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26 : ボスラッシュ遊園地 - 01 -


「は? あのおイケ、まだ告ってないの?」


 お昼休み――スティックパンを袋から取り出しながら、乃愛が呆れた声を出す。

 つばめはプチトマトを口の中に入れる。


「止めときな止めときな。誕生日に友達と遊んだ後迎えに来るくらい彼氏面するくせに、付き合う時に告白もしない男は、喧嘩してもごめんとも言わないし、いい年してもプロポーズもしない」


 まるで見てきたような言い様だ。

 つばめはプチトマトを飲み込むと、おずおずと口を開いた。


「……私から、言ったっていいのは、わかってる」

「でも言わないじゃん」


 つばめの前の席に座る乃愛が、間髪入れずにそう言った。つばめを見透かすように、甘く垂れた目で真っ直ぐに視線を注がれる。


「つまりそんだけ、言ってほしいってことじゃないの」


 乃愛に言われ、自分の頑なさに気付く。


 ――つばめの心にあるものが、きっと稜の心にもある。


 互いにそれはわかっているのに、互いに一歩踏み出せずにいた。今の居場所は心地よくて、安心する。前進もなければ、後退もない。


 けれど、このままでいいとも思えなくなってきた。


「つばめはさ、省エネじゃん」

「?」

 いつの間にか地球に優しくなっていたらしい家電つばめは、首を傾げた。

「外に余力向けたくない感じ。わかるもん。あの男と付き合うと、絶対面倒。おイケ自体も面倒だし、周りがまた面倒。学年違うってことは、今後もずっと見知らぬ女を気にし続けるってことでしょ? 絶対疲れる」

 乃愛の言う未来が簡単に想像出来て、つばめは乾いた笑いを漏らす。


「よし。止めとこ止めとこ。ゲームなら、私が後ろで見ててあげるから」

「乃愛、寝るじゃん」

「寝てもいーの。私は許されるの」

「許すけど」


 それどころか、嬉しいけど。

 スティックパンをつばめの口に押し込む乃愛を、つばめはじっと見つめながら、もぐもぐとパンを噛んでいく。


 稜は乃愛が言うほど、悪いところばかりじゃない。


(……私を、大事にしてくれてる)


 この一点だけは、絶対に断言できる。


(なんで、言えないんだろ……)


 なぜ、自分でも言えないことを、稜に言ってもらいたいのか。


 その答えは、二人にしかないと思った。


 だからつばめは考え抜いた末、その夜、稜にLIMEを送った。




***




「つばめ、ウメッキーがいる!」


 キラキラと目を輝かせ、稜が梅の木をモチーフにしたゆるキャラを指さす。ゆるキャラの着ぐるみは稜の声を聞き、こちらに向けて手――枝を振った。


 冬休みに入る直前の日曜日、つばめと稜は二人で遊園地に来ていた。


 基本的につばめも稜も、インドアだ。出かける場所と言えば、学校かお互いの家。二人で何処かに出かけたことも、出かけようという話になったこともなかった。


 これまでは、それでよかった。


 だからつばめは、これからの話をするために、自分達に一番似つかわしくない場所を選んだ。遊園地だ。インドアなつばめにとっては、対極の選択とも言えた。


 LIMEで稜を遊園地に誘うと、彼は渋るかと思いきや、二つ返事で了承した。既読がついて三秒も経っていなかった。


「……寒い」


 海が見えるのが売りの遊園地は、冬の潮風がびゅうびゅうに吹き荒れて、予想以上の寒さだった。朝からご機嫌すぎて寒さ知らずの稜と違い、つばめはずっとダウンジャケットの中に顎と手を突っ込んでいる。


 ガタガタ震えるつばめを見た稜は、不機嫌になるのも忘れたように彼女の手を引いて、ベンチに座らせた。隣にある自動販売機で、あったか~い缶のミルクティーを買い、つばめに持たせる。


 人が多すぎて座る場所がなかったのか、稜はつばめの斜め前に立った。丁度その方向から風が吹いていたようで、寒さが少し和らぐ。風避けに思わず顔を寄せ、暖を取る。


「別に張り切ってないから」


 何も言っていないのに、稜は不貞不貞しい顔でそう言った。


 ベージュ系の混色のセーターの上に、オーバーサイズの黒いコートを羽織った稜は、文句なしに格好良かった。先程からずっと、周囲から視線を注がれているのがわかる。


 その視線は稜をなぞった後、つばめにも注がれる。あの男の隣に立つのはどんな女だろうかと、色んな人がつばめを品定めをしていく。


(――稜君の隣にいるってことは、そういうことだ)


 つばめがぼんやりと稜を見上げていると、稜がつばめの肩を抱いた。

 突然引き寄せられ、目を見開く。


「あ、すみません」

「いえ」


 稜がつばめを抱き寄せたまま、こちらに頭を下げた若い男性に返事をした。


 元々つばめの隣に座っていた人が、いつの間にかいなくなっていたようで、子連れの若いパパが座りに来ていたようだ。その際に、彼が背負っていた大きなリュックがつばめに当たりそうだったのを、稜が守ってくれたらしい。


「こちらこそすみません。もう行きますんで、ゆっくり座ってください」

「えっ、そんな――ああっ、コラ! すみません。ありがとうございます」


 片手でベビーカーを押し、片手で走り出そうとする小さな子どもの手を引っ張りながら、若いパパはつばめに頭を下げた。奥から、抱っこ紐をした若いママが近付いてきている。


 つばめは頭を下げて、稜とその場を離れた。




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イメージイラストはnaruna*様に描いて頂きました。
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