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王子様と二人乗り

ペチャは全力で森の中を走りました。

地面はぬかるんでいて、枯れ葉も落ちているので、いつもみたいに速く走れません。

走り疲れて喉もカラカラになったので、少し休みたくなって周りを見渡しました。

どこを見ても同じような木々が並んでるばかりで、方角もわかりません。

「ここはどこ? どうしよう」

ぼう然と立ち尽くしていると薄暗い森の向こうから、ガサガサと音がしました。

「だ、だれっ」

木の影から、2匹の犬が列を作って、ゆっくりと近寄ってきました。

ペチャよりも大きな身体で、真っ白な毛に覆われていました。

(犬? でもどうしてこんな山奥にいるの)

2匹とも真っ白ですらりとした体型で遠目には似ていました。

でも、前の犬は丸っこい目をして、しっぽをせわしく振っていますが、

後ろの犬の目は釣り上がり、肩あたりの毛がたてがみのように長くなびいていて、

鋭い牙が口元に見えます。しっぽもぴんと伸びたまま動きません。

ペチャは少しずつ後ずさりして、距離をあけようとしましたが、

犬たちの歩幅のほうが広く、すぐ目の前に迫っていました。

ペチャは声を上げようにも、疲れと恐怖でうまく声が出ません。

「ワゥゥ、ワォン、ワォン」

前の犬が優しい声で鳴いたあと、

「ゥゥゥウ、ガゥ、アォーーーンッ」

後ろの犬が叫ぶように鳴きました。

ペチャは腰がくだけて、その場にしゃがんでしまいました。

逃げたいと思っているのに、身体が動いてくれません。

「助け、て」

かろうじて、声をしぼりだしました。

森の向こうから、またガサガサと音がしました。

「おいっ、二人ともおやめなさい。怖がっています」

横に手を添えながら自転車と一緒に王子様が現れたのです。

「これを忘れちゃだめですよ。大切なものなんでしょう」

ペチャに優しく声をかけると、二匹の犬に目を向けました。

「知らせてくれて助かったよ、もう戻っていいからね」

二匹とも、王子様に向かって首を上下に動かすと、森の向こうに走って行きました。

「あ、ありがとう、今の犬たちって?」

「ええ、きみを見つけたら知らせるように言ったんですが、驚かせましたね」

「うん、とっても怖かった。でも、犬たちがいなかったら森を迷ってたよ」

「正確には、犬とオオカミですけど、普通はわかりませんよね」

王子様はそう言って口元を緩めました。

「え? オオカミって、まだいたの? 学校ではもういなくなったって」

「それで、いいのです。まだいるとわかったらきっと狙われます」

「そうだね、じゃ、犬の方は?」

「彼は飼い犬でしたが、山に捨てられたみたいです」

「それって飼い主が?」

「そうですね、それをオオカミが見つけて育てたので、ああやって仲良しなんですよ」

王子様はその言葉を自分のことのように嬉しそうに話しました。


オオカミがいなくなったのも、飼い犬が捨てられたのも、

どっちも人間の勝手な都合のせい。森がなくなっているのと同じ。

ペチャはそういった人間が憎らしく思えてきました。

わたしなら、そんなこと絶対にしないし許さない。

森を守ろうとする王子様のために何か手伝いたいと思いました。

「わたしにできることってない?」

王子様は少し考えて返事をしました。

「では、一緒に妹を探してくれませんか?」

「わかった! 妹さんどうしたの?」

「ぼくと同じように妹も魔法をかけらてしまいました」

「えっ、何になったの?」

「金魚です。夜中に飛んで探し回りましたが、小さすぎて見つかりませんでした」

ペチャは驚いた表情で言いました。

「わたし、それ知ってるかも!」

王子様も同じように驚いた顔で、

「えっ、ほんとうですか?」

「ぐるぐる回って泳いでる金魚がいたの。わたしに喋りかけてきたんだ。きっとそれだよ」

「ええ、間違いありません! 今すぐ助けないと」

「ねえ、またフクロウに戻れる?」

王子様は困った表情で言いました。

「いいえ、魔法が解けたので戻れません」

ペチャは考えました、ここから川までは遠すぎて歩けない。

この自転車が何とか飛べたらいいんだけど。

「あっ!」

「どうしました?」

「あなたの羽があれば飛べる?」

「ええ、もちろん」

ポケットに手を伸ばして、王子様に持っていた羽を見せました。

「これ、ひとつでも大丈夫?」

王子様は嬉しそうに、

「大丈夫です!」

「じゃ、後ろに乗って」

ペチャが乗ろうとするのを王子様は止めました。

「この森で自転車を漕ぐのは難しいですよ。ぼくなら森の道をよく知っています」

仕方なく、自転車を王子様に渡しました。

「ぼくの後ろに乗ってください」

王子様が手を差し伸べたとき、お母さんから言われた言葉を思い出しました。

(二人乗りは絶対にダメだからね)

「わたし、乗れない」

「どうしてです?」

「二人乗りはダメって、お母さんが」

それを聞いた王子様は笑いながら、

「これは乗るのでなく、飛ぶのです。向こうに着いたら降りたらいいんですっ!」

「あ、そっか」

ずっと空を飛んでいた王子様にとって、その自転車は自分の羽なんだな、と

ペチャはすっかり納得しました。


王子様は受け取った羽を、自転車のカゴにくくり付けました。

「じゃ、しっかりと掴まっていてくださいね」

「うん!」

森の細道をハンドルを上手に操って下ると、自転車が少し浮き上がりました。

目の前に木が見えると、

「あ、危ない! 右!」

ペチャがしっかりと道案内しました。

自転車は森の木々を抜けて、空に飛び出ました。

「わー、やっぱり空を飛ぶのって気持ちいいな」

「ええ、空って何も邪魔がないので、自由になった気がしますね」

「じゃあ、フクロウにまた戻りたい?」

「いいえ、人間に戻って一緒に飛んでいるほうが楽しいですよ」

「そか、よかったぁ」

二人が話しながら空を飛んでいると、下のほうに川が見えてきました。

「あの川!」

「わかりました。しっかり捕まっててください」

自転車が傾いて、坂道を下ったときと同じくらいの速さで降りはじめました。

「周りに誰もいませんか?」

「うん、大丈夫そう」

「じゃあ、降りますね」 

ガッ、ガッシャーン。

着地したときの振動で自転車は上下に大きく揺れました。

ペチャはぎゅっと王子様の身体を抱きしめました。

「さあ、着きましたよ」

と言われたときも、まだ抱きついていたので恥ずかしい気持ちになりました。

慌てて両手を離して、

「えと、ごめんなさい」

「いえいえ、着地するときって怖いですからね」

ペチャの顔が真っ赤なのに王子様はちっとも気づかないで、

河原をキョロキョロと見回しました。

「あの、この近くですか?」 

「そう」

ペチャはむっとして思わず素っ気ない口調で応えました。 

「どうしましたか? 少し休んでいます? ぼくはあっちを見てきますね」

(そうだよ、妹さんのことで頭がいっぱいなんだし、今は仕方ないか)

「ううん、もう平気!」

ペチャも気持ちを入れ替えて、川べりをかけ出しました。

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