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10 : 駆け出せヘイトの檻 - 01 -


「稜が勘違いさせちゃったかもしれないけど……東崎さんみたいな子には、稜は手に負えないと思うよ」


 スポラトゥーン三昧だった夏休みの開けた、新学期。


 登校から一週間後――下校前に昇降口で呼び止められたつばめは、人気の無い校舎裏に連れて来られていた。


(こんな漫画みたいなこと、本当にあるんだ……)


 思わずつばめは、ははっと乾いた笑いを漏らしていた。


 前にいるのは、三年の先輩が二人、二年の同学年が四人の、計六名だった。全員、教室で堂々とTokTik用の動画を撮れそうな、一軍女子勢である。

 小さな顔に、艶やかな黒い髪。人形のように細く長い足が、短く折られたスカートから覗いている。


 稜自身が「彼女はいない」と言っていたため、この中に恋人がいることはあり得ない。だがそれは現在の話で、過去や未来においては、どうだかわからない。


 夏休み中、ほぼ毎日のようにつばめは稜の家へ通った。おかげで、稜のランクはCからBに上がり、そしてまたCに落ちた。


 新学期が始まってからもつばめは、時間がある時は稜の家へ行っていた。

 その際に、稜自身が二年の教室まで迎えに来ることは無かったが、どこかで二人でいるところを見られたのだろう。こうして、女生徒にお集まりいただける程度には、注目されていたらしい。


「何笑ってんの」


 つばめに、女子達の目がスッと細められる。つばめは更に顔を引きつらせた。




***




「つばめが呼び出された!?」


 稜は目を見開いて、一年の教室へやって来た上級生――川口かわぐち 乃愛のあを見た。乃愛は以前、稜がつばめを教室へ迎えに行った時、隣にいた女生徒だ。


「さっきつばめを見つけたから、教室から声かけようとしたら、何人かの女子に連れてかれちゃったんだよね。あれ、どうせ坂ノ上君絡みなんでしょ? どうにかしてほしいんだけど」


 垂れ目の乃愛が冷ややかに稜を睨む。稜は目を見開いた。


 顔見知り程度でしかないにもかかわらず、自分に対して妙に親しげな振る舞いをする女生徒が存在することは知っていた。それは同学年よりも、上級生に顕著に表れる傾向だ。


 上級生の男子にやっかまれるのが嫌で、そういう女生徒がいそうだと稜はすぐに迂回するため、遭遇率は高くない。


 だがもし、そんな女生徒達がつばめを連れて行ったとしたら――どうなるだろうか。


「稜から離れてよ!」

「はあ。わかりました」


 ~完~


 稜の脳内で、ひとつの舞台が盛大に幕を下ろした。これ以上もそれ以上も無い、見事なまでに完璧な幕引きだ。


 稜は慌てて教室から飛び出した。




***




「姉ちゃん聞いて無い! Sランクとか聞いて無い!」

「な……あんた、いっつもやってんじゃん! なんでそんなボコスカ負けてんのよ!」


 ――時を同じくして。

 つばめを呼びだした女生徒の家のリビングで、つばめはコントローラーを握っていた。


 女子は、女子が一番怖い。

 彼女達に呼び出されたつばめは、すぐにひれ伏して、穏便に済ませたかった。目立たず、平穏に生きるにはその道しかないとわかっていたにも関わらず――つばめはこうして、悪あがきをすることにした。


「Sランクになんか勝てるわけねえじゃん!」

「すげえ……手、まじで動いてる」

「絶対チートだと思ってた」


 つばめを呼びだした女生徒の弟と、その友達らが、つばめを囲んで泣いたり、怒ったり、感動したり、笑ったりしている。


 女生徒達に呼び出されたつばめは――気付けばこう言っていた。


「――じゃあ、あの。この中で一番ゲームが上手い人、誰ですか?」


 ゲームなんてしない、という女生徒達の中の一人が「弟がインクのやつやってるけど」と口にした。それを耳にしたつばめは、手をぽんと叩いて、提案した。


「いいですね。それで勝負しませんか。負けたらお役御免だろうし――もう彼には近付かないので」


 つばめの提案に、女生徒達は訝しみながらも乗った。

 それで話がつくのなら早いと思ったのだろう。


 そうして訪れた彼女の家のリビングは――今やジャングルよりもうるさい。


「まじかよ! やっべえ!!」

「見た?! 今一人で全部やってたんだけどこの人!」

「おい次、1VS1でやってもらお!」

「swotch、八台集まんないの!? プラベやりたい!!」

「なあ! ハヤト呼べよ!」

「タケにも見せてやろ!」


「ちょっと! もっとゲーム強い知り合いいないの!?」

「今LIMEしてるから! 待って!」


 既に女生徒のリビングには、十人以上の人間集まっている。

 女生徒の弟の友人が貸してくれたswotchのコントローラーを構えたまま、つばめは事の成り行きを静観している。


 しばらくすると、チャイムが鳴った。


「ち、ちーっす……! 呼ばれて来たんすけど……」


 女生徒に腕を引かれ、少しばかり誇らしげな顔でリビングに顔を出したのは、つばめもよく知るマッツン――松雪(まつゆき) 一冴(かずさ)だった。


「は!? つばめ先輩!?」


 呼び出された一冴はコントローラーを持ったつばめを見ると、一瞬にして仰け反った。


「マッツンが次の挑戦者?」

 口角を上げて迎え入れるつばめに、一冴は逃げ腰だ。


「無理無理無理無理無理」

「真剣勝負、しますか」

「無理無理無理無理無理無理無理!!」


 毎日ボッコボコに負けてんのに、今日いきなり勝てるわけねえじゃん! と一冴が踵を返そうとするも、女生徒は一冴の体をがしっと掴んだ。


「マツ! あんた、スポラなら勝てるって言ってたじゃんか!」

「んなん、つばめ先輩以外の人間想定してたに決まってんでしょうが!! あんなんに勝てるわきゃねえっすよ!!」


 あんなん呼ばわれしたつばめは、静かに右にずれた。左には、swotchが置いてある。


 一冴はボサボサの髪の毛を振り乱し、悲鳴を上げながら座布団に座った。





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イメージイラストはnaruna*様に描いて頂きました。
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