方が騒がしくなる。
「む………グウィンよ、何やら村の方が騒がしいが」
「この時期だと"あれ"かもしれんな」
「"あれ"?」
あれとは一体なんだろうか・・・・?
「見れば分かるさ、少し手伝いに行こうか。」
「あ、あぁ……。」
「足元に気を付けて捕まえてくれヘラルド」
「つ、捕まえる?」
そう言いながら村に向かうグウィンの後に続き私もスコップを持ち、村に向かうことになった。
◆◇◆◇
「うむ、今年も豊作だな。」
「はぁぁぁぁ!? な、何だ此れは……。」
村に到着すると其処には思わず頭を抱えて仕舞う事が起きていた。 広間を駆け回り、手足の生えた野菜を追い掛け回す子供達や空を飛ぶタマネギを捕まえる為に虫網を振り回す村人達。
家畜でロデオを楽しむ人参やブロッコリーらしき野菜やビートが村の至る所で猛威を振るっていた。
「困惑する気持ちは理解できるぞヘラルドよ、だがこの星では良質な野菜が手足を生やして動き出すのが収穫時期の定番………日常光景なんだ。」
「そんな定番あってたまるか。」
思わず私はグウィンにツッコミを入れながら足元をウロチョロする野菜達を捕まえる。
・・・・やはりこの星は普通では無いな、楽しいけども。
「ああッッ! ゴーレムのおじさん丁度良い所に来た!! 早く捕まえるの手伝って!」
「お安い御用だ。 幾つか踏んづけてしまうかもしれんが許せくれよちびっ子達よ。」
私とグウィンを見つけた子供達が野菜を両手いっぱいに抱えながら駆け寄って来る。
どうせ暇になるし丁度良い暇つぶしになるだろうからな。
子供達や村人を踏まないように気を付けながらグウィンと共に布や網を駆使しながら日が沈むまで野菜を籠に放り込んだのだった。
◆◇◆◇
村中を暴れ回っていた野菜達を村人と子供達に引き渡した私はグウィンと別れた後、コンフェに呼ばれた私はコンフェの研究室にいた。
「今戻ったぞコンフェ………それで話とは何だ?」
「お仕事お疲れさまにゃ、丁度良い所に来たにゃね」
其処には研究室を綺麗に片付けていた作業服姿のコンフェがコーヒーを啜りながら腰を落ち着けていた。
部品やらで散らかっていた研究室は淋しいぐらいに片付いていてその代わりに布を被せられた謎の巨大な物体が横たわっていた。
「コンフェ、そこに横たわっているのは何だ? 何かしらの発明品か?」
「ニャふふふ………今直ぐお披露目したい所にゃけど明日のお楽しみにするから秘密ニャ。 因みにグウィンから話しは聞いているかニャ?」
ほくそ笑みながらコーヒーを飲みコンフェは答える。
「グウィンから話しは聞いている。 早朝にサルヴァ王国の護送部隊が私をサルヴァ王国に連行すると、後はグウィンがコンフェの護衛と私の監視を務めると聞いている。」
「そこまで分かっているにゃら上出来ニャ。 明日からヘラルドのお仕事の本格始動だから早く寝るのをお勧めするニャ」
「あぁそうするよ、然し眠る前に聞きたい事があるんだが良いか?」
コンフェがコーヒーが無くなったコップを机に置き、コチラを見据える。
「何が聞きたいにゃ?」
「これから私は一体どうなるんだ? サルヴァ王国で尋問でも受けるのか?」
ずっと懸念していた一番の疑問をやっと切り出せた。 この星に降り立ち、早数週間が経過して忘れかけていたのだが今の私は人格を保持した兵器なのだ。 既に一国の王達は私の様な異物の存在の情報を知らない筈がないのだ。
「ヘラルドは今の自分の立場がどんな感じ把握しているニャ?」
「そうだな……ある日突然空から落ちて来た意味不明な危険人物か?」
「概ね正解と言った所だにゃ。 あの日、各国は青空から落ちる彗星だったヘラルドを新たなる脅威として警戒しているニャ」
やはりな……それならば尚更疑問が生まれる。
脅威として認識しているならば軍隊を差し向けるなりと出来た筈である。 脅威の芽を摘み取るのは例え違う文明だとしても当たり前である筈であると言うのに。
「ならば何故戦力を私に向わせるなりしないんだ? もしかしたら今の瞬間でも村や都市、国を襲っていたかも知れないんだぞ。」
「その考えが普通かもしれないにゃ、だけれど脅威では無いと確信している人物が領地を保有している国に報告を入れていなかったらそうなっていたニャね。」
「あ、まさか………。」
コンフェが一報を入れたのだろうか、若しくはアレフおじさんがいち早く情報を国に報告していたのかもしれない
「にゃ〜がヘラルドと出会った日にサルヴァ国王に宛てた一報をアレフお義父さんに持たせたんだニャ」
手回しが随分早いな………職業柄情報の速度の大切さを肝に刻まれている様だ。
「随分情報伝達が早いな、職業病的な感じか?」
「商人にとって情報は命よりも重いにゃ。 それが国を脅かす可能性が有るなら尚更」
「アレフ殿は一体何者なんだ?」
直ぐに国王に謁見出来ると言う事はそれなりの地位にいるのだろうな。
「元王族近衛騎士団長を務めたサルヴァ王国で知らない人は居ない大物ニャ」
「想像よりも高い地位過ぎてめ、目眩が………。」
あ、あの時に失礼な態度を取らなかった私自身を褒めたいと思う………いや、マジで。
「兎に角に朝早いから早く寝るニャ、アレフおじさんもヘラルドの監視をする為に護送部隊と一緒に来るにゃからね。」
「ソレはまずいな早く寝なければ、コンフェよ私はもう寝るとするよ……」
「それが最良の選択にゃね、それに出発前にヘラルドに見せたい物が有るんだから」
そう言いながら布を被せられた物を撫で回すコンフェを見ながら明日から起こるであろう出来事を空想しては必死に頭から振り払う。
「それが何か楽しみにしているよ……では私は眠るとするよコンフェ」
「うニャ〜お休みにゃ」
夜の散歩を取りやめた私は村の様子やグウィンがいつもの様に物見櫓で珈琲を嗜む所にお邪魔し、早めに眠る事を伝えてから納屋の床に就いたのだった。
明日からきっと忙しくなるだろう……良い意味でも悪い意味でも、そう考えながら私は生きている幸せを噛み締めながら意識を落とした。
【深淵狩りの大鉈】
深淵狩りの大盾と共に産まれた熔鉄の大鉈
一人の青年は両親を貪るデーモンと呪縛者を身体から噴き出した炎だけで屠り大鉈で蹂躙したと言う 何時しか大鉈には燻る炎が刻まれ 振るう度に全てを焼き払ったと言う 見よ、罪火の炎の在り方を