偽りのマジックピエロ
魔女は魔法が使えて当たりまえ。なら、魔法の使えない私は、いったい何者なのだろう。
使い古された化粧箱を開いて、白粉を顔に塗りつける。メイクで素顔を覆い隠し、カラフルな服と奇抜な二股帽子に身を包めば、私は愉快で珍妙な道化へと生まれ変わるのだ。
手鏡に映る、白く塗りつぶされた顔を見るたびに、私が私じゃないと錯覚できる。この瞬間だけは、惨めで情けない自分を忘れられた。
そして、今日も私は滑稽なピエロを演じるのだ。
町の中心にある広場。その片隅に設けられた小さなステージで、私は集まってくれた数人の観客たちに向けて、高らかに叫んだ。
「さぁ! タネもシカケもありません。楽しく愉快なマジックショーが始まるヨ!」
※
「――これにて本日のショーは終わり。また会う日まで、さ~よ~なら~」
体をくねらせてお辞儀をする私に、観客たちの間からパチパチと拍手が飛ぶ。
「いやぁ、見事なマジックだったぜ」
「なかなかに面白かったな。わざわざ足を止めて正解だったよ」
「次も楽しみにしてるから、また笑わせてくれよな」
「えへへ、うれしいなぁ。ありがとうございます~」
観客たちからの賞賛の言葉に、私は大げさに喜びながら何度も礼をして答える。
「またね~、ピエロさん!」
母親と手をつないだ女の子に、手を振って返す。楽しそうに笑う彼女の背中を見送った私は、その場でホッと息をつく。今日もなんとかショーを成功させることができた。
「ふぅ。今回もお客さんが来てくれた。……まぁ、ちゃんと見ていてくれたのは7人だけだったけど」
ショーを始めて約2ヶ月。はじめは見向きもされなかったけれど、今では足を止めてくれる人も増えた。
――でも、まだ足りない。もっとみんなを引きつけられるパフォーマンスを考えないと。
私はそう心の中で頷いて、路上に置いていた小瓶を手に取る。中からはカランカランと小銭が触れあう音がした。
「今日は銀貨1枚に銅貨3枚か……」
いただいた投げ銭に向かって手を合わせ、鞄にショーの小道具と一緒に詰めて立ち上がる。
ちょうど、現時刻を告げる時計塔の鐘の音に顔を上げれば、空はすっかりと夕焼け色に染まっていた。
私は人通りもまばらになった広場を後にする。沈みかけの夕日が、ひどく物寂しい色をしているように見えた。
※
ショーを終えた後、必ず立ち寄る場所がある。
広場を出てから、薄暗い裏通りに入って数分。その先にひっそりと広がるそこは、噴水とベンチがあるだけの小さな公園だ。
人目のつかない場所にあるためか、そこには野良猫の他には何もいない。よって、誰かから見られる心配はなかった。
私は色の剥げかけたベンチに帽子と鞄を置くと、よたよたと噴水の側へと近づいて、両手を中に差し入れる。そうして掬うように水を取り出して、顔のメイクを落としていった。
公園の水を私的に使うことはよろしくないとは理解しているが、他にメイクを落とせる場所はないのだ。
白粉が噴水に混ざらないよう最大限の注意を払いながら、メイク落としを終わらせる。
鞄から取り出したタオルで濡れた顔を拭いていると、ふと噴水に映る女の顔に目がとまった。
疲れているのか、荒れた肌に垂れた目尻。頬に浮かぶ野暮ったいそばかす。金色に染めた髪も、今は色が落ちてくすんできている。
冴えない自分の姿を前に、深いため息をつく。これ以上、素顔を晒しておくのはごめんだ。
私は再度、周囲に誰もいないことを確認して、用意していた普段着に着替えてしまうと、フード付きの黒い外套を羽織る。目深に被ったフードによって、素顔を見られる心配はない。
噴水に映るフード姿の自分にフッと微笑むと、再び暗い裏通りを歩き始めた。
この時代において、大陸に存在する2つの大国の1つである王国。その中心に位置する王都と西部の農村を結ぶ街道の間に位置しているこの町は、古くから多くの人や物が行き来し、都会と田舎を繋ぐ交易の町として発展してきたのだとか。
円形状の町を南北に二分するようにして伸びる大通りには、町の中心部ということもあり、様々な店がずらりと建ち並んでいる。なかでも、飲食店が並んだエリアからは美味しそうな匂いが漂ってきて、道行く人の胃袋を刺激していた。
腹をくすぐる誘惑に、しかし私は人混みの間をすり抜けながら、早足で大通りを駆け抜ける。そうして、飲食エリアの端っこにある目当ての店にたどり着いたとき、ちょうど店主のおばさんが閉店の準備を始めようとするところだった。
「おっと、あんたかい。もう少しで店じまいするところだったよ」
滑り込みでやって来たフード姿の私を見て、気さくに声をかけてくる彼女。私は鞄の中から、今日のショーでいただいた銅貨を2枚取り出すと、小さく口を開く。
「あ、あの、黒パンを2つ……」
「いつものね。ちょっと待っててちょうだい」
そう言って、おばさんは店の奥に売れ残りの黒パンを取りに戻る。
この町には多くの飲食店が存在するが、基本的には値が張る店ばかり。だけど、ここのパン屋は高価なものから安価なものまで、幅広いものを売ってくれる。また、閉店間際になると売れ残りのパンを半額で買うことができる点も魅力的で、節約生活を送る者にとってはとてもありがたいサービスだ。そのため、こうして毎日のように通っては、売れ残った黒パンを買うことが私の日課となっていた。
「はい、おまちどうさま。いつもご贔屓ありがとね」
「いえ。こちらこそ、いつもありがとうございます」
代金の銅貨2枚を支払い、黒パンが2つ入った袋を受け取って店を出る。
さっそく私は歩きながらパンを1つ取り出すと、我慢できずに夢中でかぶりつく。
食べ慣れた味の黒パンはちょっと堅いが、これはこれで歯ごたえがあっていい。一個が大きく、腹持ちもいいため満足感もある。……正直、毎日同じものばかりを食べていると飽きもくるけれど、贅沢は言っていられない。
ふと私は顔を上げて、近くにできた人の列に目を向ける。こんな時間にもかかわらず行列の絶えないその店は、この町で最も人気なスイーツの店だ。ときおり広場でも出張店を開いていて、次々とスイーツが売れていく光景をよく目にする。そのたびに、ショーを披露しながらもつい視線がそちらへ動き、よだれが垂れそうになっているのは秘密だ。
なかでも、生地の上に溢れんばかりのカスタードクリームが乗ったクリームパイは絶品だと評判で、町の名物にもなっているらしい。
「でも、あれ1個分の値段で半額の黒パンが10個食べれるんだよね……」
とてもじゃないが、今の所持金で手を伸ばす勇気はない。この生活のどこに、スイーツが入る余地があるというのか。
むしゃむしゃと残りの黒パンを勢いよく口に放り込み、危うく喉に詰まらせそうになりながら、賑わうスイーツ店の前を通りすぎて帰路につく。
そうして、我が家のある北部の町外れにたどり着いたとき、すでに日は完全に落ちていた。
