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第12話

 ◇◇◇◇◇

『ギニューさんはダンジョンを一緒に探索する仲間はいるんですか?』

『いるぞ。俺には背中を任せられる仲間が沢山な』

『いいなぁ』

『なんだなんだ、仲間が欲しいのか? エルの個性なら引く手あまただろ。エルの魔弾は見る限り10階層まで通じる威力だ。その分、5発までしか撃てない諸刃の剣だが、ダンジョンでは、窮地を脱する諸刃の剣は重宝される。サポーター件、戦闘要員ってのはどうなんだ?』

『はははは、そんな欠陥品誰も必要としないんですよ』

『そうか? 俺は必要とするけどな』

 僕の冒険者の先輩。ギニューさんには色々教わった。教わって、僕に足りないのは仲間だ。仲間がいない。

 ダンジョンは1人で攻略できるはずがない、いやさせないんだ。

『おい聞いたか。【孤独の至宝】が自身の最高到達階層を増やしたらしいぞ。ソロで深層まで潜れるなんて、化け物だよな』

 僕はリーエさんがずっと憧れだった。1人でダンジョンを攻略し、1人で強敵を討ち滅ぼす圧倒的な力。

 仲間がいなくても、突き進める力。僕は憧憬した。想いが溢れた、至宝という最強に。その中でも1番孤独の彼女に。

『強くなれないよ、エルは優しいから』

 だけど、彼女に孤独を否定された。孤独に愛され、その孤独に強く憧れを抱いていた僕を否定された。彼女は僕に仲間がいないと強くなれないよと、遠回しに言ったんだ。僕は孤独になれない。

「うっ……」

 頭がヅキヅキする。体が重い。頭が考えるのを止めさせようとする。瞼越しに明かりが僕の眼球を貫いてくる。

 意識が覚醒してきた。

「おっ? やーっと起きたか」

 目線の先は顔ではなく、胸。下から見える特大の谷間。僕は右に転がる。

「なーに膝枕してんですかっ!? やめてくださいよ!」

「あ? 恥ずかしがってんのか? ひひひ、うぶなやつ」

「誰でも驚きますよっ!?」

 顔面が沸騰するように熱く、リアンさんはスキットルを仰ぎながら、目を細めて嘲笑してくる。

 僕は呼吸を落ち着かせ、周りを見渡す。ここはダンジョンを出た、すぐ近くのベンチ。時刻は夕方、空は赤く、穴下のここはもう暗い。ダンジョンから成果を持ち帰って浮き足だっている、冒険者や、仏頂面の冒険者、様々の冒険者がダンジョンから出てきてる。

「助けてくれたのリアンさんですよね?」

「あ〜? まあ助けてやったのは確かだし、私の前で死なれても目覚め悪いからな」

 頬を赤らめながら、酒に酔いしれてるリアンさんは足を組み、ニヤつきながら僕の言葉を待っている。

「ありがとうございました。本当に助かりました」

「ひひひ! 生意気な奴から謝られると酒が進むな」

 僕を頭を上げない。ただただ、感謝でいっぱいだ。僕は助けられた。この事実は一生変わることのない事実と、一生返せない恩だ。

「ちっ、辛気臭いのは酒は進まん。よっしゃ! こいエル。私と飲もーぜー!」

「はっえ? ちょっ、また担がられる。やめてください!?」

 僕はリアンさんに強引にまた担がれた。

 ◇◇◇◇◇

「かんぱーい!!」

「か、かんぱ……い」

 ダンジョン区域。大穴の上層にある、酒場。辛酒亭(からざけてい)。喉が焼けるように辛い酒と、辛い酒によく会う塩気の強い料理が出される。お店はこじんまりしていて、テーブル席が6つ、店の奥のカウンターに席が6つ。僕達は隣り合わせでカウンターに座っている。リアンさんいわく、カウンターが1番早くお酒が届けられるからだそうだ。

 僕はお酒をあまり飲んだことの無いため、度数の弱いお酒を注文し、リアンさんはここの酒場で1番強いお酒を頼んだ。

「かぁ〜! うめぇ!」

 リアンさんが酒臭いのが分かる。この人、いっつもお酒を飲んでいる。

「なんでリアンさんはお酒ばっか飲んでるんですか?」

 リアンさんは揚げた鶏肉に、辛いソースを絡めた食べ物をフォークでぶっ刺し、口に投げ込む。

「酒は美味い。酒は私を陽気にさせてくれる。酒は嫌なことを忘れさせてくれる。ってのが色々あるけどよ、私は誰かと酒を飲むことが好きだから飲んでんだ。おめーを見てると酒が進むぞ、特にその右腕。リーエを思い出す」

