表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/12

6

音の発生源は私のお腹。

空を見上げると、この世界での太陽の役割を果たす恒星は中天を過ぎつつあった。

つまりはお昼ご飯の時間である。


お腹の空き具合と恒星の位置からして、時間の読み方は太陽と同じと考えて問題ない、はず。


沈黙に支配されたその場に、くきゅるるるる、と再び響くお腹の音。

頼むから空気を読め、私のお腹。


「……何の音だ?」


コクヨウが(いぶか)しげに首を捻る。

私の顔は今、真っ赤になっていることだろう。


「あー、えーと……」

「む、どうした」


言い淀む私と、きょとんとするコクヨウ。


「お腹、空きました……」

「む?」


口を開くも、声が小さくて聞こえなかったらしい。

意を決して腹筋に力を込め、しっかりと口を動かす。

開き直り、というやつだ。


「お腹が空きました」


お風呂かよ、と心の中で自分にツッコミを入れる。

心底どうでもいいが、恥ずかしさから目を逸らしたいがゆえのツッコミだ。


「そうか……人間は物を食わねば死んでしまうのだったな……」


失念していた、としみじみ呟くコクヨウ。


やめて!

なんだか珍獣にでもなった気分になるから!


顔を両手で覆って悶える。


「むう、そうだな……あれが使えるか」


コクヨウが1人、というか1頭でなにやら納得して、もぞもぞと動き出す。


()れ、アイリーン。少し出かけるぞ」

「はい!?」

「お前は目を離した隙に死んでしまいそうで怖い。ならば連れて行った方がまだマシだ」


黒く艶やかな尻尾がお腹周りに巻き付いてきて持ち上げられ、コクヨウの首の付け根あたりにそっと降ろされる。

尻尾、器用だね。


「振り落とさぬよう気をつけるが、しっかり掴まっていろ」

「う、うん」


身体全体でコクヨウにしがみつく。

不格好ではあるけれど、命には代えられない。


私が掴まったのを確認したコクヨウが(たた)んでいた翼を広げる。


「おぉぉ……」


思わず漏れた感嘆の声に、喉の奥でくくっと笑うコクヨウ。

強めの風が吹き目を閉じる。

次いで上昇するエレベーターに乗った時のような浮遊感。


「アイリーン、見てみるといい。体勢も安定しているゆえ、少しくらいなら動いても問題ないぞ」


吹きつけていた風がそよ風程度になると、コクヨウが話しかけてきた。

促されるまま、恐る恐る目を開ける。


「ふわぁ……」


眼下に広がる深緑の森。

手が届きそうな程近くに見える空。

それらが、地平線の遥か彼方まで続いている。


「どうだ。美しかろう?」

「うん、すごい……」


元の世界では画面越しでしか見られないような大自然。

もしかしたら、画面越しであってもこんな景色は見られないかもしれない。

ここまで広大で果てしない森なんて、地球にあっただろうか。


「少しくらいなら動いても良いとは言ったが、あまり身を乗り出し過ぎるでないぞ。落ちかねんからな」

「あ、うん」


危ない危ない。

無意識のうちに身を乗り出しそうになってた。


「む、見つけた。下降するぞ」


そう呟いたコクヨウが小さく旋回する。

次の瞬間。


「ひっ……」


いきなり急降下を始めた。

ほぼ垂直に近いうえかなりのスピードが出ているぶん、ジェットコースターよりもタチが悪い。

私は一瞬引きつった悲鳴をあげつつ、目をぎゅっとつぶって力の限りしがみつくことしかできなかった。


グルルオオオォォ! とコクヨウが雄叫びをあげる。

それから間を置かずして今度はグッと急上昇。

目を開けていなくてもわかるほど、身体に重力がかかる。


両腕、両脚がプルプルし始めてようやく、コクヨウ式絶叫系アトラクションが終わった。

先程までのほのぼの飛行に戻り、ホッと一息つく。

そして今更ながら思う。


私、絶叫系無理なんだけど。


帰りの空中散歩は景色を楽しむどころではなく、ひたすらバクバクいう心臓を鎮めるのに費やしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