寂れた空き家が連なる地区にある、家と言うよりあばら屋と言った方が正しい一階建ての建物が、今の住まいだ。
開けるとキィという耳障りな音を響かせる戸を引いて、中に入る。埃っぽさとかび臭さが鼻をかすめた。
このオンボロ家に住み始めて2ヶ月と半月だろうか。町の片隅に建つこの建物は、元は何かの作業場だったらしい。それを、今の一軒家に改装したのが数十年前だとか。
この家に住むにあたって、土地の所有者には許可を得ている。しかも、ほとんどタダ同然の価格で使わせてもらっている以上、多少のボロさに関しては目をつむるしかない。
家具は元からあった中古品。壁には穴が開いた痕跡が残り、水道は通っていない。
初めは「こんな場所に住むなんて」と思ったが、一度寝泊まりすれば次第に慣れてくるもので。まさに住めば都というわけだ。
「ふ~、今日も疲れた~。やっぱり我が家は最高だな~」
盛大な独り言とともに、荷物を放り出してソファーに飛び込む。衝撃をほとんど吸収しない座面に寝転がり、ぐいと体を伸ばす。ふと、涼やかな感覚に顔を上げてみれば、以前補強したはずの壁にまた穴が開いていて、夜の風が静かに流れ込んできていた。
「……明日も早いし、もう寝よっと」
補強のやり直しを明日に回して、ソファーに仰向けで横になる。そのまま目を閉じて、眠ろうとした私はしかし……。
「眠れない……」
――たまに、どんなに疲れていても寝付けない日がある。
私は体を起こすと、毛布代わりにしていた外套を羽織ったまま外へ出る。近くに置いていたハシゴに手をかけて家の屋根に上ると、落ちないように注意しながら腰を下ろした。
今日のように眠れない日は、いつもこうして空を眺めながら、眠気が訪れるのを待つ。しかし、そういうときに限って目が冴えてしまうのもよくあることだ。
見上げる夜空は深い紺青に染まり、星々は相も変わらず儚げな輝きを放っていた。
どれほど時が過ぎようと、変わることのない星空。町を越え、どこまでも続く空の元、それを見上げる人はみな同じものを眺めているのだろう。
「……みんな、元気にしてるかな」
私は遠い故郷に思いをはせる。
※
魔女は魔法が使えて当たり前。だから、魔法を自在に扱えるようになって、いつの日か立派な魔女になるんだ。――そんな、強い決意の言葉を何度も聞いた。
故郷の里にいたころ、同じ年頃の女の子たちはみな、夜遅くまで魔法の修練に励んでいたことを覚えている。なぜならここは魔女の里であり、一人前の魔女になることがみんなの夢であったからだ。もちろん、私も例外ではなかった。
来る日も来る日も、学び舎で魔法について学ぶ毎日。
周りのみんなが必死に魔法の修練に励むなか、私は何をしていたのかと言えば――ひたすらにマジックの練習をしていた。
修練の場にも出ず、ひとり自室に籠もっては新しいマジックを考えて試す日々。けれど、決して遊びほうけていた訳ではない。
なぜなら、私には魔法が使えないのだから。
その事実に気付いたのは、幼少期に学び舎へ通い始めたころだったか。
周りの子たちが次々に初級の魔法を習得していくなか、私はどれほど練習しようと魔法を発現させることができずにいた。家族や友達は「きっといつか使えるようになるよ」と励ましてくれたけれど、いつまでたっても魔法は使えないままだった。
魔法を扱えて初めて、少女は魔女になれる。魔法が使えない魔女は、ただの落ちこぼれ。
――そんな落ちこぼれの私が、苦悶の末に編み出したもの。それが、相手の目を欺いて魔法に見せかける『マジック』だった。
しかし、所詮はただのマジック。本物の魔法には何一つ及びはしない。
最初のうちは周りの目をごまかせたマジックも、いつしか見破られるのは時間の問題だった。
私は、魔女になれない『なりそこない』だと呼ばれるようになった。
悔しくはあった。けれど、魔法が使えないことは事実だから、言い返すこともできなかった。だが、何よりも耐えがたかったことは、落ちこぼれの自分を信じてくれた家族や友達の期待を裏切ってしまうことだった。私が魔法を使えないばかりに、みんなの笑顔が消えてしまうことが何より辛くて、悲しかったのだ。
――だから、飛び出してきたんだ。
魔女の里は、普通の人間には立ち入ることのできない森の奥深くにある。
逃げ出すように里を出た私は、暗い森をひたすらに走った。
魔法が使えない自分は、当然箒にも乗れない。徒歩で、視界も足場も悪い森を走ることは、ずっと部屋に引きこもっていた私にとって、あまりにも過酷なものだった。
何度も何度も倒れそうになりながら、それでも歩き続けて……ようやく森を抜けて辿り着いた場所こそが、今いるこの町だった。
やっとのことで見えた希望。私は舞い上がりそうな気持ちで町へと繰り出した。
初めて見る外の世界は何もかもが新鮮で……しかし、現実はそう甘くはなかった。
人間世界から隔離された里の中だけで生きてきた私に、行き場などあるはずがなく。人とのつきあい方もよく知らない、どこの馬の骨ともしれない私にできる仕事などありはしなかった。
そして何より驚いたことが、外の世界の人間が魔女に対して持つ悪印象だ。
里のみんなが憧れた魔女や魔法は、悪魔に類する存在である。そんな想像にもしていなかった悪評と偏見に、危うく魔女の里出身であると明かしかけていた私は、深い虚脱感とともに、その場を後にするしかなかった。
逃げ出した外の世界にも居場所はない。突きつけられる現実に、途方にくれていた。
そんな私に唯一できたことは――ピエロとして人を笑わせることだけだった。
生きていくために始めたことだ。魔法が使えない落ちこぼれの私には、選べる道も、権利もない。
ダボダボで奇妙な服を着て、得意のマジックを披露する。
退屈そうな人の目を引く妙技を披露し、暗い顔をした子には優しく声をかける。
ときおり滑稽な仕草でおどけてみせれば、道行く人がクスクスと笑った。
こんな私の姿を見て、人は惨めだと笑うのかもしれない。けれど、自分が無力なばかりに、みなの笑顔を奪ってしまっていた私にとって、少しでも誰かに笑ってもらえるという事実が、私の心を満たしてくれた。
ピエロとしてなら、ここにいていいんだと、そんな気にさせてくれたのだ。
「今の私は、昔とは違うんだから……」
私は手のひらを空へと伸ばして、静かに呟く。
夜空に浮かんだ星々は、変わることなく瞬いていた。
※
翌朝。屋根の上で眠ってしまっていた私は、落っこちなかったことに胸をなで下ろす。
昨日買っておいた黒パンを素早く口に放り込み、穴が開いた壁の応急処置を終わらせた後、さっそく本日のショーの準備に取りかかる。
ピエロの衣装に着替え、ショーで使う荷物をまとめた私は、外套を羽織ると家を出た。
広場へ向かう通り道は、もはや見慣れた景色だ。私は目深に被ったフードの下から、おもむろに町の様子を眺める。