 リーエ。やっぱりこの人はリーエさんと知り合いだったんだ。なら、

「リーエさんってどんな人だったんですか?」

 僕は今は微動だにしない右腕を見つめる。

「リーエがどんなやつか。……リーエはとことん孤独だった。あいつ以上に孤独という言葉が似合うやつ、私は見たことねぇな」

「孤独……」

 リアンさんは辛酒を大きく飲み込み、店主にもう一杯という。

「リーエは友達も仲間も家族もいない。常に1人だった。感情が欠落していて、いつもダンジョンに潜って、死を追い求めていた。あいつは死に酔狂な奴だったからな」

「リーエさんは死にたかったってことですか?」

「あいつの夢はモンスターに殺されることだった。早く自分の宿命から解放されたかったんだ」

 リアンさんは前に出された辛酒のジョッキをつかみ、ちびっと酒を飲み込む。

「エルはリーエに会ったことがあるのか?」

「あります。けど、とてもそんな印象を僕は感じ取れなかったです」

「なら、エルにだけ違ったのかもな。リーエに会った全員は冷えるぜ。リーエの冷たさに」

 リーエさんの冷たさ。僕は多分もう一生分からないけど、分かるような気がする。リーエさんの死体だけは冷たかった。極寒だった。

 僕は左手で右腕を触る。暖かい、僕の体温だ。

「私にもマスターにも、誰も、リーエを温めることは出来なかった。私は諦めてなかったけどよ、リーエは死んじまった。誰にも気付かれずにな」

「リアンさん達はリーエさんを殺した犯人を知ってるんですか?」

「知らねーよ。知ってたら私はここにいねぇ」

 リアンさんから殺気が漏れ出る。ビクッと僕の背筋が凍る。場の空気が殺伐として、リアンさんは悪気がある顔でわりぃわりぃ、酒が不味くなるなとにこやかな笑顔で応えた。

「いえ、大丈夫です。でも良かった……」

「良かった?」

「はい。まだ犯人が見つかってないなら僕も犯人に会える可能性があるってことですよね」

「ひひひひひ! いっちょ前のこというな。至宝を殺した奴を倒そうとするか。ならお前は強くならねーとな」

 リアンさんが僕の頭を不器用に撫でて、僕の髪の毛がくしゃくしゃになる。

「お? あのビキニアーマーはリアンじゃねぇか」

「……おっ、ビルギリウス! なんだなんだ、ダンジョン帰りか?」

 お店に入ってきた、男の人。スキンヘッドに赤色の目。武器と防具を身につけていて、重苦しく防具を脱ぎ捨てながら、リアンに近寄る。

「リアンこそ今日も今日とて酒代を稼いで来たのか?」

「ははは、まあそんなところだな」

 リアンさんはジト目でクビっと酒を仰ぐ。

「今日は小僧と飲んでるのか。まーた弱いやつと飲みやがって。笑われるぞ」

「うるせーな。いいだろ、私がいつどこで酒を飲んでも。私はな嘲笑も酒の肴に変えられるんだよ!」

 ビルギリウスさんは「そーかいそーかい」とマスターに辛酒を頼み、話を前を向きながら聞いてた僕の肩を掴み、耳元で囁く。

「リアンとは生半可な気持ちで関わらない方がいい。弱いやつほど、リアンの”呪い”に喰われるぞ」

「の、呪い?」

 ビルギリウスさんは離れたテーブルへと行き、陽気に椅子に座る。僕はリアンさんの顔を見ると、美味しくなさそうに酒を飲んでいた。僕はずっと心の中にあった、しこりを触る。

 僕は人に頼るのが苦手だ。その人が悲しむからだ。僕は悲しがる人を見るのがとても辛い。辛いから頼らないんだ。頼ったら僕にみんな期待して、悲しむだろう。僕はどうせダンジョンで——死ぬから。だけど、僕はこのしこりを持っていたとしても前に進むしかない。大切な人を失う辛さは知った、後は僕の両手で溢れない人たちだけを守りたい。

「リアンさん」

「……たは〜気になるか、呪いってはなし。いいぞ、話してや——」

「僕は……弱いんです。だから失礼なお願いだとしても僕を……強くしてくれませんか?」

「は?」

 リアンさんの拍子抜けた声。僕はそれほど変なことを言ったのだろう。そりゃあそうだ、強くなりたいってそんな曖昧なこと。だけど、リアンさんしか頼めない。だってリアンさんは強いのに、その強さを誇らしげにしないで、何故か隠してる。

 あの量のモンスターをものの5秒で倒せる強者なのに、驕らないし、自尊心も高くない。僕はこういう人に憧れる。ステージ社会のこの世界に刃向かってるこの人を。

 これが強さだから。僕がなりたい強さだから。

「……ひひひ。いいぜ、益々気に入った! 私が鍛えてやるから、毎日ダンジョン集合な!」

 くすぐったそうに笑うリアンさんに、僕は頭を下げて「ありがとうございます」という。

「じゃあ、今日はもっと飲むぞぉー! マスター辛酒、もう一杯!」

 僕は知らず知らずのうちにリアンさんの横に積み上げられたジョッキ12杯を見て、苦笑いをしてしまった。

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