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五章 それは偶然にして必然の出会い

 会場から出たオレ達は、ただ沈黙に包まれていた。

 ユウヤさんは、ただ静かにメインゲームの会場を見つめていた。彼は責任を感じているのだろう。

『さ、参加者の方は、五階に上がってください……』

 シナムキの放送が聞こえ、大きな音が響いた。そこには次の階へ続く階段が現れていた。

(そういえば、モニター室……結局行かなかったな……)

 まぁ、いいやと思う。正直、もう何もしたくないというのが本音だった。

 ――スズ姉がいない。それだけで、こんなにも心に穴が空くのか……。

 今まで姉にどれほど頼っていたのか、寄り添ってもらっていたのか、思い知った。ユウヤさんはそれを埋めるように、ふるまってくれているのだろう。

「じゃ、行こうかー」

 ケイさんが明るく振舞う。しかし、そこに僅かな陰りがあることを見逃さなかった。

 マミさんは、ユウヤさんとどう接したらいいか測りかねているように見えた。ゴウさんも、何を言うべきか悩んでいるようだ。フウやキナも、心配そうに見ている。

「シルヤ君」

 そんな中、ユウヤさんはオレに話しかけてきた。

「あまり、気に病まないでね。あれはボクが独断でやったことだから……」

 いや、違う。スズ姉ならあぁすると思って、彼は動いてくれたのだ。実際、姉さんならそんな選択をしたと思う。

 だが、オレはもう……何もかもに疲れてしまった。

 オレ達は、不思議なことに複数の未来を見ることが出来る。あの成雲家のお嬢様のように遠い未来は見ることが出来ないが、そのかわり自分でコントロールが出来て、どのように動けばいいか分かる。スズ姉はオレより正確に分かるのだ。

 それが、このデスゲームに強制参加させられる前は数時間後のものまでしか見えなかったのに、今では数日後まで見ることが出来るのだ。きっと、生きていたらスズ姉も同じように見えていただろう。

「……………………」

 その先の未来を見て……さらに、絶望したのだ。だからもう、どうでもよかった。何もかも、捨ててしまいたかった。そんなこと言ったら、スズ姉に怒られることは分かっているけど。

 その先に進んでいくと、暗い場所に出た。中心には……石碑があった。いよいよ外か室内か分からなくなってくる。いや、室内であることは確かだけれど。

 すると、一つの箱が出てきた。それは……。

「棺だね……」

 ユウヤさんの言う通り、それは棺だった。オレは恐る恐る蓋を開ける。そこには見覚えのある男性が眠っていた。

 それと同時に、他のところにも棺が現れ始める。その数は……七個。オレは一つずつ調べていく。

 そこに眠っていたのは、被害者ビデオに映っていた人達ばかりだった。キナの反応を見る限り、姉はいない。外傷も……特にないようだ。

 オレは最初に開けた棺の中の男性を調べようと顔に明かりを持っていくと――男性は目を開けていた。

「うわぁ!?」

 オレは思わず声を上げてしまった。「だ、大丈夫かニャン!?」とフウが駆け寄ってくれた。

「だ、大丈夫……いきなり動き出したから驚いただけだ……」

 心臓がバクバク言っている。まさか目を開けているとは思わないだろう。

「やぁ、久しぶりだね、シルヤ君」

 その緑髪の男性がオレの名前を言った。彼の顔を見て茫然としている間に、他の棺からも起き上がってきた。

「最悪な目覚めね……」

 そう言ったのは不思議なフードの女性。

「やってやんねぇよ……」

 ぼやいたのは同年代であろうあの学ランの男子。

「は、早く帰してくれ……」

 懇願したのはスズ姉の名前を知っていたスーツ姿の男性。

「あー……スズちゃんがいないんだ……」

 スズ姉がいなくてなぜか落ち込んでいるのは焦げ茶色の女性。

「なんで俺らがこんなことを……」

 そう言うのは、帽子を被った大学生ぐらいの真面目そうな男性。

「今更あがいても無駄よ……」

 諦めている様子なのは小学生ぐらいの暗い表情が目立つ女の子。

「フン。誰の相手をすればいいんだ?」

 不敵に微笑んでいるのは、恐らくこの中で一番ガタイのいい褐色の男性。

 そして、この緑の髪の男性は……。

「シールヤ君、ボクのこと、覚えてるかな?」

「……アイト?お前、高雪 愛斗だよな?」

 そう、この緑色の髪の男……オレとスズ姉の共通の知り合いの、アイトだったのだ。

「そうだよ!いやー、本当に久しぶりだねー!」

「何でここに……?」

「だって、ボクがここのフロアマスターの人形だからね!あれ?スズエさんは?」

 キョロキョロと見渡し、スズ姉がいないことに疑問を覚えたらしい。というより、フロアマスター?こいつが?