少し遅めの朝にもかかわらず多くの人が往来する通りはしかし、なんだか少し暗いように感じられた。ゆっくりと町を歩いていると、町人たちが話す声が聞こえてくる。
「……なぁ、知ってるか? 西通りのクリステアさん、夜逃げしたらしいぞ」
「え、それ本当なの?」
「あぁ。なんでも事業が失敗して、会社が倒産したとか。おかげで多額の借金を背負っちまったらしい」
「最近多いよな、そういう話……」
「近頃、国の西側でなにやらドンパチやってるって噂だ。その余波が迫ってるのかもしれん。俺たちだって他人事じゃないぞ」
「えぇ。もし、うちの旦那も失業なんてことになったら……」
「みんな不安なんだよ。いつ自分達の身に降りかかってくるか、わからないんだからな。まったく、生きづらい世の中になっちまったもんだ」
あちこちを飛び交う暗い話題。倒産とか失業とか、よくわからないことばかりだけど、町の人たちからは強い不安が伝わってくる。けれど、私にはどうすることもできない。
――唯一できることといえば、みんなを少しでも笑わせることだけだ。
気付けば、空はどんよりとした暗雲に覆われている。
「雨が降らないといいけど……」
そんな一抹の不安をこぼしながら、私は早足で広場へと向かうのだった。
「人が多い……」
いつもの広場に着くなり、私は開口一番に声を漏らした。
時刻はちょうど昼前。普段なら人通りもまばらな広場には、しかし今は多くの人で溢れていた。ざっと見渡しただけでも、普段の3倍はいるように感じられる。ひょっとすると、祝日か何かなのだろうか。広場にはいつもより多くの出店が立ち並んでいた。
私はステージの裏側でショーの準備を進めながら、広場に集まっている人たちを見やる。心なしか、みな浮かない顔をしているように感じられた。ふと、広場に向かう道中での町人たちの会話を思い出す。
「……ダメダメ。こういうときこそ、みんなを笑わせられるように頑張らないと!」
私は首を振って、自分に言い聞かせるように呟く。手鏡を取り出して、不安げな素顔を覆い隠すようにメイクを施していく。
鏡に映るその顔は白く塗りつぶされ、おどけた笑みだけが浮かんでいた。
「大丈夫。今の私は、ボクは、明るく愉快なピエロなんだから……」
大勢を前にした緊張を、唾といっしょに飲み込む。
そして、羽織っていた外套をその場で脱ぎ捨てると、ステージに飛び出して声高に叫んだ。
「さぁさぁ、楽しいショーが始まるよ!」
「さて、何の変哲もない玉が、浮かび上がっていくよ! ホイ!」
私が掛け声を上げると、手のひらサイズの玉がふわふわと宙に浮かび上がる。同時に、集まった観客たちが感嘆の声を上げた。
「すごい、本当に浮かんでる!」
「嘘だろ……いったいどうやったんだ?」
驚愕に目を丸くする人たちを前に、私はわざとらしく喜んで跳ねまわる。
「いやぁ、そんなに驚かれるなんて、さっすがボク~!」
ときおりおどけて、場を沸かすことも忘れない。
「なんだなんだ? 面白いことやってるな!」
沸き上がる歓声が、通りすがりの人の足を止めて、新しい観客になる。
ショーはいつにも増して注目を集め、盛り上がりをみせていく。ステージの前には、あっという間に人だかりができた。
昨日までなら想像もできない観客の数に、私は内心驚きながらも、不思議な高揚感に満たされていた。
「よおし、今日はお客さんがいっぱいだから、とっておきのマジックを披露するヨ!」
そう言って、私はステージ裏にひっそりと用意していた『あるもの』を持ち出す。それを覆い隠すようにして被せられた布をサッと引くと、ステージ上に赤と青の二つのボックスが姿を見せた。どちらも大きさは40cm四方。中は空白となっていて、観客側の面だけが開け閉めできる形状となっている。
これまでよりも大がかりな道具の登場に、観客たちの期待も最高潮だ。私はニマニマしながら手を後ろに回して、直径15cm程度の黄色いボールを取り出すと、期待を煽るように高らかに声をあげる。
「ここにあるのはタネもシカケもない二つのボックス。その赤い方の中に、このボールを入れるヨ~」
赤い箱を開き、中に入れたことを観客たちに見せてから蓋を閉じる。
「今からこの赤いボックスの中にあるボールが、あっちの青いボックスへと移動するヨ!」
このマジックは、学び舎に通っていたころ、対象の位置を入れ替える転移魔法に見せかけるために編み出したものだ。実際は、相手の注意を反らしている隙に、ボックスの裏に隠された穴からこっそりと中身をすり替えるだけの単純なものではあるが。
「それじゃあこれから、不思議なマジックが始まるよ! みんな、手拍子をして応援してくれると嬉しいナ!」
そう言って、私が手を叩き始めると、観客たちもまた手拍子をして返してくれる。そのリズムに合わせて、私はボックスの周りで陽気に踊り始めた。滑稽なパフォーマンスで観客の注意を引いている隙に、死角となった一瞬の隙にこっそりと中身をすり替える。
「さぁて、みんなの応援のおかげで元気が出てきた! ボクも本気だしちゃうヨ!」
既にすり替えが終わったボックスに向けて、大仰に念じるそぶりをする。
「よし、これでオッケーっと! さて、お待ちかねの瞬間だヨ!」
私は青色のボックスに手をかける。観客たちは固唾を飲んで箱に注目する。期待に満ちた顔。ステージ上が緊張感に包まれる。
次の瞬間、私は自信満々の表情で、青色のボックスを開いた――。
息を飲む音。静まりかえるステージで、私はみんなの反応を待つ。
「…………」
時が止まったような沈黙。
ステージの最前列で見ていた女の子の声が、それを破った。
「……何も入ってないよ?」
「え?」
私は驚いて箱の中身を確認する。そこに、黄色いボールはなかった。
「あれれ~、おっかしいなぁ」
おどけた声と仕草で内心の焦りを隠しながら、私はボックスの中に手を入れて、消えたボールを探る。
――なんで、確かにボールを入れたはずなのに……。
広がっていたショーの熱が、少しずつ冷めていく。がっくしと肩を落とす人や、そのまま広場から去って行く人もいる。観客達の困った顔が、私をさらに焦らせた。
「キャ!」
パニックのあまり、私は箱に足を引っかけて、盛大にすっころぶ。
「何やってんだ~」
「もっと頑張れよ!」
苦笑交じりの冷やかしが聞こえてくる。大げさに頭を掻いてへらへらと笑って見せるが、焦りはどんどん強くなっていく。
――どうしようどうしようどうしよう……。
観客たちの方を見やる。
失敗か、とガッカリした表情。彼らの失望の顔は、ため息は、何よりも見たくないものだった。
それでも、やりきらなければ。今の私は、みんなを楽しませるピエロなのだから。
すりむいた膝の痛みに耐えながら、どうにか場を立て直そうとして立ち上がった――そのときだ。
「おいおいおい! なんなんだ、さっきから!」
