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「重い! 潰れる! コクヨウ助けいやぁああ⁉ 無理無理ギブギブ!」
「何をしているのだ、お前は……」
スライムやら角ウサギやらに押しつぶされて身動きがとれない女と、それを呆れた目で見やる真っ黒なドラゴン。
ついでにプリケツ振りながら周囲を駆け回る根菜類。
何を隠そう、はたから見れば魔物に襲われているようにしか見えない私こそが、この魔物たちの主であり、世界最大にして最も有名な心央の大森林のダンジョンマスターなのである!
え、見えない?
うん、知ってた。
事の始まりは、遡ること……何年だ?
たぶん三十年や四十年は余裕で超える。
それくらい昔の事。
☆☆☆☆☆
その日も、いつも通りの時間に目が覚めた。
朝ごはんを食べて、身支度を整えて、さて大学へ行こうかと玄関から一歩踏み出したところ。
「ぉわっ!?」
踏みしめるはずの地面がなかった。
足元にポッカリと黒く大きな穴が大口を開けていたのである。
「ひょぇあああぁぁぁぁっ!?」
ヒュンッと足元から闇に呑まれる。
自由落下に従って真っ逆さまに落ちていく身体。
上を見上げれば遥か遠くに青空が覗いている。
その光も、みるみるうちに小さく、小さくなっていき、やがて見えなくなった。
それでも落下は止まらない。
自分の手も見えない暗闇の中、私の意識もブラックアウトした。