守護霊がめちゃくちゃ憑いてる少女と雇い主の俺
俺の名前は安土卵楽。
都内で退魔士の民間会社を営む36歳。
今日は新しく雇った社員と一緒に、既に何人もの退魔士を喰ったヤバい魔者が潜むヤベェ廃校舎に来ている。
因みに、新人はコレまで退魔系の仕事に一切関わったことが無く、学校の体験実習で少し式神を使った事がある程度の正真正銘の素人だ。
えっ?
「未来有る若者をそんな危ない所に連れて行くな」って?
確かに言えてる。
間違いない。
同業者の間では〝基礎を疎かにする、天才と言われた退魔士の殉職率は通常の3倍を上回る〟と実しやかに囁かれ、タダでさえ、退魔士という職業は殉職率2位の林業を大きく突き放しての1位を毎年保持しているのだ。回避出来ることで貴重な人材を潰すのは犯罪的。
故に、末永く生きてテキパキ働いて貰う為、万全を期した三ヶ月以上の基礎教育は何よりも優先される訳なかのだが………。
俺はその基礎教育をすっぽかしてる。
これはハッキリ言ってかなりヤバい。裁判起こされたら100%負ける。同業にバレたら一生奴隷みたいにこき使われ、日の目を見ることは叶わないだろう。
だが、それを考慮して尚連れて来たしっかりとした理由があるのだ。
それは………
「社長?私は何をすれば?」
我が社の制服に身を包んだ中学を卒業したばかりの天真爛漫なザ・スポーツ少女。
ーーーを守護する為に、外へと出て来た者〝達〟を見えれば誰でも分かるだろう。
『何処じゃ何処におる!儂の可愛い雲孫を視姦しよってからに!!首を切り落としてやる!』
『足りぬ 足りぬ まだ足りぬ』
『何処に目ん玉付けとる。そいつはさっき真月の所の若造が消し飛ばしたわ』
『笑笑』
『取り込まれてた霊魂どうする?』
『舞うか?舞おう』
『NO!』
『離しちゃれ』
『馬鹿勿体ねぇだろ。俺が有効活用してやるから貸せ』
『阿保、お前の身体とっくの昔にねぇだろ。どうやって《魔喰い》する気だよ』
『彼奴、肉体が無いって自覚あんのか?』
『識らべし日ノ国なり』
『血の気の多い侍共が片付けに行ったが……、やり過ぎてないよね?何か下で壊れる音するけど』
『我死救済望輪廻導案内仕』
『とりま怠いから浄化するね。あっ、もうしたんだった』
『困ってる姿も可愛い!!』
『キモすぎワロタ』
〝守護霊〟人に憑き守護する者。
それ等は、通常は1人の人間に1人憑き、その力は千差万別。見守る力すら持たない者から、神仏にすら届き得る力を持つ者までいるという。
だがどうだ?
かつて人だった者達が、血の繋がり、続く縁、あるいは幾多の偶然によって死後も現世に残り、物資界へと容易に干渉しうる力を持つ強き魂達がたった1人の少女の元へと集まっている。
玩具の釣竿でマグロの群れを釣り切るぐらいあり得ない奇跡。
守護霊にはあまり詳しく無いが、霊の大家と威張る奴等が見れば度肝抜かれて腰抜かす姿が容易に想像出来る。
それだけ少女に憑く守護霊の数と質は凄まじいのだ。未だ全容は見通せないが、10や20ではきかない数が憑いている。
コレで分かっただろう。
高々三流の退魔士が5、6人喰われた程度の場所じゃあ、少女に危険なんて起こり得ない。
基礎教育を超大幅短縮して危険な前線に送り出す価値はある!