どこからか聞こえてきた不機嫌そうな声に、私はそちらへ振り向く。ステージに集まった観客たちの後方に、目つきの悪い男が立っていた。
肩幅が広く、猫背な体に薄汚れた黒いコートを羽織った彼。頬はげっそりとして、三白眼の下には隈ができている
こちらを不満げに睨めつけていた男は、威圧的な態度で周りの人たちに道を開かせると、ステージの方へゆっくりと歩き出す。
「えっと……」
ステージの前に立ち、高圧的な視線を送ってくる男。困惑して固まってしまった私に向けて、彼は濁った声で言い放った。
「お前、さっきからふざけてるのか?」
「へ?」
突然の罵声に、私は呆気に取られて佇む。すると男は、苛立ちに任せるようにして啖呵を切った。
「俺はな、このくそったれな毎日で暗く沈んだ心を和らげるために来たんだ。だというのに、なんだソレは。くだらないマジックを見せつけられて、挙げ句の果てに失敗するとか」
「くだらない……」
「あぁ、そうだ。あんな子供だまし、他のバカどもは騙くらかせても、俺の目は欺けないからな! 当ててやろうか。さっきの箱のマジックは、先に箱の方にくだらない小細工をしていたんだろ? 玉を浮かせるやつも、どうせ糸か何かでつるしてただけなんだろ?」
「違うヨ。あれは、タネもシカケもないマジックで……」
「ほぅ? じゃあ魔法でも使ってるってのか?」
魔法という言葉が出た瞬間、観客たちの間でざわめきが起こる。しかし、男は意に介すことなく続ける。
「種も仕掛けもないとかいって、実際は小ずるいことをして客を騙してるだけだろ? ほら、見てみろよ。観客たちの顔を!」
男は大仰な仕草で、ステージの前の観客たちを指さした。みな、困った様子でステージを伺っている。その表情が失望に変わることが、何よりも怖かった。
「じゃ、じゃあ、マジックの代わりにとっておきのバルーンアートを披露するヨ!」
なんとかして、みんなを楽しませたい。その一心で、万一のために用意していた風船を膨らませていく。不慣れながらも、なんとか風船でウサギを完成させ、観客たちの間から細々と拍手が飛ぶ。だがそれも男の罵声によってかき消された。
「そんなもん、面白くもなんともねぇんだよ。風船遊びなんて子供のお遊びだろうが!」
男はステージに乗り込んで私に詰め寄り、唾を飛ばしながらわめき散らかす。酒臭い息が顔にかかった。
「ピエロってのは、観客を楽しませるためにいるんだろうが。ピエロはピエロらしく、ただ俺たちを笑わせていればいいんだ」
「じゃあ、私はいったい何をすれば……」
男に責めたてられ、私はピエロの口調も忘れて尋ねる。すると男は少し考え込んだのち、卑しい笑みを浮かべた。
「そうだな、じゃあそこで待ってろ!」
そう言って、男はなぜか近くの出店の方へ向かったと思えば、何かを片手に戻ってくる。
「お前、いつもショーをしているとき、あの店のスイーツばっか見てるよな」
男は後方にある出店を指さす。そこは、町の飲食通りで行列ができていたスイーツ店の出店だった。いつも出店があるたびに見ていたことを指摘され、私は戸惑いながらも頷く。それを見て、男は満足げに笑う。
「あの店のスイーツ、食べてみたかったんだろ? なら、俺が奢ってやるよ」
そう言って、彼は懐から町の名物であるクリームパイを取り出すと、困惑する私の顔めがけて思いきり投げつけた。
「へぶっ!!」
視界が乳白色に染まる。
パイはものの見事に顔に直撃し、私は訳も分からず硬直する。
甘く、ほんのりとした乳臭さが鼻腔を覆う。顔はクリームにまみれてどろどろになり、衣服や地面にぼとぼとと落ちた。
私は泣き出しそうになるのを堪え、べっとりとついたクリームを拭う。何がなんだかわからないままに顔を上げると、唖然としてこちらを眺めている観客たちの姿が見えた。
あまりの光景に、彼らは言葉を失っているようだ。しかし、哀れにも滑稽にも見える私の姿に、何人かの人たちはクスクスと忍び笑いをしていた。
「どうだ、これが欲しかったんだろ?」
男は満足げにそう告げると、下品な笑い声を上げる。その声をきっかけにして、幾人かの人たちが私を指さし、ゲラゲラと笑い始めた。
嘲りと当惑に包まれるステージの中心で、私は顔をクリームで汚したまま立ち尽くす。そんな状況のなかで唯一できたことは、ただへらへらと、間抜けに笑うことだけだった。
たとえ馬鹿にされようと、笑いものにされようと、それでみんなが笑ってくれるのなら……。
否応なく味わうことになったクリームパイは、想像していたよりもずっと甘くて、けれどむせかえるほどに重かった。
嘲笑が広場中を包みこむなか、そのとき別の声が笑い声を遮った。
「あんた、いい加減にしろよ!」
先ほどまで事の流れに言葉を失っていたらしい、観客席にいたブロンドヘアの青年が、今も下品に笑い続ける男に詰め寄ると声を荒げた。
「さっきから何なんだあんたは! ショーを邪魔して! ピエロの子を馬鹿にして! ふざけるのも大概にしろよ!」
「お前こそ、何も分かってないだろうが。ピエロってのは、俺たちを笑わせてこそ価値があるんだ。俺はこいつが客を楽しませられるように、盛り上げてやっただけだ。そのおかげで、こうして笑いが起きている。このアホピエロだって笑ってるじゃねぇか。うまいものを食えて、客の笑いも得られて、一石二鳥だろ?」
「あんたがやってるのは、ただの悪質な嫌がらせだ!」
青年は怒りの形相で、男の胸ぐらを掴む。険悪な雰囲気は次第に広がっていき、ついには男と青年を中心にして観客たちは無茶苦茶に争いを始めた。
「あの子がかわいそうでしょ!」
「いや、元はといえばあいつがつまらないのが悪いんだ」
「いいぞ、もっとやれ!」
擁護する者。糾弾する者。ヤジを飛ばす者。
そんな彼らを前にして、しかし私は止めることもできず、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
観客同士の争いはヒートアップし、遂には青年が男に向けて拳を振り上げかけた次の瞬間――気付けば私は叫んでいた。
「ごめんなさい!」
広場中に響いた謝罪の言葉に、観客たちが動きを止める。そんな彼らに向けて、私はピエロのしゃべり方も忘れて頭を下げた。
「ごめんなさいごめんなさい! 私が……私がいけなかったんです。私がマジックに失敗してしまったから……みんなを盛り上げられなかったから……みんなを笑わせられなかったから! ごめんなさい! 全部私のせいなんです!」
広場の片隅にあるステージ。そこにもう明るく愉快なピエロはいない。
――臆病で、卑小で、無力な私がそこにいた。
何度も何度も頭を下げる私を、観客たちは困ったように見ている。青年は言葉を失って、握りしめた拳を力なく下ろす。すると、彼から解放された男は私の前へと歩いてくると、見下すような表情でハッと笑った。
