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二章 それはあの日のトラウマを思い出させる

 探索していると、スズが遊技場と酒場の間に通路を見つけ出した。本当によく見つけられると毎度のことながら思う。

 その先にあったのは、

「……扉?」

 ひねってみるが、鍵はかかっている。スズが確認して、「パスワードが必要みたいだな」と告げた。「あとで調べようか」とユウヤさんが言ったのでそれに頷き、別のところを探索する。

 もう一度食堂に入り、探索していると、

「きゃあ!?」

 スズの悲鳴が聞こえ、オレとユウヤさんは慌てて近付いた。スズはしりもちをついていた。

「どうした!?スズ!」

 オレが尋ねると、震える指で箱を指さした。

「えっと……箱の中に……人形の腕、でしょうか?」

 スズの言葉にユウヤさんが「そうみたいだね」と確認してくれた。それでもスズは直視出来ていない。やはり、心の奥底では恐怖があるのだろう。それはユウヤさんが預かってくれた。ありがとう、ユウヤさん。

 スズはなんとか立ち上がり、椅子を調べていた。何かあったのだろうか?

「それにしても、二人は本当に似ているよね」

 不意に、ユウヤさんがそう言ってきた。

「そうっすか?」

「うん。確か、親友なんだよね?いつからの知り合いなの?」

 それに、オレはいつもと同じ答えを告げる。

「オレとスズは生まれた時からの知り合いっすよ。なんでも、親同士が知り合いだったみたいで」

 他人に関係を聞かれた場合は、こんな風に答えるのだ。双子だと、知られないように。

「そうなんだ。じゃあ、お互いのことはよく知っているんだね」

「もちろん。スズは最高の「親友」だ」

 ニコッとスズに向かって笑うと、スズも気付いたらしく笑い返してくれた。実際、彼女ほど素晴らしい「親友」はいない。

「なるほどね。ボクにはそんな人いないから、少し羨ましいや」

 ユウヤさんは本当に羨ましそうにオレ達を見た。そこに、僅かな淋しさを漂わせていたのは気のせいだろうか。

 ――彼にも、大切に思っていた人がいたのだろうか。

 何となくだが、そう思った。

 これ以上食堂を探索しても意味がないと悟り、別の場所を探し始めた。すると、トイレに向かう通路の途中に自販機があった。

「これ、何かないかな?」

 ユウヤさんがそれを観察して、聞いてきた。確かに何かありそうだが……。

「……自販機の下。多分、千円札があります」

 スズがそう言ったので調べると、本当に千円札があった。

「ホントにあった……」

 さすが、予知能力がある人だ。それを自販機に入れると、ガゴンとジュースではない、何か重いものが落ちた音が聞こえた。落ちてきたのは左足だった。

「カラダアツメ……なんか、嫌だね……本物に見えるし……」

 ユウヤさんの言う通り、全てが本物に見えて不気味だ。

 心配なのはスズだ。少し顔が青くなっている。

「そうっすね。スズ、大丈夫か?」

「……あぁ、大丈夫だ」

 スズはたとえ聞いても、自分ではよく分からない。それは知っているが。

「……ヤバくなったら、すぐに言えよ」

 ユウヤさんがいる手前、オレが言えるのは、それだけだった。

 もう一つの部屋には、何も置いていなかった。

「机の上に、何か置かれていた跡があるな」

 しかし、スズはすぐに気付いた。そこを見ると確かに薄くだが、何かが置いてあった跡があった。

「多分、パソコンだな」

 あぁ、確かに。この大きさはパソコンだ。

 スズは引き出しを確認した。そこには「4317」と書かれた紙が入っていた。

「これは……」

「あの隠し扉のパスワード、でしょうね」

 ユウヤさんの呟きに、スズはそう告げる。

 隠し部屋のところに向かい、パスワードを打ち込むと扉が開いた。どうやら本当に隠し扉のパスワードだったらしい。

「……入る?」

 ユウヤさんに聞かれ、スズは首を縦に振った。

 部屋はピンクに統一されていて、なんというか……。

