27 : ボスラッシュ遊園地 - 02 -
「――観覧車乗りたいんだっけ」
「うん」
つばめが稜に「遊園地行きたい」よりも先に「観覧車乗りたい」とLINEを送っていたのだ。
「他は?」
「あんま来たことないから、わかんない」
「だと思った」
何故か自信満々に稜はそう言うと、つばめの目前に先程入園口でもらったリーフレットを広げた。
稜が顔を寄せると、彼の柔らかな質感の髪がさらりとつばめの目の前で揺れる。
「今ここで、観覧車ここ。こっちに行くと乗り物がいっぱいあるけど、レストランとかから遠くなる。昼前はかなり込むらしいから、時間ずらした方が無難そう」
つばめの広げたリーフレットを指さしながら、稜が淀みなく説明する。
(もしかして常連?)
勝手に自分と同じくインドアだと決めつけていたつばめは、ちらりと稜を見た。つばめの視線に気付いた稜が、すらすらと説明していた言葉を止める。
「何?」
「よく来るの?」
「はあ? 俺が?」
あり得ない、という顔をして稜がつばめを見下ろした。
――と言うことは、張り切ってくれていたのだろう。
心が騒いで、勝手に体が動いた。
また説明に戻った稜の体に、つばめは寄りかかった。
「!?!」
ぺたっとくっつくつばめに、稜の体が一瞬にして固まる。
「行こ」
「?!!」
硬直した稜の腕を引き、つばめは遊園地の奥に向かって歩く。稜はふらふらとした足取りで、つばめに手を引かれながらついてきた。
***
「観覧車は何回? いつ乗りたい?」
何回も同じアトラクションに乗る、という頭がなかったつばめは驚いて稜を見た。
「……一回。最後でいい」
「ふーん。じゃあ、七時ぐらい?」
「そんな遅くまでいないでしょ。四時ぐらいかな?」
既に一時間三十分待ちだったレストランを諦め、先にアトラクションを楽しもうとしていたつばめは、簡単にそう言った。
「……早くない?」
「そう? 今お昼だよ?」
一つのアトラクションは、長くても十分程度だ。待ち時間があるため、全部とはいかないだろうが、四時まで遊び呆ければそこそこは乗り尽くせる気がする。
「……夜に、イルミネーションのショーとかもやるみたいだけど」
「へえ。見るの?」
遊園地に来た=アトラクションで遊ばなくては、という意識になってしまったつばめは、逆にアトラクション以外の頭が抜けてしまっていた。
「見るの! 俺の! Aランクの昇格祝いも兼ねてるから!」
稜が叫ぶ。つい先日、稜のスポラトゥーンのランクがAランクに上がった。とは言え、気を抜けばすぐまたBランクに落ちてしまうのだが、Cランクでくすぶっていた頃に比べれば快挙である。
「そうだったんだ」
「そうだったんだよ!」
稜が地団駄を踏む度に、周りから注がれていた羨望の眼差しが、どんどんと可哀想なものを見る目に変わっていく。
「わかった。じゃあショー見て帰ろ」
つばめが頷くと、稜は渋々納得したかのように頷いた。
あれもこれもとアトラクションを回っていると、瞬く間に時間が経っていた。当初予定していた四時はとうに過ぎていて、つばめと稜が観覧車に乗ったのは五時半だった。
係のお姉さんに見送られ、動いている観覧車に足早に乗り込む。
イカ人間を動かすのは得意でも、現実の運動となれば別だ。観覧車に乗り込むタイミングは、大縄飛びの時のように緊張した。
観覧車の窓から外を見ると、夕日が山の端に引っかかっていた。夕日に照らされた山の形が、くっきりと線となって空と地上を分けている。
しばらく経って観覧車がより上空に上がると、つばめは声をあげた。
「すごい! 人がゴミのようだ!」
「……まさかそれが言いたくて、観覧車に乗りたかったとか言わないよね?」
おばあちゃんの家で見ていたアニメ映画で、サングラスをかけた大佐が言っていた台詞だ。向かいの席に座った稜も知っているらしく、呆れた顔をしてつばめを見る。
それが言いたくて――という言葉で、今日の目的を思い出したつばめは、外を見るのを止めて稜に向き直った。
つばめを好きにさせていた稜は、彼女が自分の方を見たことに気付き、不思議そうな顔をする。
「……稜君は、何か言いたいことない?」
「は? ……え、パルスとかですか?」
「そういうことじゃなくて」
そういうことではないが、どういうことか口で言うのも難しかった。
だからつばめは無言で手を伸ばす。
膝と膝が辺りそうなほど、狭い観覧車の中だ。手を伸ばせば簡単に、膝に置いていた稜の手に触れることが出来た。
かさついた指先が、稜の手に留まる。
稜は目を見開いて、つばめを見た。
緊張の糸がピンと張る。
息も詰まりそうな二人きりの空間で、つばめは背後の夕日ほど顔を赤くして、稜を見る。
「――なんか、言うこと、無い?」
緊張から声が掠れた。