「いいか。お前はピエロだ。ピエロはピエロらしく、ただ俺たちを笑わせていればいいんだ。だというのに、まるでまともな人間のように謝りやがって。そんなもの、誰ひとりとして求めちゃいねぇんだ。ほんと、しらけるんだよ」
男は地面に唾を吐くと、八つ当たりをするようにマジック用のボックスを蹴り飛ばした。
しかし、私にはどうすることもできない。どうすればいいのか、わからなかった。
どうして、ここに立っているのだろう。何をしたらいいのだろう。もう、自分がなんなのかすら、わからない。
もう、限界だった……。
「――――――ッ!」
私は耐えられなくなって、ステージから飛び出した。
ショーの道具も、背後から聞こえてくる罵声や喧噪も、何もかも置き去りにして走る。
あの日、魔女の里から逃げ出したときのように。
上空を覆い尽くした暗雲からは雨が降り注ぎ、全身をぐちょぐちょに濡らしていく。雨水を吸った衣装が、体に重くのしかかった。
それでも、ひたすらに走り続ける。走って、走って、気付けば私は、いつもの路地裏の公園へと行き着いていた。
膝をつき、破裂しそうな胸を押さえつける。たとえ素顔を白く塗りつぶしていようと、溢れ出る嘆きは抑えきれない。どれほど覆い隠そうとしても、心が悲鳴を上げている。
私は泣いた。大粒の涙が、崩れたメイクと混ざり合う。引き裂かれるような絶叫は、しかし吹き付ける土砂降りの雨にかき消されていく。
魔法を使えない私は、ピエロになった。けれど、マジックも、ピエロとしての自分すら無価値なものだというのなら……。
「私は、いったい何者なの……」
私は噴水の中を覗き込む。雨の波紋に揺らぐ水面、そこに浮かんでいる顔は、白粉とクリームと雨と涙でぐちゃぐちゃに乱れて、ひどい有様だ。
――そして、私は悟った。
私は、魔法を使える魔女でも、明るく愉快なピエロでもない。魔法の代わりに生み出したマジックは、魔法を使えない自分への慰めに過ぎないのだと。ピエロとしての自分に向けられる笑いが、ただの嘲笑に過ぎないのだと。
全部、嘘だった。マジックも、ピエロとしての自分も、すべてが偽りだった。惨めな自分に見て見ぬふりをして、あざ笑う行為に他ならなかった。
何者にもなれない私。ぐちゃぐちゃになったその素顔が、本当の私だ。
人ひとりいない公園で、私は力なくへたり込む。真っ黒な雨雲は空を覆い尽くし、冷たい雨が容赦なく肩に降り注ぐ。体温が奪われ、全身がずんと冷えていく感覚。
体を重く浸していく雨水は――しかし、不意に頭上を覆った影に遮られた。
「大丈夫?」
突然かけられた舌足らずな声に、私はそっと顔を上げる。ひとりの女の子が側に立っていた。
自身が濡れることも厭わずに、傘を差し出してくれる彼女。その顔には見覚えがあった。いつも、母親と一緒にショーを見に来てくれていた女の子だ。
優しさに満ちた健気な行動に、しかし私は無理矢理に笑みを浮かべると言った。
「ありがとう。でも、私は大丈夫だから……このままじゃ君が風邪を引いちゃうよ」
自分では明るく話したつもりが、絞り出した声はとても震えてしまっていた。これじゃあ、とても大丈夫だなんて言えない。
「ピエロさん、泣かないで」
女の子の心配するような声。
笑って見せたつもりが、泣いているようにしか見えなかったらしい。本当に惨めだ。
「ごめんね、みっともないところを見せちゃって。ほんと、馬鹿みたいだよね。だから、私のことなんか放っておいて、早くお家にお帰り?」
そう言って、精一杯に笑顔を取り繕おうとするが、まるで表情筋が壊れたかのようにぴくりとも動かない。全身に力が入らず、私は両手を地につけたまま俯く。しかし、女の子は隣に寄り添ってくれたまま、じっと傘を差し続けてくれていた。
「……あのね、ピエロさん。ピエロさんがいない広場は、なんだか暗くて、さみしいんだ」
あどけない女の子の声。その言葉の意味を私が理解しかねているなか、女の子は続ける。
「ピエロさんは、いつも明るくて、愉快で、楽しそうだった」
明るく愉快なピエロ? とんだお笑いぐさだ。
「だから、またいつもの笑顔のピエロさんを見せて……」
「――違う! あれは、偽りの私! 本当の私は……」
臆病で、無力で、どこまでいっても何もできない、惨めな落ちこぼれなんだ。
そう言葉にしようとして、しかし己の中から溢れる感情を、関係のない、それも幼い女の子にぶつけかけていたことに気付き、口を噤んだ。
「ごめん、大きな声をだしちゃって……。大丈夫だから……もう放っておいて……」
私はそう力なく返すが、精一杯に虚勢を張っても全身の震えは止まらない。
濡れた地面にへたり込み、頭を抱えてうずくまる。そんな私を前に、女の子は囁くように口を開いた。
「私ね、少し前にパパがいなくなっちゃったの」
「え?」
「すっごく寂しくて、悲しくて、毎日泣いちゃってた。でも、そんなときにピエロさんが言ってくれたんだ」
「――暗い顔は似合わないよ、って」
「私が悲しいとき、ピエロさんは私にそう言ってくれたの。だから、私を元気にしてくれたピエロさんに、そんな悲しそうな顔はしてほしくない。ピエロさんには、ずっと笑顔でいてほしいの」
「無理だよ……。だって私は……」
もう、誰かを笑顔にすることなんて……。
そう言いかけて、けれど女の子は首を横に振る。
「ピエロさんは、いっぱいマジックを見せてくれた。とってもおもしろかった。ピエロさんのおかげで、とっても楽しかった! 私だけじゃないよ。みんな、ピエロさんのショーを楽しみにしてる。ピエロさんのマジックを見てると、辛いことも忘れられるんだって……笑顔になれるんだって!」
「……笑顔に?」
私は信じられずに、思わず顔を上げる。すると、女の子はあどけない顔に満面の笑みを浮かべて頷いた。
「そうだ。これ、ピエロさんにプレゼントしたくて、お小遣いを貯めて買ったんだ」
そう言って、女の子は傘を首と肩で器用に支えながら、もう片方の手に持っていた手提げ袋から何かを取り出す。可憐な黄色い花弁が揺れるそれは、小さな花束だった。
「私ね、ずっとお礼を言いたかったんだ」
驚いて固まってしまった私に、女の子はおもむろに花束を手渡すと。
「私の大好きなピエロさん! いつも楽しいショーを見せてくれてありがとう!」
弾けるような笑顔を見せた。
――今まで、魔法の使えない自分を偽り、落ちこぼれの自分に抗い続けた。しかし、どこまでいっても、自分は無力であると思い知らされた。だというのに……。
私は膝をついたまま、女の子を見上げる。屈託のない、ありのままの笑顔。嘘偽りのないその表情に、言葉に、自然と涙がこぼれ落ちる。
「どうして……」
流れ出した涙は頬をつたい、雨の雫と混じり合う。辛いから泣いているのか、嬉しいから泣いているのか……。理由もわからぬままに、けれど涙は心の奥底から溢れてやまない。