「女の子らしい部屋だな……」

 スズはこんな部屋じゃないけど。

 なんて、そんなことを考えている暇はない。部屋の中心にあるのは……人形の胴体だろうか?これ以外目立ったものは何もないように思える。

 扉を開けたまま部屋を出る。スズが立ち止まり、右を見ていた。ユウヤさんも気付いたらしい。

「シルヤ」

 名前を呼ばれ、近付くと隠し部屋があったらしい。

「……入るか」

 二人が頷き、部屋に入る。そこにはパソコンが置いてあった。これはさっきあそこに置かれていたパソコンだろうか?

「これ……」

「使えそうですね。でも、予備電源で動いている状態、か……」

 確かにパソコンの充電は満タンだが、予備電源のことも考えるとあまり使えない。だが、持ち運べるのでいざとなれば持っていける。

「あとから調べてみようか。それまでは他の人達に内緒にしておこう」

「そう、ですね」

 ユウヤさんの言葉にスズは頷き、三人で隠し部屋から出る。そして、皆と合流して右腕と左足のことを話した。

「実は、私達も人形の部屋で見つけたんですよ」

 すると、エレンさんが右足を取り出した。これだけ見るとバラバラ死体を集めているように思える。

 スズの方を見ると、やはり真っ青になっていた。なんというか……別の世界に行っている気がする。そしてこの状況でスズが思い出すことと言えば……。

「スズ」

 手を握ると、スズは現実に戻ってきたらしい。

「あ……ごめん、シルヤ」

 オレに謝ってきた。オレは大丈夫だと言うように笑う。

「左腕だけ、か……」

 そして、スズは小さく呟いた。

「ねぇ、スズちゃん。心当たりはある?」

 ケイさんが聞いてきた。スズは考え、

「一番右端の部屋……」

 皆が分かるほど青い顔をしながら、答えた。

「……どうしたの?」

 さすがに見過ごせなかったらしい、ケイさんが真面目な顔で彼女に聞いてきた。

「…………いえ」

 長い沈黙の末、やはり首を横に振る。

「スズ、尋常じゃないほど顔色が悪いぞ。何か、分かったんじゃないか?」

 そう指摘すると、彼女は俯いて、

「……十数年前の、惨殺事件……バラバラ死体が置かれていた場所と一致するんだ」

「おい、それって……」

 聞いてはいけなかったことだと、すぐに後悔する。それは、祖母の事件のことだったからだ。

 しかし、スズは笑って、

「大丈夫だよ。私も、そろそろ乗り越えなきゃいけない時が来たってだけだろ?」

 そう、言った。やはり、スズ姉は強い。あんなの、簡単に割り切れるものではないというのに。

 スズは、意を決して話し出す。

「……森岡 香江子と森岡 謙治郎って、ご存知ですか?妻がバラバラ死体として見つかって、その後放火魔によって夫が亡くなって、その場にいた孫娘も腕に深い傷を負い、全身に大火傷を負ったという……」

「もちろん。警察になった時に犯罪史上最悪事件の一つとして聞かされているからねー」

「……待ってください。確か、スズエさんの苗字は「森岡」ですよね?まさか……」

 カナクニ先生がハッと表情を変えた。そうだ、この、孫娘というのは……。

「……思っている通りだと思います。私は二人の、孫娘です。実際、あの火事の現場にいましたから。その時の傷も、まだ残っています」

 本人の言う通り、彼女の身体には大やけどの痕が残っていて、見るに堪えないものだ。もっと言うと、腕にはその時つけられた裂傷痕も残っている。

 とても、痛かっただろう。あの時はまだ痛覚があったから。だけど、スズは心の傷が深すぎてそんなことすら気に留めることが出来なかった。

「……………………それは、悪いことを聞いたね」

「どういうことぜよ?」

 ゴウさんが疑問符を浮かべる。どうやら彼は孤児院出身ということもあり、そういったことには疎いらしい。

 皆がそのことを話すと、ゴウさんは「そ、それは……悪いことしたぜよ……」と俯いた。スズは首を振って「いえ、知らなかったんですし、ゴウさんは悪くないですよ」と言った。