「……スズ姉は、最初のメインゲームで……」

「……え?スズエさん、死んじゃったの?」

 オレが答えると、アイトは寂しそうな表情をした。

「……そっか……死んじゃったか……」

 そして、狂ったように、壊れたように笑い出す。

「あ、は。あははっ!理不尽に殺されちゃうなんてスズエさんもついてないなぁ!人肉なんて興味ないけど、こういうことならぐじゃぐじゃにして食べてしまえばよかった……!」

「……は?お前、何、言って……」

 なんで、そんなこと言えるんだ……?こっちは姉貴が死んでしまって、心にぽっかり穴が空いているのに……。

「だって、ボクスズエさん大好きでずっと待ってたのに!こんな結末になるんだったらその方がよかったよ!」

 ナニヲイッテイルンダコイツ……。

「……ってめぇ!」

 オレはアイトに掴みかかっていた。

「スズ姉がどんな思いで!こんな理不尽なゲームに参加してたと思ってんだ!」

 オレがどんだけ、姉さんを慕っていたと思っているんだよ!

「知ってるよ。君を生かしたいと思って身代になったんでしょ?本当に弟思いの素晴らしいお姉さんだよねー!自分は死ななくてもいいって分かってたのに、君を救い出すために自ら死ぬ道を選んだ哀れな女の子だよ。あー、本当に」

 笑っていたアイトは、突然真顔になった。

「バカな女だよね。自己犠牲の塊のような「異常者」だよ、本当にさ」

「お前……っ!」

 ギリギリと怒りで震えていると、誰かが肩を叩いた。

「シルヤ君、落ち着いて」

 ユウヤさんだった。彼も手が震えていた。それを見て、オレは少し冷静になりアイトから手を離した。

「あれ?ユウヤだー!あはは!君もいたんだね!」

「……………………」

「いやー、嬉しいなー。あとはここにスズエさんとエレンとシンヤがいたらよかったんだけどなー!」

 どうやらアイトはユウヤさんとも知り合いらしい。兄さんとも会っていたのか……。

 だが、シンヤって誰だ?聞いたことがないが……。

「まぁ、無駄話はここまでにして、早速ミニゲームを始めようか。ヒトゴロシゲームをね!」

 ……は?何を言っているんだ?こいつ。本当に、あのアイトか?

 しかし、アイトはそのまま生き生きと進めていく。

「ペアになって、ボクを殺したらクリアだよ!簡単でしょ?

 それじゃあ、ペアを発表しまーす!」

 アイトが言うと、皆の首輪が鳴った。そこから赤い糸のような光が伸び――学ランの男子の首輪に繋がった。

「これは……?」

「君達にはこれから「人形達」と一緒に行動してもらうよ!あー、でも、ボクもう「アイト」って名前は使えないから、シルヤ君が代表してボクに新しい名前をつけてよ」

「なんでオレがつけないといけないんだ?」

「好きだから?」

「気色悪いからやめろ」

 にっこりと笑うアイトに少しいらっと来た。オレは少し考えて、

「……ざっそう?」

 冗談めかして言った、つもりだったが、なんと「本当にその名前を名乗っていいのかい!?」と喜んで名乗ろうとしたのだ。

「ごめん悪かった謝るからやけくそになるな」

 まさかこっちが止める立場になるとは思わなかった。

 こいつ本気で「ざっそう」と名乗るつもりだったのか……?

 確かにこいつ、どこかヤンデレサイコパス気質はあったが……まさか悪化してしまったのか?