私のマジックで、こんなにも心からの笑顔になってくれた子がいた。偽りのピエロである私を受け入れ、好きだと言ってくれる子がいた。それだけで、なぜだか心が救われたような、そんな気持ちになれたのだ。
「……ねぇ、ピエロさん。私ね、またピエロさんのショーが見たいな」
女の子のささやかな願いの言葉。しかし、私は首を横に振る。
「でも……でも、私は失敗しちゃって……」
広場であんな醜態を晒し、あげく逃げ出した私が、いまさらどんな顔をしてステージに立てるというのか。だが、今度は女の子が首を横に振る。
「失敗なんて、誰でもしちゃうよ。大切なのは、次に失敗しないように頑張ること、ってママが言ってた。それにね……ピエロさんが誰よりもみんなを楽しませようとしてくれてたこと、私知ってるもん」
「――ッ!」
押さえられない感情が、大粒の涙となってぼろぼろと流れ出す。
止めどない涙で濡れた私の顔は、きっとひどい顔になっているだろう。けれど女の子はそんな私を笑うことなく、膝を折って隣に寄り添ってくれていた。その純粋な優しさが、私の冷えた心を溶かしてくれた。
私はふと、女の子に貰った花束を見やる。健気でありながら凜と咲くそれは、黄色のデイジーだ。
花言葉は『ありのまま』。
ありのままの私、本当の私が心から望んでいたこと。
私に魔法は使えない。でも、もし魔法が使えたとしたら、いったい何がしたかったのか。
――私は、魔法でみんなを笑顔にしたかったんだ。
もう誰にも悲しい顔をしてほしくなかった。私はただ、みんなに笑っていてほしかった。だから私は、マジックピエロになったんだ。
「そっか、そうだったんだ……」
心の中で引っかかっていた何かがはじけるような、雁字搦めになっていた鎖がほどけたような感覚だった。
魔法が使えない私も、代わりにマジックを披露する私も、偽りだと思っていたピエロの私も、すべてが私だった。
魔法もマジックも、魔女であろうとピエロであろうと関係ない。たとえどんな形であれ、みんなを楽しませたい、笑顔にしたいという思いに違いはなく、そのすべてが嘘偽りのない自分自身だった。
「……いいの? ……こんな私が……本当に、ここにいていいの?」
「もちろん! どんなピエロさんだって、私たちはずっと待ってる。だから、もう泣かないで?」
そう言って、女の子は目元の涙をぬぐってくれた。
ひょっとすると、彼女は気付いていたのかもしれない。偽りだと思い込んでいた、本当の私を。きっと彼女は、私の心からの望みを誰よりも敏感に感じ取ってくれていたのだろう。
偽りと決めつけていたのは、他ならぬ自分自身。私はただ、本当の自分を受け入れられずにいただけだった。
無力な自分に抗い、偽り続けたピエロの私。マジックに失敗した惨めな私を見てもなお、受け入れてくれる人がいる。できない自分を覆い隠してきたピエロで、笑顔になってくれる人がいた。
そして思えた。こんな私でも、また誰かを笑顔にできるかもしれないと。そのためなら、ピエロとしての自分も悪くないと。
今、私を待っていてくれる人がいる。なら――それに答えたいと思った。
「……そっか。みんなが待っててくれるなら、ボクも頑張らなくっちゃね」
私は地面に手をつき、力を振り絞って立ち上がる。
服も髪も乱れてぐちゃぐちゃだが、今はそんなことはどうでもいい。手で髪を掻き上げ、その場でぐっと伸びをすると、側で嬉しそうに顔を輝かせる女の子を見やった。
私よりもずっと、私のことを見てくれていた彼女。自分に見て見ぬふりを続け、本当の自分を見失っていた私を、彼女は勇気づけてくれた。私は手の中の花束を優しく包むと、大げさな仕草で礼をする。
「ありがとう」
「ピエロさん、元気になった?」
「うん。君のおかげだよ。プレゼント、大切にするね」
彼女が気付かせてくれた。本当の自分を。だから、もう見失わないように……。
「じゃあ、またショーをしに来てくれる?」
「もちろん。また明日、いつもの広場でね?」
「約束だよ?」
「うん、約束!」
私と女の子は小指を交わす。そして一緒に声を上げて笑った。
気付けば、あれほど降っていた雨はすっかり止んでいた。どうやら通り雨だったらしい。
雲の合間から差し込む夕日が雨水の跡に反射して、辺りを煌々と照らしていた。
と、公園の入口から聞こえてきた、女の子を呼ぶ母親の声に、私たちはそちらを振り向く。どうやら、ずっと娘のことを探していたようだ。
「またね、ピエロさん!」
大きく手を振ってくれる女の子を見送った私は、そっとデイジーの花びらを撫でる。指で触れた花弁は、しかしすぐにピンと張り凜々しく咲いていた。
私はふと噴水の方へと歩き出す。水面に映るその顔は相変わらず酷いものだが、なぜだか急に笑いがこみ上げてきた。
「ふふ……あははは……」
ひとしきり笑って、溢れる涙も涸れた後、私は最低限の汚れを落として公園を後にした。
胸の内に残る熱が途切れないうちに。
※
一度町の外に出て、川辺で服や体を洗った私は、再度町の中心へと戻る。広場に置いてきた荷物を回収して、ようやく家に戻ったときには、すでに日が回ろうとする時間帯であった。
女の子から貰った花を部屋に飾り、ソファーで一息ついた後、さっそく明日の準備に取りかかる。正直、今すぐにでも眠ってしまいたいところだが、少しでも明日のために備えておきたい。
衣装の汚れはなんとか落としたものの、明日使うには無理がありそうだ。服に関しては予備があれど、帽子は諦めるしかないだろう。
どうにか明日のショーに間に合わせられないか、私は頭を働かせる。
広場から持ち帰った荷物は、幸いにもそのままの状態で残されていた。遅い時間ということもあって人影はほとんどなく、安心して回収できたのだが、多くの小道具は壊れたり雨で濡れたりして使い物にならなくなっていた。このままでは、満足のいくマジックを披露することは難しいかもしれない。
「……いやいや、まだ何かできるはず! 諦めるな私!」
少ない所持品をあさりながら、何かないかと部屋中を探しまわる。
「あ、そうだ!」
ふと私は閃いて、その場から駆け出す。部屋の隅にあるタンスの一番下の棚を引いて、中から黒い三角帽子を取り出した。
魔女の里にいたころに貰ってから、ずっと大切に保管していた帽子。
将来、一人前の魔女になって、あなただけの魔法でみんなを笑顔にしてほしい――そんな願いを込めて村のみんながくれた、私の宝物だ。
「ごめんね、みんな。私は魔女にはなれなかった」
――本当は魔女として、魔法でみんなを笑顔にしたかった。
私には魔法は使えない。でも、マジックなら……。
マジックは偽りの魔法。けれど、マジックでも人を笑顔にできる……。
「みんな……お願い。私に力を貸して……」
※
昨日はどんよりとした暗雲が立ちこめていた空も、今日は嘘のように晴れ渡っている。