「……何か、その事件とか、今回のこととかに心当たりはあるかなー?」

 ケイさんの質問に、スズは首を横に振った。当たり前だ、スズや祖父母には非の打ち所が全くない。スズに関してはむしろあんなことがあったのにここまで純粋に育ったのが奇跡なほどだ。

 もちろん、オレにだってない。だって、オレ達が双子であることは家族しか知らないハズだから。

「確か、祖母が殺される直前であろう映像を、祖母の首と共に送られてきました。確か、ここみたいに白い壁に……ロッカー室のようなところで、首を……」

 そこまで話して、何かを思い出したのか、スズは目を見開く。

「香江子さんは、ここで殺された可能性があるのかなー?」

「……わ、からない……」

 他の人には分からないだろうが、オレには分かる、明らかな怯え。

「そうだろうねー。でも、もしそうだとしたら……本当に、殺されるかもしれないね」

 あぁ、なるほど。スズが怯えている理由が分かった。

 他人が殺されるのが怖いんだ。

 スズは、自分が死ぬことよりも他人が死ぬことの方が怖いのだ。あの時のトラウマがよみがえってしまうから。

「……スズエ、ここで休んでいたらいい。あたし達が見てきてやるさ」

 マミさんの言葉にオレも笑う。

「キナとフウも、ここにいな。ユウヤさん、三人を頼んでいいっすか?」

「もちろん。すぐに戻ってくるんだよ」

 ユウヤさんがそう言ってくれたので、オレ達はすぐに向かう。

「その……スズエはあの時の孫娘だったんだな……」

 ミヒロさんが呟く。それに、オレは無言を貫いた。

 単純に考えれば、あの時のことと関係あると思うだろう。正直、オレも思っているから。だが……何か心当たりがあるかと聞かれたら、全くない。

 ……いや。

 一つだけ、ある。それはオレ達が持っているこの力だ。特にスズの力は強力で、誰が狙っているのかさえも分からないほどだ。あの成雲家のお嬢様ほどではないにしろ、この血は他人を癒し、またこの目は未来を僅かながら見ることが出来る。犯人が、それを知っていたなら……。

 しかし、それだと他の人達が集められた理由が分からない。何か他に理由があるのか?