「えー?じゃあなんだったらいいのさ?」

「犬か」

 いや、子供か?まぁこの際どちらでもいいが。

 ……緑の髪、か……。

「グリーン、なんてどうだ?」

「ボクは構わないよ。いやぁ、いい名前をもらったなぁ!」

 ……ぜってー思ってねー。名前にするには割と適当の部類に入るし。まぁ、本人がいいならそれでよしとしよう……。こいつに何言っても無駄だし。

「ほら、ボクにも名前がついたことだし。お互いに自己紹介してねー」

 アイト改めグリーンがそう言った。皆は顔を見合わせて、どうするか悩む。

「……オレは憶知 記也。高校生だ。スズ姉とは名字が違うが……これでも双子の弟だ」

 誰も言いだそうとしないので、代表してオレから名前を言う。きっと、スズ姉もそうするから。

「オレは秋原 蘭。お前と同じ高校生だ」

「よろしくな!ラン」

 それを合図にするように、他の人達も自己紹介を始めた。

「わ、私は中松 廉人だ……」

「ぼくは珠理 風だニャ!よろしくニャ!」

「俺は三代 孝だ。お前、筋肉少ねぇな。鍛えてやろうか?」

「遠慮するよ……。ボクは祈花 佑夜」

「俺は霜月 怜。一応、大学生だ」

「わ、わたしは佐藤 希菜と言います……」

「ゴウさんが私のご主人様?私は道新 舞華と言いますぅ!」

「お、おう……そんな軽いノリでいいのか?ワシは梶谷 ゴウじゃ……」

「私は高比良 ゆみ。大学生だよ」

「あたしは松浦 麻実。よろしくな」

「……如月 奈子」

「小学生ぐらいかー。俺は野白 啓だ」

 えっと……フウがレントさんと、ユウヤさんがタカシさんと、キナがレイさんと、ゴウさんがマイカさんと、マミさんがユミさんと、ケイさんがナコとペアか……。

 人形……。

 そこでふとスズ姉が遺した手紙を思い出す。

「……なぁ、グリーン」

「どうしたの?」

 オレはじろっとグリーンを睨む。

「本当に、今出会った人達は「人形」なのか?」

「当然じゃないか。「何を」疑ってるの?君は」

「へぇ……」

 オレは腕を組みながらグリーンをじっと見ていたが、

「……まぁ、いいや」

 ため息をつく。どうせ確証はまだないし。

「本当に、意外なところで勘が鋭いなぁ。でも、そういうところ、嫌いじゃないよ。むしろ大好きだ」

「気色悪い、やめろ。そっちの趣味はない」

「厳しいなぁ」

 火花がバチバチなっている。そんなオレを見かねたのか、ケイさんは肩を叩く。

「シルヤ君、落ち着いてねー」

「……そうっすね」

 こんなの、敵の罠の可能性だってあるのだから。

 ――いや、こいつの場合はからかっているだけか……。

 何となく分かってしまうのが悲しい。だってすっごい笑顔だ。あれはからかっている表情だ。

「それじゃ、あとは人形達に聞いてね」

 そう言って、グリーンはどこかに行ってしまった。まぁ、あの調子じゃあいつ、何も話さないからな……。

 ……とにかく、人形達に話を聞くしかないか……。

「あの、少しお話を聞かせて……」

「鍛えてやろうか?」

「遠慮しておきます……」

 なぜこんなに鍛えさせたいんだ……タカシさん……。

「えっと……人形だけだがペアと一定距離離れると、首輪が発動して首がとれるらしいな」

「マジか……」

 ランの言葉にオレは冷や汗をかく。それなら、気を付けて行動しないとな……。

「あとは、怪物が襲ってくるらしいな」

「誰かを殺すまで、攻撃を続けるって……」

 タカシさんとナコがそう言った丁度その時、妙な出で立ちの何かが現れた。まさか……。

「これが怪物か?」

「……だろうな……」

 オレは真っ先にフウとキナ、ナコを後ろに庇う。ケイさんがそいつの観察をした。

「武器は……刃物を持っているねー。あれに当たったらひとたまりもないかなー……」

 それだと、死は確実だろう。さて、どうしようか……。

「とにかく、弱点を見つけ出さないといけないかな?幸い、奴の身体には小細工が仕掛けられていないみたいだし」

 ユウヤさんが告げると、「動きを封じたらどうかな?」とレイさんが提案する。確かにそれはいい案なのだが……何せ手段が思いつかない。下手に掴みかかっても振り払われるだろう。その衝撃で誰かが死んでしまう……なんてことも十分にあり得る。

