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ナディアとディラ

「ただいま」

家に戻ると、お母さんがいつも通り、

「おかえりなさい」

と優しい声で応えてくれたのが、今はとても辛く感じました。

ペチャはどのタイミングで、自転車のことを打ち明けるか考えていました。

晩御飯のときも、そのことで頭がいっぱいで、あまり話しませんでした。

昨日の夜もカギのことが心配でそうでした。

お母さんは、ペチャの様子が心配になって、

「ね、何かあった? 昨日も今日もなんだかへんよ?」

ペチャは聞こえてないのか黙ったままでした。

お母さんはテーブルの上に紙袋を置いて、

「もしかして、これ?」

「え?」

手を伸ばして袋をあけると、自転車につける鎖状のチェーンがありました。

「あの自転車、カギが付いてなかったのね。自転車屋さんから連絡があったの」

ペチャはわーっと叫び声をあげました。

嬉しいのか、悲しいのか何で声が出たのかわかりませんでした。

「おかあさん、ご、ごめんなさい」

「ううん、ペチャは悪くないってば」

「違うの! 自転車なくなっ……」

ようやく決心して話そうとしたとき、

ピンポンッ。

玄関でチャイムが鳴りました。

「ちょっと待ってて」

お母さんが玄関に行ったあと、

「ペチャ、お友達よー」

玄関に行くと知らない女の子が立っていました。

真っ赤なコートを羽織って背筋をピンと伸ばして立っています。

ペチャよりもさらに背が低く、思わず抱きしめたくなるお人形さんのようでした。

「えっと、だれ?」

「助けてくれて、あ、ありがとう」

そこにいたのは王子様の妹でした。

人と話すのが久しぶりで、少し緊張している様子でした。

「え、あの金魚さん?」

「もう金魚じゃありません。ナディアと申します、わ」

「あ、ごめんなさい、ナディア王女様ね」

と言ったあと、お母さんに声をかけました。

「ちょっと出かけてくるね」

「遠くに行かないのよ、あと、これ忘れないで」

お母さんはさっきのチェーンをペチャに手渡しました。


外に出て駐輪場を見ると自転車が置かれていました。

「あ、これで来たんだ。でも、よく家がわかったねー」

「は、はい、兄も一緒ですもん」

自転車の影に、王子様が見えました。

「兄は少々、目立ちます。だから、隠れてるように言いましたの」

「うん、そのほうがいいかな」

「ええ、っと、ペチャさん?」

「え、なんでその呼び方しってるの?」

「お母様が呼んでましたわ、ぴ、ぴったりのお名前ですのね」

「えっと、名前じゃないんだけど。ありがと!」

「わたしは、ナディって、お呼びください。兄は、ディラ」

そういえば王子様の名前、まだ知らなかった。

ディラ王子様と、ナディア王女様と、ペチャさん。

ペチャって、二人と違ってへんな響きだなぁ。

でも、ペチャって呼ばれたら嬉しくなるんだ。

ペチャは思わず、くくくっと笑ってしましました。

「あ、ごめん、なんでここに来たの?」

「自転車をお返しに、こ、ここにまいりましたの」

「あの自転車を置いてったら、お城に戻るの大変だよ?」

「う、でも、あれはペチャさんの、だもん」

ペチャはもう決心していました。

お母さんに全てを話そう、怒られたっていい、

二人はこれから森を守らなくちゃいけない。

そのためにこの自転車は必要なんだ。

「ナディに貸してあげるって」

「え、いいのです? 兄からとっても大事なものって伺いましたの」

「うん、大事だよ。でも、二人のことはもっと大事だし、あの森だって大事だもん」

ナディアは、兄のいる方に目を向けました。

ディラには二人の話が聞こえていました。

「きみは、ぼくたちを魔法から救ってくれました。でも何の恩返しもできてません」

「ううん、あなたは自転車を一晩、見張ってくれたし、空も飛ばせてくれた」

それを聞いても、二人の困ったような表情は変わりません。

「じゃあ、ひとつ、お願い事してもいい?」

ペチャが言うと、二人は嬉しそうに応えました。

『ええ、何でも言ってくださいっ!』

「わたしと友達になってくれる? そして、今日みたいにまた遊びにきて欲しいの」

二人はにっこりと頷きました。

「あ、当たり前ですわ、わたしもディラももう友達ですものっ」

「ほんとに自転車はよいのですか? いつも、お父様にお願いしてましたよね?」

ディラの言葉に、ペチャは驚きました。

「あら、お祈りのこと知ってたの?」

「ええ、空から見ていました。きっとお父様も見ていたから願いが叶ったのです」

お父さん、と聞いてペチャは寂しい気分になりました。

でも、ナディアとディラには、お父さんもお母さんもいません。

それなのに、二人で頑張って森を守ろうとしてる。

わたしがめそめそしちゃだめ、ぐっと我慢して言いました。

「じゃあ、二人のお父さん、お母さんも見てくれてるはずだよね」

「ええ、そうだと思います」

「ほんとはね、あの自転車わたしのじゃないんだ」

『ええっ?』

「二人のご両親からの贈り物で、わたしがそれを預かってたの。これで無事に渡せたね」

ペチャにとって、それは本心だったんでしょう、とっても自然に聞こえました。

ナディアもディラも、その嘘が嬉しすぎて泣きだしそうでした。

でも、二人は思い出したのです。

父親が殺されて、母親と一緒に逃げているときのあの出来事を。

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