 モニター室に着くと、机の上にはCDが二つ置いてあった。周囲を見ると、パソコンが一つだけつくようだった。

 探してみると予想通り、そこに左腕があった。それを持っていくと、「……あまり当たってほしくないものだったけど」とスズは青い顔で笑った。

 それらを持って、ピンクの部屋に向かった。部屋の中に入ると、何があるか分からないと扉を開いたまま、ケイさんが代表して人形を組み立てた。

 組み立て終わると、煙が部屋中を充満する。やがてそれが収まると、その人形が動いていた。だが、動きは人形ではなくどこか人間に似ている気が……。

「やっと組み立て終わったんですね!アタシはルイスマ、「笑い人形」です!」

 確かにずっと笑っていて気色悪いな。まるで嘲笑うような、それでいて悲しげな……。

「……あら?スズちゃん、アタシを見てどうしたんですか?」

「……なぜ私の名前を知っている?」

「うふふっ。必要な情報は既にインプットされているんですよ。ねぇ?「正の異常者」さん?」

 正の、異常者……?それに、インプットって……。やっぱり、知っているのか。

「どういう意味かなー?」

「こちらの話です。ご自分で分かっているんじゃないですか?彼女のことですから」

 ケイさんが尋ねても、人形はただ笑っているだけだった。

「ふふふ……。スズちゃんのその顔、かーわいい!ポーカーフェイスが少しだけ崩れる様を見るの、ワタシは好きなんですよ」

 確かに、今のスズは僅かに焦っているように見えた。心当たりがあるがゆえだろう。

「……ポーカーフェイスでやってるわけじゃない」

「スズにこれ以上何か言ったら、オレが承知しないぞ」

 スズを庇うように前に立ち、ルイスマを睨んだ。

「あらー!親友想いなところ、素敵ですねー! あぁいや、あなた達は厳密には「親友」、ではなかったですねー!」

 その言葉に、オレは一瞬ドキッとした。奴らはどうやら、オレ達が双子だということも知っているようだ。

「……何が言いたいんだ?」

 しかしとぼけるように、本当に分からないと言いたげに、オレは聞く。ルイスマは「それをアタシの口から言うのは違うでしょう?うふふふふ!」となおも笑っていた。どうやら、それを皆に言うつもりはないらしい。

「私は大丈夫だ、シル」

 肩を掴まれ、そう言われる。

「……お前が言うならいいけどよ」

「そもそも、ただ守られているだけっていうのも私の性に合わないさ」

 彼女らしい。かつて「サムライ女」と言われていた女だ、守られているだけは嫌なのだろう。

「それで?何をさせようとしているんだ?」

 スズが目の前の人形を睨みつけると、ルイスマは「きゃー、こわーい」と全く思ってなさそうに言った。本当に人形か?こいつ……。

「簡単ですよ。皆さんには多数決で不要な人間を選んで殺してもらうんです」

「はぁ?何言ってるぜよ?」

 ゴウさんが掴みかかろうとしたが、スズがそれを止めた。

「……下手に攻撃しない方がいい気がします」

「じゃが……」

「よく分かっていますねー、スズちゃん。フロアマスターに逆らったら首輪が爆発しますよ」

 ルイスマが笑いながら答えた。フウが「爆発かニャ!?」と真っ青にしたが、スズが「そんなこと、出来るわけないだろ」と一蹴した。

「さすが。すぐに見破ってしまうなんて。そうですね、爆発「は」しませんよ」

「……含みのある言い方だな」

 笑いながら拍手を送るその姿でさえわざとらしく、何か裏があると思った。

「まぁまぁ、百聞は一見にしかず。早速やってみましょう」

 ルイスマはスズにタブレットを渡してきた。オレに回ってきて画面を見ると自分達の名前が書かれていることが分かった。

 オレは自分のところにタップした。恐らく、スズもそうしただろう。オレでさえ、「そうしないといけない」と思ったから。

 他の人達も、押していく。

「皆さん、投票が終わりましたね。結果は……」

 ――カナクニ先生に三票入っていた。

「うふふ。カナクニ先生が選ばれましたね」

「……それが、どうした?」

 冷や汗が流れる。そう、オレ達は今、取り返しのつかないことをしてしまった気がするのだ。

 スズ、こいつが何を言っているか、分かるか……?

