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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王都立魔法学園で序列最下位、役立たず扱いされた悪役令嬢のやり直し。~死罪や国外追放、謀殺されてもハッピーエンドまで諦めません~

作者: あざね

注意:プロローグです(今はここで力尽きた模様









「伯爵家令嬢、レイン・ウィクターソンは絞首刑とする」

「えー……!?」



 ある日の昼下がり、一人の令嬢に死刑が宣告された。

 彼女の名前は先ほど裁判官が述べた通り、レイン・ウィクターソンという。赤い髪に青の瞳、顔立ちは比較的整ってはいるものの、平均の域を出ない少女であった。そんな彼女がなぜ、手首を拘束されながら死刑宣告を受けているのだろうか。

 彼女も何かしらのドッキリと思っているらしく、周囲を頻りに見回していた。

 だが、それらしい雰囲気ではない。


「……マジ、です?」


 そのことに気付いたのか、レインは目を丸くしてしまうのだった。

 そして、事の重大さに気付いたらしい。しかしながら、それはそれで理由が分からずに困惑するしかなかった。

 どうして自分は、殺されなければならないのだろう。

 レインは必死にここまでの経緯を思い出すが、これといって変なことはなかったはず。いつものように起床して、給仕の子たちと談笑し、紅茶を飲んでいた。

 そうしていると意識が遠くなり、気が付いたらこれだ。

 まるで何も分からない。


「そろそろ観念するんだな、この女狐」

「女狐、って……」


 そんな困惑を察したのか、裁判官の一人がそう強く言い放った。

 レインは大きなショックを受けるが、どうすることもできないままだ。そうしていると、いよいよ問答無用ということになったのだろう。


「おい、そいつを連れていけ!」

「ちょっと、待って……!」

「煩いぞ、黙れ!!」

「あっ……!?」


 数名の兵士が乱暴に彼女の肩を掴み、後頭部に一撃を加えたのだった。

 そこで、少女の意識は途切れてしまう。



 ここまでが、レイン・ウィクターソンに残っている記憶。

 そして、彼女が次に目を覚ましたのは――。





「起きなさい、レイン・ウィクターソンさん!」

「ひゃ、ひゃい!?」



 ――懐かしい、卒業したはずの王都立魔法学園。

 担任教師の難しい表情は、先ほどまでの出来事が嘘だったかのように。いいや、それはあり得るはずがなかった。夢なのだとすれば、そこに至るまでの経験が生々しすぎる。

 だとすれば、今見ている光景が夢なのか。

 レインはそう考えて、ただただ眉をひそめるだけだった。



 