町の中心にある広場は、昼時ということもあり、多くの人で溢れている。しかし、いつもと比べて、どこか賑わいが欠けているようにも見えた。
「こんなことになってしまうなんて、寂しいな……」
ちょうど昼休みの時間に広場を訪れていたブロンドヘアの青年は、沈鬱な表情で呟く。
広場の片隅にある小さなステージ。そこに、いつものピエロの姿はない。
昨日はそのままになっていたマジックの道具も、すべて回収されてしまっていた。
――あんなことがあったのだ。もう彼女はショーをしないのかもしれない。
胸の中でざわめく不安を感じながら、青年は昨日の騒ぎを思い出して胸を痛めた。
呆然と佇む彼の後ろを、次々と人が往来していく。静かなステージの前を横切る多くの人は、みな思わずそちらを窺っては、物寂しそうな顔で通り過ぎていく。なかにはステージをジロジロと確認しては去って行き、そしてまた戻ってくることを繰り返す、挙動不審な行動を取る者もいた。
どうやらみんな、何気なしに見ていたピエロの存在が、いつの間にか恋しいものになっていたらしい。だからこそ、もうピエロの子は来ないかもしれないという予感に、青年は深い虚脱感に苛まれる。一向に姿を見せることのないピエロに、彼はトボトボをその場を後にしかけて――だが、ステージの前でじっと待ち続ける女の子を目にして足を止めた。
青年は、彼女に見覚えがあった。自分と同じく、毎日ショーを楽しみにしていた女の子だ。
まだかまだかと、ステージの前に張り付いている健気な姿に、青年はやるせない思いのままに声を掛ける。
「なぁ、お嬢ちゃん。もしかしてあのピエロの子を待ってるのか?」
「うん」
「あんなことがあったんだ。もうここには来ないんじゃないか?」
諦めた声で話す青年に対し、だが女の子は首を振って返す。
「来てくれるよ。だって、約束したもの」
「約束……?」
青年は首をかしげて……そのとき、時刻を知らせる時計塔の鐘が鳴り響いた。
驚いた広場の鳥たちが、バサバサと音を立てて飛び立つ。彼らに釣られて上空を見上げた青年は、ふと空からカラフルな帽子のようなものが落ちてくるのを目の当たりにする。それはまるで落ち葉のようにひらひらと舞いながら、ふわりと広場のステージの上に落下して――次の瞬間、ボンッという音と共に、三角帽子を被った人物がそこに立っていた。
ステージの正面にいた青年や女の子のみならず、通りすがりの人たちも、そろって驚きの声を上げる。
突如としてステージに現れたピエロは、感嘆の表情を浮かべる観客たちに向けてニッと笑うと、高らかに叫んだ。
「お待たせ!」
※
その日、できうる限りの用意を終わらせた私は、ステージを見下ろせる広場の木の上で、最後の準備に取りかかっていた。
懐から化粧箱を取り出して、顔に白粉を塗りつけていく。
手鏡に映る、白く塗りつぶされた顔。だけど、もうそれは自分を覆い隠すためのものじゃない。白く塗ったその顔もまた、私の本当の素顔なのだ。
真っ白なメイクは、ピエロとして欠かせない。けれど、それだけじゃあ何だか寂しいな。
私は化粧箱から黄色いペンを取り出すと、頬に小さく花の絵を描いてみる。なんだか気分も華やかだ。私は満足げに頷いて、最後に頭に被っていた三角帽子を手に取った。
昨日までは黒一色だった帽子は、しかし今やカラフルな衣装に負けず劣らず、色とりどりにペイントが施されていた。
奇抜なピエロの衣装に見合う派手な彩りで染め上げた帽子を手に、我ながら思い切ったことをしたな、と嘆息をつく。けれど、後悔なんてしていない。
「みんな、見ていて……」
生まれ変わった帽子を掴みながら、私はそう呟く。
ちょうどそのとき、時計塔の鐘の音が聞こえてきた。
私は意を決すると、手にした帽子を空高く放り投げる。
そして、私を待っていてくれる人たちの元へと飛び出した――。
派手な演出で登場した私に、観客たちはあっと声を上げて驚く。突然のことに硬直する彼らに向けて、私は大げさな仕草でお辞儀をしてみせる。
それから顔を上げて、ふと観客たちの中に昨日の女の子の姿を見つける。感極まった表情でこちらに手を振ってくれる彼女に同じく手を振って返しながら、ゆっくりと側へと歩いていき声をかけた。
「来てくれたんだ! ありがとう!」
「うん! だって、約束したから!」
どうやら、私が来ることを信じて待っていてくれたらしい。嬉しそうに破顔する女の子に向けて、私はいたずらっぽく笑うと、被っていた帽子を脱ぐ。そして、帽子の内側から一輪の花を取りだして見せると、観客たちの間から驚嘆の声が上がった。
目を丸くする女の子に、私は取り出したばかりの花を差し出す。
「これはボクからのお礼。受け取ってくれると嬉しいナ」
ピンク色のその花はガーベラ。花言葉は感謝。
本当の自分に気付かせてくれた感謝を込めて、私はガーベラを手渡す。
女の子は受け取った花を優しく握ると、嬉しそうに見つめていたが、不意に我に返ってこちらを見上げる。
「ピエロさん、ありがとう……」
照れくさそうにお礼をしてくれる彼女。その頭に私はポンと手を置いて返す。
「それはボクの台詞だよ。ありがとう」
ぽっと頬をピンクに染める女の子。そのいじらしい姿に、私を含めてみんながほっこりとした笑顔を浮かべる。
「さてと……」
私はステージに集まってくれた人たちを見渡す。彼らの中には、いつも応援してくれていた人や、昨日初めて見に来てくれた人もいた。期待と興奮に満ちた表情の彼らに向けて、私は声を張り上げる。
「みんな、来てくれてありがとネ! 今日こそはもっと面白いショーにするから、楽しんでいってヨ!」
私がショーの始まりを告げると、あちこちから拍手と歓声が飛ぶ。昨日、無様にも逃げ出してしまったにも関わらず、変わらずショーを楽しみにしてくれていたみんなに、涙がこぼれそうになる。けれど、そこはぐっと堪えて、いつもの陽気な笑みを浮かべた。
「それじゃあ、まずは簡単なバルーンマジックから……」
さっそく、昨日徹夜で考えたマジックを披露していく。
ひとつ成功させるたびに、わき上がるステージ。気付けば、通りがかりの人も巻き込んで、広場にはあっという間に人だかりができた。
昨日の失敗を取り返すどころか、それ以上に盛り上がりを見せていくステージ。そのまま順調にショーが進んでいた、そのときだった。
「おいおい、また懲りずにくだらないことをしてるのか」
人混みの後方から聞こえてきた不機嫌そうな声。観客たちがそちらを振り返ると、昨日の目付きが悪い男が不機嫌そうな顔で立っていた。
その姿を見るなり、昨日の騒ぎを知る者は表情を歪ませるが、彼は意に介することなく、またもや視線で観客たちを退かせると、肩で風を切るようにしてステージへと歩いてくる。
「ったく、昨日無様にも逃げ出した奴が、のこのこ戻ってきやがって。不愉快なんだよ」
唾を飛ばしながら、口汚く罵ってくる男。そんな彼を止めようと、ブロンドヘアの青年が声を上げる。
