第7話
「おめェ。面白いなっ!」
更に彼女は僕を追撃。さっきより早い。僕は息を飲み、また何も出来ない。勝手に右腕が動き、僕を引っ張って大剣を避ける。今度は僕を傷つける威力だ。石床にヒビが入るほど。
「【止まれ】」
「おっ! 体が動かねぇぞ?」
チーユの重力魔法。紫紺の出刃包丁のような大剣は地面につけたまま動かなくなり、それは襲ってきた彼女も同様。
右腕は彼女へ追い討ちをかけるように、右腕を思いっきり彼女の右脇腹に。強烈なフックをいれる。
「ひひひ、ステージ1の強さじゃねぇな」
「私の重力魔法が効かない……!?」
驚く。チーユの重力魔法が効かず。僕の拳は近くにいた、未だにチーユの魔法によって止まっていた、男を掴み取り、盾とした。男の顔面に無造作に入ったリーエさんの拳は、男の歯を2本ほど衝撃で折れ、男は白目を剥き気絶してしまう。有り得ない、ステージが違うのに、万年最弱の僕が男の人を気絶させた?
それにしても、僕はあまりにのグロさに目を背けてしまうが、まだまだ、彼女の追撃はとまら——
「じゃ、わりぃな。こいつ貰ってくわ」
「へ?」
大剣を背中に背負い、僕の腰に彼女の腕が巻かれる。そこでやっと彼女の外見に目がいく。僕の身長を越すような大きい女性で。たわわな双丘の胸が顕になっている、赤色のビキニアーマー、腕と脚には銀色の防具、腰にはスカート型の防具を装着している。彼女の背中には170センチ弱の紫紺の大剣が担がれていた。青色の乱雑に纏めた髪と、燃えるような炎色の瞳が特徴的。僕は目のやり場に困り、目を思いっきり背ける。
「お前、初心だな? 益々気にいった、ちょっと来てもらうぞ」
「ひいいい!?」
グイッと彼女の方に体を引き寄せられる。僕は鼓動が早くなる。
「ちょっと、エルから離れなさい!」
チーユが拳に重力を纏わせる。体がぐいっと引き寄されるような、力が僕にまで働いてる。ビキニアーマーの彼女は胸からスキットルを取りだし、大きく飲み込む。
緊張していて気が付かなかったが、この人、お酒臭い。とても。それは鼻が曲がるぐらいに。
「どこかで見たことあると思ったら、今話題のルーキーか。こりゃあ、めんどくせぇーな。ってことで、お前はどっちを選ぶ」
チーユが彼女を標的として、戦いになりそうな雰囲気。チーユからみたら僕たちをいきなり襲った、やばい女。だけど、僕からみたらいい人なんだ。とても。だって、リーエさんが、右腕が、彼女から離れて、チーユの腕を掴み、投げ飛ばしたんだから。
「右腕は私を選んでくれるのか、ひひひひ。嬉しいな〜」
「ちょ、エルなにやってるのよ!?」
今、何が起きたと理解するより、チーユは僕への痛憤の方が大きいらしい。片眉をピクピクと痙攣させて、僕へ【来い】という。
体が引きよされる、とてつもなく強く。これがチーユの力、凄い。これが世界で唯一無二の【重力魔法】。
「え?」
僕の背中に柔らかい感触。ちょっとでも動いたら、僕の頭は邪念に埋め尽くされる。おつぱいというものに。いや、埋め尽くされている。しかも僕の、肋骨に細枝ように細い腕が絡まって、もう、なんかごめんなさい!
こんな感触、初めてだから。16年間生きてきて初めてだから。チーユがあんなに怒ってるのも初めて見るけど!
「トンズラすっぞー!」
「んんん! エルを返しないさい!」
「もう今日はなんなんだああああああぁぁぁぁぁぁ!」
彼女は人の間を器用に通り抜け、2人がもう見えなくなり、今日2度目の絶叫を放ち、人混みに僕は消えていった。
◇◇◇◇◇
「待ってください! 今からどこに行くんですか!?」
やっとのことで下ろして貰えた僕は、彼女の一言によってついて行かざる負えなくなった。
「それと説明してください。僕の右腕の異変が分かるって」
「だーかーらー、付いてくれば分かるっていっつーだろ」
「つーってなんですか、つーって!」
女の人は胸の谷間からスキットルを取りだし、グビっと昼過ぎなのに酒を仰ぐ。女の人はほろ酔い気味で、そーいや名前言ってなかったなと、後ろを振り返る。
「私の名前はリアン・アルーコだ」
「リアンさん……僕はエル・アンコスです」
「アンコス、無意識って意味か。エルって鈍感そうだしな、ピッタリな名前じゃねーか」
「アルーコも、お酒って意味ですよね。そっちこそピッタリな名前ですよ」
「ひひひ。エルは小心者と思いきや、中々男らしいな」
「ありがとうございます」
悪態ついた言い方をして、少々、険悪なムードになりつつ、ちょうどよくリアンさんは着いたぞとある家の前に止まる。住宅街が並ぶ区画に入り、大通りからすぐの所にあるこじんまりとした家。看板にはギルド【平和の象徴】と書いてある。オリーブ? オリーブってあの、オリーブ? 都市”最弱”のギルドって別名が付けられているオリーブ?
