見知らぬ星
・・・あれから数日か数ヶ月が経過した、と思う。
若しくは数十年か。
宇宙空間は時間感覚が無くなるので余り好きじゃない、ある種の拷問だと思う事さえある。
まあ意識をシャットダウン出来るのでそこまで苦痛では無かったな、人間の身体だったら冷凍保存で凍える必要があったが今の機械の身体なので凍える必要が無いのは幸せなのかもしれない・・・・。
だがそれでも暇であるので本でもなんでも持って来るなりメインコンピュータにでもインストールすべきだったと今更ながらに痛感した。
趣味という趣味が無かったのでトランクには戦友達の写真や折畳式のシャベルと斧、そして二重構造になっているトランクにバレずに分解して詰め込んだ相棒であるカスタマイズ済みの【3000年式インフォーサー人型兵器専用自動光線銃】と近接格闘時に使用する高エネルギーの刃を展開するレーザーダガーを隠し持ってきた。
私の部隊では日系人の元人間が多く在籍していたのでエンフォーサーと呼んでいた。
ジェネレーター直結方式のエネルギー供給による破格の継戦能力高さや対人目標や対装甲目標の何方にも安定した性能や整備性の良さから大量のライセンス生産品やコピー品が普及していた。
部隊の皆が生きていた頃は良くカスタマイズしたエンフォーサーを自慢し合っていた。
・・・・因みに私がしたカスタマイズは銃身をロングブルバレル化し、コンペンセイターも改造して集弾性能を向上させてサイドマウントのフラッシュライトとレーザーサイトは元米国産の物に拘り、アンダーマウントのフォワグリップは握りやすいようにギリギリまで削った改造を施していた。
後はレーザーダガーに関してだが此奴は縁の下の力持ち的な存在である。
とても頑丈でグリップも握りやすく利き手じゃない左手でも扱いやすいレーザーダガー【マデューラ】は戦場での私にとってもう一つ相棒だった。
それらを手慰めにトランクからエンフォーサーやマデューラを取り出し、磨いては組み立てたりフラッシュライトやレーザーサイトの動作確認等。
そうして時間を潰していると無人航行している宇宙船からの通知を受ける。
《本艦は未開拓銀河系に到達、これより最寄りの惑星付近にて格納庫を解放します………さようなら英雄、あなたの行く末に幸あらんことを》
「遂にか………今まで世話になった。 ・・・・地球をよろしく頼む。」
《はい、そのつもりです。》
《エアロック解放、格納庫接続ボルト解除。 格納庫解放します。》
格納庫のハッチが開き、空気が一気に宇宙空間へ逃げていく。
身体が無重力に包まれ、自身のジェネレーターの音だけが宇宙空間の全てとなった。
身体も・・・内臓も脊髄も脳髄さえも捧げてきた。
それで勝てると言われ・・・。
しかし最後に残ったのは勝利では無く見せ掛けの栄光と勲章だけだった。
もう、疲れて果て………既に友軍はあの世に去った。
だが私は最後に太陽系外追放の結果、自由を手に入れた。
これからは私自身の意思で戦い死んで逝ける。 ・・・・なんて幸せなのだろうか。
誰かの死に目に目を伏せるのはもう辞めだ。 もう後悔を抱えて生きるのでは無く自身の気持ちに正直に死ぬまで歩いて行こう。
その歩みが誰よりも遅くとも、青空と星空を眺められるように……………。
《人型兵器ハービンジャー強襲型HW―A2、メインシステムの制限の解除を確認………》
《宇宙航行モードに移行…………ジェネレーター出力正常値を維持、メインブースター起動出来ます》
メインシステム通知を受けた私は背中のブースターを起動させ見知らぬ星に想いを馳せながら格納庫の端を蹴り宇宙空間に飛び出した・・・・。
◇◆◇◆
《降下目標惑星の重力圏への到達を確認………》
宇宙船から飛び出してから数時間、久し振りの宇宙航行だったので手間を有してしまったと心のなかで愚痴を吐き出す。
「了解、惑星の軌道に乗り大気圏に突入を開始する。」
身体が惑星の重力を纏い、回転に引っ張られ始めるのを尻目に私は惑星の地表の景色に思わず見惚れてしまう。
繰り返された戦争によって失われた正常な大気と青い海が確かに私の眼前に広がっていた。
ガガーリンが見惚れた地球はやはり青かった………。
さぁ、行こうか!!
私の第二の人生の大舞台へと!
《惑星の熱圏へ突入開始………境界線カーマンライン突入まで残り30秒前》
メインシステムが通告行ったのを確認し、降下準備を開始する。
「着陸用姿勢制御シーケンスを開始………降下スラスターを起動。」
身体が地表に引っ張られ、速度が上がりながら熱を帯び始める。
《システムより警告、表面温度1500℃を突破………自動防御シールドを展開します。》
私の身体が薄く透明な青い膜に包まれ、熱と摩擦音が和らぐ。
体勢を崩さないように身動ぎしながら着陸地点を見定める。
目視で見るに広大に広がる大海原に大小様々な島嶼が点在する惑星の様なので文明が構築されているとしたら一番大きな島に存在するかもしれない。
四肢のスラスター推力を慎重に一番大きな島に着陸できる様に調整しながらゆっくりと降下していく、風と摩擦熱の光で良く見えなかったが生活の痕跡と思わしき白煙が見えたので確実に知的生物が文明を築いていると確信できる。
・・・・となると私の立ち位置は宇宙人か? それとも侵略者か?
どちらにせよ私は相手方にとって脅威になり得ると判断されて戦闘になりかねない…………どうしたものかな………。
《着陸地点修正………森林地帯への着陸シーケンスを再設定》
私の心配をよそにシステムは着々と着陸までの支援を遂行して行く。
「着陸地点まで凡そ53秒前、スラスター推力上昇………姿勢制御シーケンスを自動制御から手動に変更。」
目と鼻と足先に針葉樹らしき木々がスラスターの爆風で小枝を撒き散らしながら靡く。
《カウントダウンを開始。 ………30秒前……25……20………15………10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。》
「スラスター推力最大ッッッ!! 」
四肢から噴出される爆炎を伴いながら落下速度を殺しながら地面にやや斜め気味に足の踵から接触し、腐葉土特有の柔らかさの地面を抉りながら着陸地点から数十メートル前後の2本線を作り、ようやく新天地に私は足を踏み入れた。
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