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洞窟と魔法

次の日、ペチャは目が覚めるとすぐにベランダに駆け寄りました。

「あ、自転車あった!」

フクロウはちゃんと約束を守ってくれたのです。

急いで駐輪場に行きましたが、かごの中に、フクロウはいません。

(あれは夢だったの?)

でも、カゴの端っこに鳥の羽が一つ落ちているのを見つけました。

「やっぱり、いたんだ。フクロウさん、ありがとう」

ペチャはその羽を大切そうにポケットにしまいました。

家に戻って、朝ご飯を食べ終わると急いで自転車に乗って出かけました。

「そんなに慌ててどこ行くの?」

出かけるとき、お母さんに聞かれましたが、

「うまく乗れる練習してくるっ」

お母さんを心配させないよう、本当のことは話しませんでした。

「早くカギを買ってこなくっちゃ」

首からぶら下げたポシェットには頑張って貯めたお小遣いが入っていました。

自転車が少し跳ねると、ジャラジャラッ、ジャランッ。

小銭の響く音が聞こえました。


朝の空気は冷たく感じましたが、カギのことで頭がいっぱいです。

ペチャは両足に力を込めて、坂道を全力で下っていきます。

すると、すーっと身体が軽くなった感じがしました。

「あれ、どうしたんだろ?」

足の力を弱めて、周りを見て思わず「ええっ!」と叫びました。

周りに建物がひとつも見えないのです。

自転車は地面を離れて空中を飛んでいました。

自転車の両横を見ると羽根のような翼が伸びていました。

「なに、これ?」

少し戸惑いましたが、自分が鳥になったような気がしてだんだん嬉しくなりました。

ペダルを漕ぎ続けると、自転車はもっと高くなっていきます。

下を見ると建物がアリのように小さく見えました。

「わー、空って気持ちいいな。鳥になったみたい」

「そうじゃな、お前はもう仲間じゃよ」

振り返ると、フクロウが一緒に飛んでいました。

「これって、フクロウさんの力なの?」

「ああ、飛びたいって言ってたじゃろ」

「うん、嬉しい! あと自転車を見張ってくれてありがとう」

「はは、気にせんでいいさ」

「だめ、何かお礼をさせて!」

フクロウは少し考えたあと、

「なら、わしの家に来てくれんか?」

「お家?」

ペチャは少し考えました。

知らない人に付いていったらダメだとお母さんにいつも言われていたのです。

(でも、フクロウなら大丈夫だよね?)

「うん、いいよ」と返事しました。

「じゃあ、わしに付いてきておくれ」

フクロウが前を飛びはじめ、自転車はその後ろをついていきました。


降りた場所は森の中でした。

昼間でしたが、たくさんの木々に覆われて薄暗いところでした。

ペチャがそこに着いたとき、フクロウの姿はありませんでした。

「ねぇ、どこ?」

声をかけましたが、返事はありません。

ペチャは自転車から降りると両手でしっかりと支えて、進みはじめました。

(ここって家から見えるあの山?)

考えながら歩いてると、目の前に大きな洞窟が現れました。

その中は真っ暗で何も見えません。

(フクロウさんはこの中なの?)