「早く入れ、私たちの家ちょー綺麗だから、驚くなよ。うんしょ! ただいまー、我が家! ミラー、マスターはどこにいる?」
「リビング3です」
「相変わらずあそこが好きだな、マスターは」
僕は何故、最弱ギルドと謳われるギルドが僕の右腕のことが分かるのか、懸念しながら家の中に入ったら、そこは異世界だった。
「は?」
っと瞳を大きく開ける。そこは豪勢な屋敷だった。玄関前から確認できた景色とは全く雰囲気が違う。
いや、そもそもこんな大きい内装なわけがない。だって、こんなの外から見た家のサイズにあってない。
玄関を抜けると、赤い絨毯、天井にシャンデリア、真ん中に横幅10メートルの階段。天井は腕を伸ばしても届く気がしない。どこかの国の城にでもいるようにも感じる。僕はあたふたと入り込み、右側から声が。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
素晴らしく綺麗な人。金髪ロングのメイド姿で、立ち振る舞いがなんか凄い。背筋がピンとしていて、肌も恐ろしく白い。
ってか、メイドなんて初めて見た。僕は緊張からかリアンさんはどこいった!? っと探すが見当たらない。
「リアン様が人を連れてくるのは、今までに2回目です。貴方の名前はなんと仰るのですか?」
「エル……です。それより、ここは一体?」
「エル様が驚かれるのは当然です。ここは世界から断絶された空間。ある意味では、1人のために、そして1人によって作られた空間ですので」
うん? ってもう一度聞きたかったけど、彼女はうすべ笑いを浮かべて、それ以上は答えなさそうな雰囲気だす。まるでここの説明は今の説明がぴったしと言わんばかり。
僕は彼女の可愛さに少々照れながら、違う質問をする。
「ここはオリーブのギルドハウスですよね? オリーブの所属人数って何人なんですか?」
「全員……と、聞かれますと少々答えづらい質問でありますね。私以外ならば7人ですかね」
「じゃあ、貴方はここで雇われているということですか?」
「そうとも捉えられ、そうとも捉えられない。私は形があるようでないようなものですので」
「では、話を変えます。オリーブには貴方のような方が沢山いると?」
僕の質問に彼女は間を置いて喋る。
「……質問が多い男性は嫌われると、どこかで聞きました。なので、そういうことです」
「うっ……そうですね」
僕は若干質問しすぎたと反省して、周りに視線を散漫させる。本当に綺麗な場所だ。ホコリひとつないだろう。少しの間、静寂が訪れ、僕が彼女に話題を出そうと考えていると。
「静寂はお嫌いですか?」
「え、いや。……嫌いというわけではなくて。何故か不安になるんです。話さないとって」
「静寂を1回受け入れてみると、また違う解釈ができると思いますよ。私は静寂が好きです。とういうよりも、静寂を求めている気がします」
僕は彼女がいっている静寂と、僕が思っている静寂とは差異があると感じつつ、静寂を切り裂く、大声が階段の先から聞こえてくる。
長々と今後の活動の方針を書きたいと思います。
この小説は絶対に11月までには終わらせます。そこを目標とし、物凄く不定期更新とさせて頂きます。
理由としてある公募の1次審査に落ち、今一度小説と向き合いたいと感じたからです。落胆はしなかったのですが、最近、村上春樹、原民喜の小説と出会い、僕の小説観が変わりつつあるのが最たる原因だと思います。
村上春樹の一人一人の登場人物の理解度と、深み。交差する思いと、ある種の社会に対して、人間に対して伝いたいものがある内容。
原民喜の体験談からなる、リアルに迫った内容。原民喜の辿った人生から培われる内容。私の今求めている正解の1つをみせられ、また両者共々に尊敬に至りました。
2人の小説を読んだ上で、私がこれから書いていく小説の意味をもう一度考えたい。何について書きたいのか、私は何を伝えたいのか。
なぜなら小説というのはある種の一方通行であり、観念と、想像の押しつけであります。
その一方通行でどれほど私が読者を感動させられるものを作れるかと考えた時、私はまだまだ土すらも出来ていないなと感じました。
村上春樹、原民喜も自分の人生から出来た小説だと深く感じ、私が今書いているもの、これまで書いてきたものは私ではなく、ただ読者をどうやって面白く思わせようというただの読者寄りの虚構にすぎませんでした。そこには一切私がおらず、本当にフィクションにすぎません。
今日から1つづつ考えていきます。それを踏まえて、私が常々小説に求めていた「かっこいい」と「伝えたい」が出来てくるのではないかと考えました。
ここから20日間、それを考え、1つの小説を書きたいと思い立ち、この小説は一旦片隅に置いてしまいます。
ですが、必ならず11月中には完結はさせます。
長々と失礼しました