表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

第2話

「げっ」

 商品の陳列を止めて、脚立の上からいつもながら歓迎されない、顔でお出迎え。店番をしていたのは赤髪ショートの前髪ぱっつん女の子。名前はチーユ・グビティ。チーユはこの薬屋を経営している夫妻の娘で、僕と同い年。緑色の服を基調とし、瞳の色は茶色で僕より小柄な女の子。夫妻が僕のことを贔屓にしてくれているから、チーユは僕のことがとても気に食わないらしい。それは本当にとっても。

「よーくもまあ、顔を出せるのわね。お金泥棒さん」

「ははは。その通りです」

 本来ならば、背嚢に詰まってるこの臭い薬草を求める薬屋など、このゼイウスには存在しない。ゼイウスならばダンジョンで取れる、ダンジョン産が主流だからだ。それなのに心優しい夫妻が僕の生活を懸念して、雇ってくれている。僕は感謝感激だが、チーユはそのことを許してはいない。僕は引きつった笑いで、店の奥に背嚢をどすっと置く。

「はい、今日のお金よ」

 チーユが懐から小袋を僕へ雑に投げ、僕はあわわわと声を出しながら受け取る。これが今日の駄賃だ。

「やだやだ。こんな臭い薬草を1年以上も取り続けるなんて。冒険者なんだから、そろそろダンジョンで稼げばいいのに」

「……チーユにいわれると刺さるものがあるなぁ。……本当にチーユは凄いよダンジョンに潜って、たったの2ヶ月でステージ2にいくなんて」

 彼女はぷぷぷ〜と口を隠して、僕をからかい、私は天才だからと誇らしげに平たい胸を張る。ゼイウスではチーユのことで話題が持ち切りだ。冒険者登録をして2ヶ月という早さでステージ2へと昇華したのだから。周りから偽装だとか、狡をしただとか、色々言われているけど、それを実績と腕っ節で黙らせる。次世代を担う逸材的な冒険者だ。

 その証拠にチーユは大手冒険者ギルドから入団の誘いが絶えないのだが、チーユはある夢を抱き未だにソロを貫き通している。だから凄いんだ。あのダンジョンを1人で攻略しているのだから。

「まあ、最近だと。【絶壁の至宝】が団長を務める、あのギルドからも勧誘されたし〜」

「え、えええぇぇぇぇ!? 凄すぎだよ!?」

 僕の大尊敬する至宝の冒険者ギルドに誘われたなんてと、僕は大声で声を荒らげてしまい、チーユにガツガツと顔を寄せる。チーユはそんなに近づかないでと、ガンと僕の頭をチョップする。

「いったぁ〜……でも、凄いよ! さすがチーユだよ! それでもちろん入団するんでしょ!?」

「するわけないわよ」

「えっ? どうして? 勧誘されるのが弱小ギルドばかりで困る〜って言ってたのに。今回は都市最強だよ!」

「いつも言ってるでしょ。私は【仮面集団】にはいるの!」

「【仮面集団】って……」

 チーユは手を合わせ、光明を抱く。何やら聞いた話によると、彼女は仮面集団に助けられて、その勇姿に一目惚れしたとか。仮面集団とは巷を沸かせる、謎多き集団。仮面を被った人物が、闇ギルドを成敗したり、一般人を殺したり、悪者から人を救うなど、活動は多岐に渡る。そのどれもが嘘か誠か、真実とはならない。まるで御伽噺的な存在。ある人は仮面集団の人数は1000人を超えるとか、ある人はステージ7以上がゴロゴロいるとか様々な噂が飛び交っている。

「なーにー、その顔は! 私が会ったって言ってるんだから信じなさいよー!」

「信じてはいるけど。心の奥底からは信じられないな〜」

 チーユはムスッと頬をふくらませて、僕の肩を拳でどついてくる。痛い、普通に痛い。彼女の逆鱗に触れたのか、プンスカと顔を赤く染め出した。

「早く出ていきなさい! もうこの店の仕切りを跨がないでよ!」

「ごめんて。また明日、来るね」

「もう来なくていいわよ! この薬草の調薬が難しいってお父さんいってたんだから! お父さんに迷惑かけないでよね!」

 いつまでも僕に辛辣なチーユの発言。最初はめっぽう落ち込んでいたけれど、これも彼女なりの優しさなのかなと思ってきた。楽観的すぎかな。僕は去り際、彼女に手を振ると、彼女はオエッと反応してくる。僕は、空笑いをして薬屋を出た。今の時間はお昼時。まだまだ時間は有り余ってる。お金を稼ぐために日雇いの飲食店に行くか、いや今日は鍛錬の日だ。チーユの話を聞いて、僕も強くならなければならない。ダンジョンに行って、己を鍛えよう。僕は浮き立たない足取りで、ダンジョンへ向かう。