「あの〜、どうかしました?」
「……ハッハッハッ、何でもないよ。君はそこでボーとするだけで大丈夫だから、安心してボーっとしてて」
霊を見る力、霊の声を聞く力、守護霊が憑いている事、コレ等はイコールの関係ではない。霊が見聞き出来なくとも守護霊が憑いていることも有るし、逆もしかり。
数時間に及ぶ二者面談と取り寄せた資料、そして今までの経験から少女の内面はある程度把握している。
おバカで世間知らずな少女には悪いが、その特異性に自ら気付く頃には今まで培って来た金とコネと信用をフルに使った関係各所への根回しも終了し、文句は言えない環境になっているだろう。
まぁ、上手くいかなくても直ぐに謝罪と騙していた分の補填をすれば完全に許すとはいかないまでも、退社とまでは行かない筈。金も十分に払うしな。
コレから死ぬ程大変になるだろうが、その分モノにした時の利益は計り知れない。
未来視ないけど「大会社の長となり今まで馬鹿にして来たカス共を顎で使って、最後にはゴミの様に捨てる」そんな素晴らしい未来の構図が見える。
目指せ長者番付出演!
◇ ◇ ◇
『見ろ、彼奴の欲望に染まった眼を。顔面はイヤらしくニヤニヤしておるし、まじでキモいな』
『生き生きしてるのは良い事だね!』
『どうせ2人っきりになったら犯そうと思っとるわ。間違いない、ワシだったらする。』
『殺すなら今!お得だよ!!』
『離推奨心配親心』
『一発ヤらして、未成年の力の見せてやれよ』
『はぁ?強制的に涅槃させたろか?狂僧野郎』
『正妻に刺されて豚の糞になった僧擬きは口チャックしてて下さあぁいwww』
『ウチの子の相手は清廉潔白なイケメン金持ちしかあり得ん!顎髭の濃い40に届きそうなオッサンは許さん!!』
『清廉潔白な金持ちが居る訳ないわな』
『いや、いや、アレは性欲では無く、どちらかと言うと金銭欲だろ』
『うむ、内に秘めていた金欲が外に溢れ出ておる。目が欲に染まっとるわ』
『死す?死す?』
『我が主!あのカスの首を刎ねても宜しいでしょうか!!』
『馬鹿者、此奴を見つける為にどれだけ苦労したか忘れたか!』
(もぉ〜、皆な声の音量40デシベルぐらいにしてよ!社長の声が聞こえないでしょ!!)
卵楽の認識は間違っていた。
少女は守護霊達に気付いて〝いない〟のではない。お互いに見えて聞けて、コミュニケーションも取れており、それを上手く隠しているだけだったのだ。
そして、おバカという訳でもない。
守護霊達の現代知識すら取り入れた英才教育で、少女は自分が特別だということを学び、知っていた。
そして、それが野心家や研究者からすれば喉から手が出るほど欲しい力だということも当然分かっている。
かと言って、どうにかしようにも自分は守護霊以外何も特別なことのない、同年代より少しばかり考える脳がある小娘。出来る事など限られている。
だからこそ、少女は1人で守護霊達を十全に使っても汚い大人が手を出せ無いくらいの力を付けるまで、守ってくれる人を探すことにした。
性格、年齢、環境、人心、野心、欲望、様々な要素を想定に入れたシュミレーションを行った結果。
過去の不具から適度な野心を持ち、人の道を外れない程度に外道で、犯罪を犯さないぐらいの倫理観があり、ちょい抜けている。そんな安土卵楽が、5年と11ヶ月の長い選考期間を経て数百人の候補者の中から選び抜かれたのだ。
「よし、調査は終了だ。では帰ろうか」
「え、えぇ!?私何もしてないですけど大丈夫なんですか?!!お給料分も働けて無いような感じですけど!」
「専門的な技術だから今の君では分からなかっただけだ。勿論、最初は誰しもそんな感じだから気に病むことはない。我が社で働いていく内に、時間は掛かるだろうが理解出来る時は来る」
全ては優雅で安定した苦労の少ない生活のために、今日も少女は天然おバカを装いながら暗躍する。
これは計算高い少女といい様に扱われる男の2人の波乱に満ちた物語。
(上手く動いてしっかりと壁の役目を果たして下さいね、社長!)
『雲孫が強く逞しい子に育ってくれて儂嬉ちぃ』
『……逞しく育ち過ぎた様な気がしなくもないがな』
続きは無い!