「(色々試したけど、これは夢じゃない。だったら、さっきの死刑宣告の場面が夢で、私はまだ魔法学園を卒業していない……?)」



 レインは悶々と考えつつ、王都立魔法学園の中央広場に続く廊下を歩いていた。一度息抜きをしたかったのだが、このままでは気持ちの切り替えようがない。

 先ほど目を覚ましてから、彼女は様々なことを試してみた。自分の頬をつねることから始まり、周囲の生徒への日時確認。さらには何かのドッキリではないか、という確認も。

 しかし時間が経てば経つほど、あの日に見ていた思い出の景色と周囲が重なっていくのだった。だが、だからこそ死刑宣告が夢ではない、とも思う。


「あまりに、見覚えがありすぎるわ……」


 いまの自分が卒業するまでの期間は、おおよそ三年ほど。

 三年前の出来事といえば、記憶に残っていないにしても感覚として憶えていることも多かった。だからこそ、寒気を覚える。レインには強烈なまでの既視感があるのだった。

 そのため、もしここが現実の世界だとすれば、自分に起きた可能性は一つ。


「……戻って、きたの? 過去に」


 にわかには信じがたいが、感覚としては一番腑に落ちてしまった。

 周囲から劣等生と呼ばれて、友達も限られていた学園生時代。色々な経験と、後悔を残した場所であるここに、何の因果かレインは帰ってきてしまった。

 だったら、もしかしたら、と思う。

 今から動き出せば、あの死刑宣告を回避できるのではないか、と。

 そして何故、自分が死刑宣告を受けなければならないのか、とも。


「ううん、でも……どうしたら?」


 そこまで思案して、あまりに大きすぎる話と気付いて目眩がした。

 レインは深いため息をついてから、間もなく到着する中央広場へと視線を投げる。そして、ある揉め事に気が付くのだった。


「あの子は、たしか……」


 どうやら、イジメらしい。

 レインの角度からはちょうど、その集団の行いが丸見えになっていた。周囲にいる他の人々は気付く様子はない。あるいは、見えていても見て見ぬ振りをしているのか。

 そう思うと、胸がチクリと痛むのだった。

 だって今の状況は過去に経験があり、その時の自分は――。



「…………や――」



 すると、何かに背を押されるようにして。

 レインはイジメを行う集団に向かって、こう声を上げていた。



「やめなさい、アイルくんは嫌がっているでしょう!?」――と。







「あの、助けてくださってありがとうございます」

「いいの、気にしないで。これは、私の罪滅ぼしだから……」

「罪滅ぼし、ですか……?」



 少しの時間が経って、中央広場にはレインとイジメられていた同級生――アイル・ゼファーの姿だけがあった。もうすでに、次の授業が始まっている時間だ。

 結果的にサボる状況となった彼女たち以外に、人はいないだろう。

 レインはその状況で、改めて自分の記憶を呼び起こすのだった。


「ねぇ、アイルくん……? 貴方――」


 そして、緊張した声色で同級生に告げる。



「この後、なにをするつもりだったの……?」――と。



 レインのその問いかけに、驚いた表情を浮かべたのはアイル。

 彼は紫色の円らな瞳を大きく見開いてから、どこか慌てたような表情で答えた。


「べ、別に何も……! きっと、普通に授業に行ってましたよ!?」

「……そう、ね」


 それを聞いて、レインはどこか悲しげな表情を浮かべる。

 何故なら彼女には、一つの確信があったからだ。クラスメイトから現在の日時を聞いた際に『あの出来事の日』に、自分は戻ったのだと知っていたから。

 嫌というほどに夢に見た。

 自分が勇気をだせば変わっていたと、幾度も考えた。

 それでも、自分はその時になにもできなかった。心があまりに、弱かったから。



 今日は目の前の少年、アイル・ゼファーが『自害した日』だ。



 何の因果か分からない。

 それでも、自分はあの日と同じようにイジメの場面に出くわした。

 以前の自分ならきっと、彼への行いを見て見ぬ振りをしたに違いない。そして最期の日まで、そのことを後悔し続けただろう。

 だけど今は、彼とこうやって言葉を交わしていた。

 それがどこか嬉しくもあり、切なくもあった。


「でも、凄いですよレインさん! どこで、あんな情報を!?」

「えー……いや、ちょっとね?」


 そんな彼女に、事情を知らないアイルは目を輝かせて訊いてくる。

 それというのも先ほどのイジメ集団に対して、レインが言い放った言葉だった。彼女はやや怯えた声色で、集団に向かってこう告げたのである。



『あの薬品の話を、先生にバラしますよ!』――と。



 それもまた、以前の自分が卒業間近に知った話。

 あの学生たちはずっと、禁止薬物に手を出していたのだ。その情報を現時点で知るのは、おそらくレインしかいない。そう、未来を知る彼女にしか分からなかった。

 だが、そんな反則技でも効果はあったらしい。

 結果として、他言しないことを条件にアイルを救ったのだった。


「(こんな情報でもないと、助けに入れないのよね。私って……)」


 ふと、そう思う。

 罪滅ぼしというのは、そういうことだった。

 自分がアイルのイジメから目を背け、一日を平穏に過ごした後にアイルは死んだ。周囲が忘れていく中でも、レインだけは忘れることができなかったのだから。


「あの、レインさん……!」

「え、どうしたの?」


 そう考えていると、アイルが声を上げた。

 そして、こう言うのだ。



「厚かましいんですけど、お願いします! ボクの――」



 まるで、告白でもするような勢いで。



「と、友達になってください!!」――と。



 それを聞いて、レインは唖然とした。

 しかし、すぐにどこかおかしく感じて笑ってしまうのだ。そして、



「うん、良いわよ。私たちは『友達』……ね?」



 小指を差し出し、少年のそれと絡める。

 すると彼は嬉しそうに頬を赤らめ、こう言うのだった。


「この御恩は、いつか必ず! 次はボクが――」


 幼い表情に、確かな覚悟を決めて。




「貴方を助けますから!」――と。



 