 ふと、怪物がユミさんを見ていることに気付いた。

「い、嫌な予感が……」

「逃げろ!」

 オレが叫ぶと同時に、怪物はユミさんに掴みかかった。

「ちょ、放してよ!」

「てめ……!」

 オレは怪物の身体を引きはがそうとするが、すぐに飛ばされてしまった。

「いっ……!」

 痛みが走るが、これぐらいスズ姉の痛みに比べればなんてことはない。そのまま、怪物をにらんだ。

 どうすればいい……?どうすれば……。

「な、なぁ、転ばせられないか?」

 ランの提案に、なるほどとオレは気付いた。

「すまない、少し離れててくれ……!」

「な、シルヤ!?」

 オレはスライディングで怪物に足を引っかけた。足に痛みを覚えたが、今はどうでもいい。とにかく弱点を……。

「頭だねー。その赤い光を壊すんだよ」

 ケイさんがそう言ってくれた。つまり、頭を狙えば……。

「任せて」

 ユウヤさんが手を出すと、火の玉が複数出てきた。

「燃やし尽くせ」

 その言葉とともに、怪物にその火の玉が飛ぶ。その熱で赤い光が壊れたようで、怪物は消えた。

「ふぅ……狐火を使えてよかった……」

 ……そういえば、モリナが人ならざる者の血を引いていると言っていたな……。

「こういう時、スズエさんがいてくれたらもっといい方法が見つかったんだろうけどね……」

 確かに。なんなら力業で解決してくれるかもしれない。あの細い身体のどこにそんな力があるんだって程、強いから。

「気を付けてくれ……さっきみたいに、怪物が襲ってくるって言っていたから……」

「戦いながら、ですか……。ちょっと考えて行動しないといけませんね……」

 レントさんの言葉にユウヤさんとオレは考え込む。……ここは、多少怪しくても人形達と行動するべきだろうな。だが、いきなり別々に……というのも出来ない。信用したいが、どうしても出来ないのが現状だ。

「それじゃあ、一緒に探索しようか」

 ユウヤさんがそう言った。「フン。まぁいいか」と彼のペアであるタカシさんも渋々ながら頷いた。

「スズ姉ちゃん……会いたい……」

 不意に、フウが涙目で呟く。スズ姉の話が出て、思い出してしまったのだろう。

「フウ、大丈夫。何かあったらオレが守ってやるからさ」

 そう言って、オレはフウの頭を撫でた。スズ姉がいつも、オレにしてくれたように。

 ――兄さんと、こうやって一緒に過ごすことも出来たのかな……。

 スズ姉も一緒に、エレン兄さんと遊んで……なんて未来もあったのだろうか。

(今は、そんなこと……)

 何度も何度も自分に言い聞かせる。

「兄ちゃん……泣いてるニャ……?」

 フウに指摘され、オレは涙を流していることに気付く。オレはそれをぬぐい、

「大丈夫だ。ただ、スズ姉も同じことしてくれたなって思い出しただけだ」

 そう言って、笑った。

 そのまま立ち上がろうとすると足に痛みが走る。

「いっ……!」

「シルヤ君、大丈夫かなー?」

 足、見せてと言われ、オレは靴を脱ぐ。

「……少し腫れてるねー。包帯巻くから、じっとしててー」

 ケイさんが包帯を巻いてくれた。そのおかげで痛みはまだあるが、歩けないほどではなくなった。

「ありがとうございます」

「大丈夫だよー。シルヤ君は本当に、見た目のわりに礼儀正しいねー。スズちゃんを見ているみたいだ」

「見た目のわりに、は余計っすよ。でも、確かにスズ姉を見て育ってきたので」

 あくまでオレ達は姉弟だ、自然と姉の真似をする。それが尊敬する姉であれば、なおさら。

 歩きながら、オレ達はスズ姉の話をする。

「性格、真逆なのにねー」

「あはは……基本信じてもらえないんすけど、実はスズ姉の方が明るかったんすよ。オレはスズ姉より内気で後ろに隠れてて」

「そうなんだ?なんか意外だねー」

「あの事件が起こってから、変わっちゃって……」

 あの事件、と言うとケイさんは「あー……まぁ、それだったらね……」と納得したようだった。

「あ、でもしっかり者ではあったっす。何しろばあちゃんの料理は壊滅的で……自分が作るって志願していたみたいです」

「お母さんは?」

 まぁ、当然の反応だろう。今は共働きも普通になってきたが、それでも幼い子の面倒を見るのが当たり前だから。しかし、

「両親は……基本、帰ってこないっすね。だからおじさんが死んだ後はスズ姉、基本的に家で一人だったっす。小学校に入学する少し前まで、引きこもっちゃって……カウンセリングの先生がいなかったら多分ずっとそのままだったっす」