ペチャは洞窟の前で立ち尽くしていました。

どうしよ、怖いよ。戻りたいな、とすっかり弱気になっていました。

ペチャはまたお母さんの言葉を思い出しました。

約束は守らないとダメだよ、もし守らなかったら、嫌われてしまうよ。

フクロウさんは約束を守ってくれたんだもん、わたしも守らないと。

そう心に決めると洞窟の中に入っていきました。


洞窟の中は真っ暗でどっちに進んでいいかわかりません。

足が止まってしまいそうでしたが「約束は守らないと」「嫌われてしまう」

お母さんの言葉を繰り返し呟いて、少しずつ進んでいきました。

しばらくすると、奥の方に微かな光が見えました。

「あ、光だ。あそこにいるのかな」

光のほうに近づくにつれて、目の前が明るくなっていきました。

そして、ペチャは光の真下に到着したのです。

そこは巨大なお茶碗をひっくり返した中にいるような空間で、

天井も高く大きな家が一軒、すっぽりと入るくらいの広さでした。

見上げると、お月さんが見えるほどの穴が空いていて、そこから光が差し込んでいました。

周りをキョロキョロしながら、

「フクロウさん、どこ?」

ペチャが声をかけると、後ろから声が聞こえてきました。

「ほんとうに来てくれたんですね。さぞ怖かったでしょう」

フクロウの声ではありません。

「だ、だれ? どこ?」

ペチャは震え声で質問しました。

「こちらですよ」

ペチャが振り返ると、洞窟の端っこに男の子が立っていました。

はっきりと顔は見えませんが、その声は高めで、しっかりとした喋り方です。 

「安心してください」

ペチャは声のする方に近づきました。

身長は同じくらいで、白と青のぴっちりしたジャケットを着て、

頭にはキラキラと輝く王冠がありました。

「あなたは誰? フクロウさんは?」

「ぼくが、さっきのフクロウです」

「えっ、ほんとに?」

「ええ、魔女にあんな姿にされてしまったのです」

「魔女って、信じられない」

「無理もありませんね」

「だれか信じた?」

「いえ、わたしを恐がってだれも近づきませんでした」

「うん、わたしも初めは驚いた。夢かと思ったもん」

「でも、きみは洞窟の中まで来てくれました。その勇気に感謝いたします」

話が終わると、差し込んでいた光が洞窟全体を包みこむように広がっていきました。

ペチャは思わず目を閉じました。

「ま、まぶしいっ」


もう一度、目を開けるとさっきまであった洞窟は消えて、ペチャは部屋の中にいました。

壁には絵や置き物、たくさんの花が綺麗に飾られたとっても広いお部屋でした。

「わー、きれい!」

「元々、ここはお城でした。でも、魔法で洞窟に変えられたんです」

「お城? じゃあ、あなたは王子様?」

「ええ、おっしゃる通りです」

「お父さん、お母さんは?」

「二人は魔女に殺されました。ぼくは小さかったのでフクロウに変身させられたわけです」

「そんな、かわいそう」

「もう何百年も前のことです」

そんなに長い間、たった一人、しかもフクロウとして暮らしてたなんて辛かっただろうな。

ペチャの目から涙がこぼれました。

「でも、きみが洞窟の中にたどり着いてくれて、やっと元に戻れました」

ペチャの気持ちは複雑でした。

わたしが魔法を解いてあげて、人間に戻れたのはよかったと思う。

でも、一人なんだよ。人間に戻ってもこれからどうするの?

「一人じゃ寂しいでしょ? 一緒にうちに来ない?」

ペチャは恥ずかしかったのか、話したあとで顔が真っ赤になりました。

王子様は少し驚いていましたが、

「ほんとに優しいんですね。でも、ぼくがいなくなったら仲間たちが悲しみます」

と言って大きな窓の外を指さしました。

そこには山に住む動物たち、イノシシに、シカ、ウサギにクマ、

あとたくさんの鳥たちが集まって、こちらを覗いていました。

「ぼくはこの山を守らないといけません。この数百年で彼らは三分の一に減っています」

それって私たち人間のせいだ、とペチャは思いました。

彼らが住んでいた山の麓は切り崩されて、たくさんの家が建っていたのです。

「みんな、ごめんなさい」

ペチャは窓の外に向かって言いました。

そんなこと今まで考えたことなかった。

人間ってなんて自分勝手なんだろ。

でも、わたしもその人間のひとり。 

うちに来ない?とか王子様の気持ちも考えずに言っちゃうなんてバカだ。

ペチャはその場にいるのが辛くなりました。

慌てて走りだして外に出ると森の中に逃げていきました。

「どうしました? 待って、待ってください!」

王子様は必死で呼び止めましたが、ペチャは一度も振り向きませんでした。 

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