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いやいやいや、これが夢じゃないとか。

そんな、ラノベとかじゃないんだから。


「痛い……」


ほっぺ(つね)ったら痛かった。


「お前……何をしている? 痛いに決まっておろうに……」


可哀想なものを見る目を向けてくるコクヨウさん。


「え、現実? 夢じゃなくて?」

「そうだが?」

「明晰夢とかでもなく?」

「間違いなく現実だ」


これが夢じゃないって言うのなら、私は。


「どこ、ここ……」


どこに居るの?


「む? お前たち人間が大森林などと呼んでいるところ、その中心だ」


いやどこ。


「外縁部には常に入り込んでいるようだが、ここまで来たのはお前が初めてだろうよ。どうやってここの上空まで来たのかはわからぬが」


私も知りたいよ。


「あのですね」

「なんだ?」

「私がいたところ、ドラゴンなんていなかったんですよ」

「それはそうだろう。そんなあちこちにいてたまるか」


いやそうではなく。


「そもそもドラゴンというのが存在していないというか、想像上の存在というか」

「なに……?」


コクヨウさんの雰囲気が変わる。


「ドラゴンは確実に存在する。人間たちはみなそれを知っている。なにせ、空を飛んでいるのだからな。それを目撃する者は少なからずいる。それにもかかわらず、ドラゴンは想像上の存在だと? お前、本当にどこから来た?」

「わ、わからない……」


コクヨウさんの鋭い視線が突き刺さる。

小さくそう返すので精一杯だった。


「むう……仕方あるまい、視るぞ」

「視る、とは?」

「スキルだ。鑑定や看破といった類のな。今回は看破を使う」


確信に近い、嫌な予感がする。

ドラゴンのコクヨウさんといい、スキルといい。


力を抜いていろ、というコクヨウさんの目をぼーっと見返す。

先程の鋭さは消え、また柔らかな雰囲気をまとっている。

よく見れば、キラキラと光を受けるコクヨウさんの目が虹色に反射しているのに気づく。


きれいだなぁ……。


見とれていると、再びコクヨウさんの顎がかぱっと落ちる。

ついでにまん丸くなる目。


「お、お前……まさかそんな、いや、それよりも……」


何やらぶつぶつ言い始めたコクヨウさん。

正直言うと、かなり挙動不審だ。


「お前……よく今まで生きていられたな?」

「え?」

「いや、それよりも本当に生きているのか? 実は死んでいる、と言われても驚かんぞ」

「生きてますけど!?」


なにがどうしてドラゴンに生死を疑われるような事態になってるんですかね?


「その、お前のステータスがだな……あまりにもひんじゃ……ぜいじゃ……いや、か弱くてな」


今貧弱とか脆弱とか言いかけたな?


「我が今まで見てきた人間たちの10分の1程度しかないぞ」

「まじか……」

「大森林に入るのがステータスの高い実力者だということを(かんが)みた上でも、お前のステータスは低すぎる」

「なんと……」

「それではこの辺りの魔物に軽くじゃれつかれただけで死ぬぞ」

「ひぇっ……」


エマージェンシー、エマージェンシー。

いきなり命の危機です。


「とにかく、死にたくなければ我から離れぬことだ。ドラゴンに喧嘩を売る阿呆はおらぬ。命知らずを除けばな」


ねぇそれフラグって言うんだよ、知ってる?


「それと……」


何やら言い淀むコクヨウさん。


「お前は、異なる世界から来たのだな……アイリーン」

「異なる、世界……」


あぁやっぱり、という諦観と、認めたくない、という嘆きが私の中でせめぎ合う。


「……我はしばし眠る。その間なにか聞こえても気の所為であろう。起きた時に鱗が濡れていればそれは、雨にでも降られたのであろうな」


それだけ言って、コクヨウさんは頭を地に伏せて目を閉じた。


ぽろり、と涙が零れる。

一度溢れ出した涙は止まらない。


「ふっ……うぅ……」


嗚咽(おえつ)を噛み殺して、今まで寄りかかっていたもの、コクヨウさんのお腹に縋り付く。


そっと巻きついてきた尻尾はきっと、コクヨウさんが寝ぼけたのだろう。

時折薄目を開けて私を窺うコクヨウさんに気付かぬフリをして、そう思うことにした。

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