 おじさんが亡くなった後、スズ姉は家に引きこもってしまった。ほぼ一歩も家から出ずに家の中で研究資料を読んだり絵を描いたりパソコンをしている日々。毎日、オレや憶知家の母さん、カウンセリングの先生が家に来てスズ姉がどうなっているか様子を見に行っていた。その間、両親が帰ってくることはほとんどなかった。

「……高校に入学して、ようやく人並みに他人と関われるようになったんすよ、スズ姉。それまではオレが大丈夫そうだと思った時に輪に入れるようにしてて……」

「なるほどねー。でも、それってご両親、育児放棄だよねー?」

「そうっすね。オレもそう思うっすよ。でも、スズ姉は……それが当たり前で育ってきているから、よく分かってなかったっす」

「……そうかもしれないねー」

 子供の時の認識は、簡単に変えられないものだ。そのせいで犯罪者になってしまう人もいるぐらいだから。

「……おまわりさんはね、母子家庭で育ったんだ。母子家庭って、その当時は割と偏見が強くてね。いじめられて、自転車を川に投げられたんだ。その時、警察の人に助けられてね。それでおまわりさん、警察官を志したんだ。でも……」

「でも?」

「……警察官になった後、事件があってね。その時に間違えて発砲してしまって……殺してしまったのが、その恩人の人だったんだよ。それ以来、拳銃が持てなくなった」

 ……そういうことだったのか。だから、あの時……。

「アリカさんっていう女上司は支えてくれたんだけど……やっぱり、続けられなくてさ。このまま警察を続けても足手まどいになるだけだってやめたんだ。それからは、塾で勉強を教えているねー」

 だから「元」警察官か……。やっと納得した。

「人ってさ、何がきっかけで変わるか分からないものだよねー。オレやスズちゃんみたいに人が死んで変わってしまう人もいるし、シルヤ君みたいに誰かを守りたいって思って変わる人もいる」

 ……確かに、スズ姉を守りたかった。だから、自らが変わる努力をした。なのに……。

「シルヤ君、あまり自分を責めるものではないよ。スズちゃんはシルヤ君が大切だったから身代わりになったんだ」

 気持ちは分かるけどねーとケイさんは微笑みかけた。

 そんな中、タカシさんがオレをジッと見ていることに気付く。

「……どうしたんすか?」

 尋ねると、彼はなぜかオレの胸に触った。

「おー、案外いい筋肉してんな!」

「――――ななな何してんすか!?」

 オレは後ずさりしながら顔を真っ赤にする。いきなり胸を触られるなんて誰も思わないだろう。しかも男の人に。どこのBL展開だ。

「いやー、気になってよ。俺だって男の胸なんざ興味ないぜ?むしろお前の姉貴の方が」

「それ以上言ったら殺す」

「シルヤ君、君が手を汚す必要はないよ。ボクが代わりにやってあげるから」

 ユウヤさんは鬼神を背後に引き連れてそう告げた。

「銀髪!お前、一応俺のペアだよな!?」

「スズエさんの方が百倍大事だからね」

「うわー、いい笑顔で酷いこと言ってるー。さすが守護神」

「聞こえてますよケイさん?」

 にこりと笑っているが、すごく怖い。さすがスズ姉の守護者、容赦がない。もちろんオレも協力するけど。

「はぁ……まぁいいや。姉貴と一緒に鍛えていたのか?」

 タカシさんは一度ため息をついた後、そう聞いてきた。

「基本一人っすよ。スズ姉、割とインドア派なんで。あと異常に痩せてたんであんま運動させるわけにはいかなくて」

「そんなに痩せてたのか?」

「四十キロきることもあったっすね」

 最後に聞いた時は四十一キロだったか。スズ姉の身長は百六十五センチなので超やせ型だ。

「えっと……痩せすぎだよね、それ……」

 レイさんが聞いてきたので、オレは頷く。

「だから、三十五キロになったら病院に強制連行するって言ってたっす」

「まぁ、そうだね……」

 そういやあの時は気付かなかったけど……また軽くなってたような……。

「……味噌汁ぐらい、作ってやればよかったな……」

 今更そう思っても、もう遅いけど。

「……なぁ、後でスズエの話、聞かせてくれよ」

 ランに言われ、オレは「……あぁ、構わないぜ」と答えた。

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