 裏路地を走り、その時、

「おあ!?」

「おっ?」

 僕が裏路地の角を曲がると、1人の男とぶつかってしまった。僕はその衝撃でしりもちをつくが、男の人は体は微動だにしなかった。僕とステージの位が違う。すぐにそう直感した。武器も携帯しているし、僕と同じ冒険者だ。

「すみません! お怪我はないですか?」

「あぁん? いてぇな、いてぇーよ。肩外れちゃったかな、どうしてくれる——ってくっさ! なんだこの匂い」

 人相が悪い、ロン毛の男の人は裾で鼻元を隠して、悪い笑みを浮かべて、剣を抜く。

「治療費と迷惑費だ。金出せ、小僧」

 僕は溜飲が喉の奥まで上ってきて吐きそうになった。また弱いもの虐め。この世はステージの差で階級が決まってるといっても過言じゃない。強い者は弱い者から搾取をする。こんなクソみたいな人間でも、僕は口答えしたらボロボロな負け犬になる。裂けた右耳が震える。過去を思い出す。僕は悪い強者と出会ったら、恐怖に負けてしまうんだ。僕は瞳を揺らし、ポケットから全財産である2000ドラクマが入った袋を渡す。

「2000ドラクマしかもってないので、これで——かはっ!?」

 みぞおちを蹴られる。

「あっ……ぐっ!?」

 内蔵が蠢くほどの痛み。あまりの痛さに咽びを吐き捨てる。人もあまり寄り付かないここの路地裏では、こいつを悪党にも出来ない。今、この空間ではこの男が支配者だ。だから嫌なんだ。この都市は。

「ちっ、これだから貧乏小僧は嫌いなんだよ。2000ドラクマなんて、なんの足しにもならねぇんだよ! ほら見苦しく拾え、貧乏小僧が」

 男は地面に蹲っている僕に、袋を投げつける。チャリンチャリンと金属が擦れる音が残響し、金貨が辺りに散らばる。男は笑いながら僕の横を通り過ぎた。

「くそ……! またやられる側かよ……!」

 僕は歯を食いしばり、誰にもお金を取られまいと本当に見苦しく金貨を拾っていく。くそっ、くそっ、くそっ! って心の中で暴言を吐きながら。

「——だいじょうぶ?」

 心を撫でられる声色がした。僕のひりついたお腹の痛みが引くような御伽噺の登場人物の天使のような声。僕は視線を上へ向け、瞠目する。あっ、あうえ、あ。驚愕しすぎて、声が出ない。

 だって有り得ない。僕の目の前にいるのは、僕が心の底から出会いたかった至宝(好きな人)

「痛そうだね。私も手伝うよ」

「い、いいいややや、や! いいです! 僕がやるので、触らないでください!」

 さっきまでの侮蔑などが嘘のように、さっきまでのお腹の痛みが嘘のように、無になっていく。痛みどころか僕の体は熱い。沸騰したやかんのように顔が真っ赤になって、湯気が出てるほどに、熱い。僕は慌てて、金貨を拾い上げ袋に詰める。彼女にこんなことをさせる訳なんていかない。僕は金貨を袋に詰めて、恐る恐るリーエさんに視線を移す。リーエさんは僕のことをきょとんとした、あの宝石のような円かな双眸が僕を見ている。あの僕をだ。背中から汗がじわっと溢れ出したのは感覚的に分かる。僕はめっっっちゃ緊張している。

「お金……好きなんだね」

「……へ? あ、いや、いやぁ……そうですけど。そんなんじゃなくて。……あぁダメだ、これ。何を言っても挽回できない」

 僕は顔を手で隠してしまう。羞恥心が凄い。お金は好きだけど、好きな人にお金好きって認識されるのはかっこわるい。かっこわるすぎる。僕が恥ずかしがっていると、リーエさんは僕右手首を掴む。手からじわじわ伝わる彼女の温度と共に、僕の顔から手を引き離された。

ブックマーク、増えてました。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