 ――そうして、レインが次に目を開けた時。

 そこに広がっていたのは、懐かしい学園の風景ではなかった。自分の身につけている衣服も、あの日に給仕と紅茶を嗜んでいた時のものになっている。

 いったい、なにが起きているのだろうか。

 彼女が必死になって考えていると、何やら部屋の外がにわかに騒がしくなった。


「今度は、なに……?」


 思考が追いつかないまま、レインはおもむろに立ち上がる。

 そして、ドアの方へと一歩を踏み出した時だ。



「レインさん……! 助けにきました!!」

「え、貴方は……?」



 そこに、どこか見覚えのある容姿の騎士が現れたのは。

 彼は肩で息をしながら、レインに対して恭しく一礼をした。そして、


「お久しぶりです。ボクの名前は――」



 こう、名乗るのだった。



「アイルです。あの日の約束を果たすため、馳せ参じました」――と。









「信じられない。本当に、みんなが私を探してる……?」

「国王陛下の指示ですからね。いまは誰もが、王国の大罪人としてレインさんのことを探しています」

「え、えぇ……私が、何ですって……!?」



 アイルに連れられ、屋敷を飛び出したレイン。

 困惑する彼女に青年騎士は淡々と、事の次第を伝えるのだった。



「レインさん、貴女は何者かに陥れられたのです。ボクは偶然にその話を耳にして、こうやって助けに入れましたが」――と。



 それを聞いて、レインは一所懸命に思考を働かせる。

 ここまで自分に起きた出来事と、亡くなったはずのアイルが騎士となって生きていたことを。それらのことを繋げて考えてみると、とても信じられない話だが、自分が過去と現在を行き来しているのは明らかだった。

 過去が、アイルの生死が変化したことで、未来が変わったのだ――と。


「……ねぇ、アイル。嘘みたいな話だけど、信じてくれる?」

「え、はい……」



 喧騒の中、レインは必死に今までのことを青年に語り聞かせた。

 すると彼は当然に目を丸くしたが、すぐに何かを考え込むように頷く。そして、しばしの沈黙の後にこのように口にするのだった。



「……ボクは、貴女を信じます。だって、たった一人の友達ですから」



 強い肯定の意思。

 それを語ってから、アイルは自身の考えを述べるのだった。


「その理屈でいえば、あるいはこの状況を変えることができるかもしれません」

「え、それはどういうこと……?」

「これはレインさんが、もう一度過去に戻れるのだとすれば、ですが――」



 周囲の状況に目を配りながら。




「当時の生徒会長を務めていたレーゼン・ディクトリクスが、今回の事件の一端を知っている可能性があります。だから彼と接触できれば、あるいは」――と。




 その言葉を聞いて、レインは必死に思い出す。

 レーゼン・ディクトリクスといえば、名門騎士の家系に生まれた嫡男だったはず。品行方正で眉目秀麗、女生徒からの人気が高く、生徒会長の座に押し上げられた。

 卒業後どころか、在学中も接点はなかったはず。

 何せ劣等生扱いの自分と、成績上位の彼とでは住む世界が違うのだから。


「でも、やるしかない……?」

「そうですね。こればかりは今のボクに、手出しはできません」

「………………」


 それでももし、もう一度過去に行けたのなら。

 レインは自身のやるべきことを考え、胸の前で拳を握り締めた。すると、



「大丈夫ですよ、レインさん。貴女は一人じゃないです」

「え……?」



 アイルが不意に微笑み、彼女の手を取ってみせる。

 そして、片膝をついて頭を垂れた。



 レインが困惑していると、青年騎士は愛らしい笑顔を浮かべて笑って言った。



「過去に戻れば、ボクもいますから!」――と。



 だから、レインは一人ではない。

 自分も同じように、地獄へ進む覚悟はできている、と。そう言って――。



「それでは、合図と同時に逃げてください。……囲まれています」

「そんな……!?」



 彼は、静かに剣を構えた。

 レインはひどく動揺しながら周囲を見回す。

 しかし、そんな彼女にアイルは優しくこう言うのだった。




「大丈夫です。約束したでしょう……?」




 見違えるほどに大きくなった背を向けながら。




「今度はボクが、貴女を助けます……って!」――と。




 そして、そこでレインの意識は途絶えたのだった。









「アイル……!?」

「は、はい!? どうしました、レインさん!?」

「え、あ……あれ?」



 次にレインが目を覚ますと、そこは夜の中庭だった。

 傍らにはあどけなさ残るアイルの姿があり、途端に声を上げた彼女のことを驚いた様子で見つめている。

 この状況は、理解できた。

 自分はきっとまた、過去に戻ってきたのだろう、と。

 理屈はちっとも分からないが、どうやら本当に過去と現在を行き来できるらしい。しかし、その問題はひとまず置いておくとして、レインは深呼吸をして息を整えた。



 そして、覚悟を決めてアイルに訊ねるのだ。




「ねぇ、アイル――」




 これからやるべきこと。

 未来の自分、そして大切な友達を守るために。




「レーゼン・ディクトリクスさん、って知ってるわよね?」――と。




 


https://ncode.syosetu.com/n0556if/

連載します(*‘ω‘ *)




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