 分からなくなった時、姉に頼るのはオレの悪い癖だと思う。でも、どうしても怖かった。

「……待ってくれ、お前、何をしようと……」

 スズは口をついてそう言った。きっと気付いたのだろう。ルイスマは「あらあら?スズちゃん、自分で爆発はしないと言っていたでしょう?」といやらしく笑っていた。

「爆発「は」、だろう?それ以外の、死ぬような機能がついていてもおかしく、ない……」

 スズはそう言った。爆発はしないだけで、あの首輪には何か仕掛けがある……。

「……あ、あははははは!せいかーい!」

 どうやら本当にそうだったらしい。なら……。

 カナクニ先生は状況を理解していないのか、「何をおっしゃっているのか、私には理解しかねるのですが……」と首を傾げていた。

 頭の中で、警報が鳴っている。危険だと、真っ赤なランプが光っている。

「つまり……こういうことですよ」

 ルイスマが指を鳴らすと、カナクニ先生の首輪が光を帯び始めた。肉が焼けるにおい……。

 あの首輪から、高熱が出ているんだ。

 それも、かなりの高熱が。

「が、は……!」

「先生!」

 ハナさんが叫ぶが、カナクニ先生はそれどころではない。必死になって、首輪を外そうとしている。

「やめ……!やめてくれ!」

 スズはそう叫んでいた。

 ――祖父のことを、思い出したのだろう。

 目の前で、炎に焼かれる祖父……。スズはそれを、直に見てしまったのだ。恐怖で仕方ないだろう。

 やがて、カナクニ先生が倒れこみ、そのまま動かなくなった。

「きゃははは!こういうことなんですよ!なので、メインゲームでは選択は慎重になさってくださいね!」

 ルイスマは笑い声をあげながら、どこかに消えた。

「せん、せい……?」

 ハナさんが放心した様子でカナクニ先生の遺体を揺すると、その首が離れた。

「うっ……!」

 それを見た瞬間、スズが手で口を押さえた。

「スズ!?お前、早く部屋から出ろ!これ以上、見ない方がいい!」

 オレは無理やりスズを部屋の外に出した。そして、スズの隣に座る。

「スズ、あまり無理はするなよ。……ばあちゃんの首を最初に見たのは、お前だったんだから、トラウマだろ?」

 祖母の首が送られてきた時、箱を最初に開けたのはスズだった。それ以来、スズはたとえマネキンでも映像でも、首だけのものを拒絶するようになった。いつも冷静な姉が、取り乱してしまうのだ。今回は彼女なりの意地があったのか、まだマシだった。

「……だけど、「失感情症」と「無痛病」は本当に大変だな……。自分では分からないもんな……」

「……そうだな」

「そういうことだったんだねー」

 不意に、声をかけられて振り返った。そこにはケイさんとユウヤさんが立っていた。

「どうりで痛みを感じていないし、スズちゃんから人間みたいな感情もほとんど感じ取れないと思ったよー」

 確かに、スズからは人間らしい感情を滅多に感じ取れないだろう。オレはずっと傍にいたから、分かるのだ。

 彼女にだって、感情はある。

 それを、彼女自身が理解出来ないだけで。だから、オレが支えないといけないのだ。

「勝手に聞いてごめんね?でも、やっぱり気になって……」

「いえ……大丈夫です。一緒に行動する以上、いずれ言わなければいけないことでしたし」

 スズの言う通り、いつかは言わないといけないことだ。だが、もう少し後のことだと思っていた。

「でも、そうしてみると……二人は本当に似てるねー、顔立ちとか」

 ケイさんがオレ達を見て、呟いた。ユウヤさんも同じことを言っていたな。

 似ているのは当たり前だ。なぜならオレ達は双子だから。男女であるということ以外は、よく似ている。

「その……無理はしないでね。探索、落ち着いた時に再開すればいいからさ……」

 ユウヤさんはそう言って、ピンクの部屋に戻った。きっと、部屋の中ではハナさんをはじめ、フウやキナもパニックになっているだろう。

 スズ姉も、同じようになれたら楽だろうに。

 よほどのことがない限り、パニック状態になれないこの少女の苦痛は、弟であるオレにも分からないのだ。

「……スズ」

「大丈夫だよ、シル」

 スズはオレの肩に頭を乗せた。少しでもフウ達を心配させないように心を落ち着けたいのだろう。オレはそのまま、肩に腕を回した。

「スズエさん」

 後ろから、エレンさんが声をかける。彼はスズの隣に座り、頭を撫でてくれる。まるで、兄がするように。

「……辛いですね。すみません、あぁなるとは、思っていなくて……」

「い、え……エレンさんのせいではないでしょう……」

 その通りだ、エレンさんは何も悪くない。

「……あなたは……あなた達は、覚えていますか?私が……だということを」

 うまく聞き取れないところがあった。彼は深く踏み込むことなく、ただスズの傍にいてくれた。そこには確かに、何かの「愛情」があった。

 

 探索を再開する前、スズに言われた。

「シル……お前は、死なないよな?」

 そこには怯えと恐怖が含まれていた。オレは抱きしめて、

「当たり前だろ。簡単に死んでやるもんか」

 そう、言った。スズは安心したように「そう、だよな……」と微笑んだ。

 ――姉の覚悟に、オレは気付けなかった。

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