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三 王の決定

 まだ二十二である若き王、朝比奈尊は、その報告に驚愕を露わにし、動揺に腰を上げた。

 しかし瞬間、鋭い頭痛を感じて、椅子に座り込む。

 尊にとって、預言の魔女への扱いは、まさに青天の霹靂だったのだ。

 なんてことだ!

 尊は伝令官が目の前にいるのも忘れ、奥歯を噛み締める。

 預言の魔女が国を呪った?

 いや、それより、彼女は未来の救国の英雄なのに、なんてことを・・・。

 

 世に流布する魔女のイメージと、王族に伝わる『魔女』の意味は違う。

 市井に広がる預言の魔女のイメージは、時と共に恐怖に塗り替えられていってしまった。

 預言は死に際のものだったので、預言者の真意はわからない。

 しかし、初めに伝えられた意味は、今も王家に伝わる『救国の英雄になるもの』だったはずだ。

 今や見る影もなく、『災厄を連れてくる未知の力を持つもの』と捉えられてしまっているが。


 尊は痛む頭を右手で押さえて、怒りに左拳を震わせる。

 あまりのことに言葉もなかった。

 まさかずっとそんなことが行われていたとは。知らなかった。

 一体誰の指示で・・・?

 先王が毒殺され、王位を継いで四年。

 父の頃も含めて、十年も、救国の英雄になるかもしれない少女が虐げられていたのに、気づけなかった自分が情けない。

 民の持つ恐怖心を未知の力に対するものとして、しかたないとしてきたのが悪かったのか。

 それとも、先王の頃より仕えてくれている担当官を信じ、一任していたのが悪かったのか。

 いや、もしかすると———。

 どうにも違和感がある。

 私も先王も指示していないことが勝手に行われる。誰かの手引き?

 担当官か。伝令官か。何者かが私の意に沿わないことをしているとしか思えないな。

 思えば、先王の毒殺の件も、未解決のままだ。

 どうにもこの国に不穏な影があるな。探らせるか。


 ・・・とにかく、こうなってしまった以上、後悔しても遅いだろう。問題点を探すより、まずは解決策を講ずるべきだろう。

 預言の魔女には国を好きになってもらわなければならない。

 彼女が自ら決意してくれればいいのだが。

 そうでなくとも、弱みの一つでも作ってもらわなければ・・・。

 人と関わらせるしかない。民に情を持ってもらう。

 それが将来国を救うことにつながるのなら、民を利用するのは悲しいことだが、王として割り切らなければ。

 不思議な力を使う彼女を野放しにもできないな。特に今は国を恨んでいるようだし。

 どこで交流させるのが最適だろうか。

 人避けをして、執務室に籠り、思案に耽る。

 王として返答を求められている。

 一刻も早く解決しなければならない問題だ。

 預言の魔女への認識を今更変えるのは無理だろう。


 尊は額に組んだ手を当て、執務机に肘をつく。

 ずいぶん長いこと、その姿勢で考え込んでいたらしい。

 肘が鈍い痛みを訴え、ピリピリと痺れる。

 だが、そうしただけの成果は出た。

 これで正しいのか合っているのかはわからない。

 いずれ結果は出るだろうが、それまでは不安を抱えることになるだろう。

 あとは・・・具体案を練って、命令を下さなければ。

 さて、魔女殿はどう出るだろうか?

 それから、担当官吏や、研究所への処罰も考えなければならないだろう。

 預言の魔女への扱いは私の監督ミスでもあるが、王としてそれを認めるわけにはいかないし、問題が発覚した以上、何もしないわけにもいかない。

 彼らは指示に従っていただけなのに、心苦しいが・・・。


 尊は万年筆のペン軸で、コンコンと机を叩き、命令する事柄を脳内でまとめていく。

 しばらくそうしていた尊は、おもむろに命令書を取り出し、指令を認め始めた。

 そのペン先はもはや迷いなく、滑らかに文字を綴っていく。

 尊は王として決めた。

 それはある意味で犠牲を払った非道な方策であったけれど。


 預言の魔女を外に出す。

 正体を隠した状態で学校に通わせる。

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