「お前、また邪魔をする気かよ!」
男から私を庇うように立ち塞がる青年。だが……。
「あ、また来てくれたんだ! 嬉しいなぁ」
その気の抜けた声は私のものだ。予想外の反応だったのか、青年どころか男も虚を突かれた様子で唖然として固まる。その隙に私はステージから飛び出すと、跳躍して彼らの間に降り立った。
青年が心配するようにこちらを見てくるが、私は彼に向けてウインクをする。その意図を組みとって、後ろに退いてくれた彼に微笑みかけると、呆然と立つ男と向かい立った。
ようやく正気を取り戻した男は、見下すような目で私を睨めつける。
「ったく、ふざけやがって……」
不機嫌さを隠すことなく吐き捨てる男に対し、私はニヒヒと笑って返す。
「でも、また見に来てくれたんでしょ? 昨日は情けないところを見せちゃったけど、今日こそは面白いマジックを見せてあげるからサ。あなたも見ていってヨ」
陽気に話す私に、対する男は下品な笑みを浮かべると。
「そうか。なら、また惨めに俺のことを笑わせてくれよ!」
懐からクリームパイを取り出して、昨日のように私の顔めがけて投げつけてくる男。息を呑む観客たち。咄嗟に後方に飛んだ私は、さっと帽子の中から取り出したステッキを振り上げて、眼前に迫るパイを弾いた。
パイは上空でクルクルと回転し、落ちてきたそれを片手でキャッチすると、おもむろに口に含む。タルト生地の上に乗った濃厚なクリームは驚くほど甘く、町の名物と呼ばれるに相応しい絶品だった。
「う~ん、美味しい! ありがとうだヨ!」
あっという間に食べ終えて、こくりとお辞儀をする。パイを弾いた妙技と、キャッチしたそれを食べ始めた滑稽さに、どっと笑い声が上がった。
その一部始終を前に、またもや呆気にとられていた男は、しかし我に返ると表情を歪ませる。
「こいつ!」
彼は怒りの形相でズケズケとステージに乗り込むと、私の帽子を強引に奪い取った。
「なんだぁ? こいつが新しいマジックの道具か?」
「ちょっ、返してヨ!」
私は帽子を取り返そうと手を伸ばすが、男は高身長であるのをいいことに、届かない高さでヒラヒラと動かして笑う。どうにか帽子を掴もうと飛びかかった私をさっと避けた男は、床に転がった私を見下ろしながら、嘲るように吐き捨てた。
「この嘘つきピエロが……マジックだなんだと言って、結局は観客を欺いているだけだろうが。どんな小狡いマネを使ってるのか、俺が暴いてやるよ!」
下劣な笑みを浮かべながら、彼は奪った帽子の中に手を突っ込むが……。
「……何も入ってないだと?」
男は目を見開き、信じられないといった様子で帽子の中をまさぐる。その指先に、生暖かい何かが触れた。
慌てて帽子から手を引き抜く。ゾワッとする不気味な感覚に怯えながら、そっと帽子の中をのぞき込んだ――次の瞬間、彼の顔めがけて手のひらサイズのカエルがぴょんと跳びだした。
「うぎゃあぁ!」
容貌に似合わぬ甲高い悲鳴を上げる男。どうやら、カエルが苦手だったらしい。
尻餅をついて後ずさる彼の姿に、あちこちから笑いが起こった。しかし当事者である彼には、周囲に腹を立てる余裕もないようだ。
「来るな……来るんじゃない!」
じりじりと距離を詰めてくるカエルに、男はどんどんステージの端へと追い詰められていく。あまりの恐怖に、今にも泣き出しそうな彼めがけて、無情にもカエルはピョンと跳び上がり――けれど彼に触れる寸前で、ポンと音を立ててその姿が消え去った。
「え?」
もうおしまいだ、とぎゅっと目を閉じていた男は、太ももの上に乗っているウサギに気付いて目を丸くする。消えたカエルの代わりに、突然姿を見せたウサギは、そっと男の頬に顔を近づけて、甘えるようにすり寄っていた。
男が茫然自失する一方で、その恐るべきマジックに観客たちの盛り上がりは最高潮だ。あちこちから感嘆の声が飛び交うなか、私は拾った帽子を被りなおすと、未だ腰が抜けてへたり込む男に向けて、右手を差し出した。
「驚かせちゃったみたいでごめんね。でも、次からは勝手にボクの帽子は取らないで欲しいナ」
呆然と頷く男の手を取って、そっと立たせてあげる。戸惑いを浮かべる彼に向けて、私はにこやかに笑いかけた。
次の瞬間、大きな拍手がステージを包み込んだ。喝采に、男は毒気を抜かれた様子で佇む。その足下には、どうやら彼を気に入ったらしいウサギが、ピタリと足下にくっついていた。
私が観客たちの拍手に手を振って応える。すると、我を取り戻したらしい男は、憤りと恥ずかしさに顔を真っ赤に染めて叫んだ。
「な……な……なんてことをしてくれたんだ!」
私の手を振り払い、大声で喚きだす男。だが、観客たちから向けられる白い目に、少しずつ言葉を窄めていく。彼は悔しそうに拳を握りしめると。
「こ、こんな屈辱……絶対に許さねぇからな!」
ステージから飛び出して、一目散に走り去っていった。
※
逃げ出すように広場を駆ける男。ふと、後方に見えるステージを振り返る。
初めて目にしたときから変わらないショーは、だが昨日までよりも更に洗練され、輝きを増しているように見えた。
彼は先ほどステージで浴びた拍手を思い出す。そして、今もその中心でマジックを披露しているピエロを見つめた。
一切の気負いのない、まっすぐな姿。
彼は自分のしたことを恥じた。
そして悟った。ピエロと観客たちが一体となった、あの眩しいマジックショーに自分の居場所などないのだと。
だが、ステージに背を向けようとしたその瞬間、彼がずっと馬鹿にしていたピエロと目が合った。
彼女は男に向けて、優しい微笑みを返したのだった。
※
「さぁて、どんどんいくヨ~!」
手を突き上げて叫ぶと同時、沸き上がるステージ。その中心で、私は合いの手が奏でるリズムに合わせて、くるくると踊ってみせる。
そのおどけた仕草が、予想を超えるマジックが、ピエロのパフォーマンスは観客たちを魅了して、笑いの渦へと引き込んでいく。
そこにあるのは、日頃の辛さを忘れて、ただ楽しみ、笑い合える空間であった。
――私は、魔女にはなれなかった。魔法は使えない私は、マジックを披露するピエロになった。人はそんな私を、魔女になれなかった落ちこぼれだと蔑むだろうか。惨めで滑稽だと笑うだろうか。
でも、それでいいじゃない。
だって、私には私なりのやり方で、みんなを笑顔にできるのだから……。
――これが、私だ。
観客たちの楽しげな声が聞こえてくる。私を見て、心から笑ってくれる。
彼らの笑顔が、私を笑顔にしてくれた。
いつか、この笑顔が広がって、たくさんの人たちに届くように……。
――それは、魔法の使えない魔女。彼女が披露するマジックは、偽りの魔法で、しかし見る人を笑顔にする、唯一無二の魔法であった――
「さぁ! タネもシカケもありません! 楽しく愉快なマジックショーが始まるヨ!」