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しずる

俺の名前は長谷川恭弥はせがわきょうや、退屈な日常に飽き非日常に憧れる、どこにでもいる普通の大学生だ。

今日も大学で退屈な講義を聞き、暇つぶしのようにサークルに顔を出して帰ろうと廊下を歩いていた。

その時だった。一人の女性、いや少女という形容の方が正しいだろうか、150㎝ほどの少女がこちらに向かって歩いてきた。

腰まで伸びた明るい茶髪は蛍光灯の明かりに照らされてキラキラと輝いている。

はて、こんな美少女がこの大学にいただろうか?

いや、実際この大学には芸能人なんかもいたりするわけなんだが…ああ、ひょっとしたら芸能関係者か何かか。

まあどちらにせよ、普通の大学生な俺には関係のないことだ。

俺は止まっていた足を再び動かしてサークルへと向かう。

そして、少女とすれ違って…


「君も、『能力者』なんでしょ?」


「…っ!?」

突然のことに動揺を隠せなかった俺は、思わず『能力』を使っていた。

人差し指が軽く曲がる

世界が少し巻き戻る

俺と少女は再び向かい合って立っていた。


俺の『能力』は『【右手の人差し指を曲げると】時を巻き戻すことができる』能力。

今は五秒だけ時間を巻き戻した。

俺の能力…いや、俺が能力を持っていることは誰も知らないはず!

奴は一体…!?


少女は再び、何事もなかったかのように歩き始める。

俺は身構えた。

少女との距離が再び0になる。


「君も、能力者なんでしょ?」




…アレー?

いやいや、おかしいだろ?

今のはあれだろ?実は俺のことを知ってて、「君の能力は効かないよ」みたいな流れだろ?

なんで普通に能力が効いてるんだよ?

そんな俺の心情を知ってか知らずか、少女は話し始める。

「ああ、驚かせてしまったかな?私の名前は高森明日香たかもりあすか、『能力』を統括している『組織』の人間だ。」

そして少女は尋ねてもいないことを話し始めた。

「矢世田大学政治経済学部一年で高校は矢世田付属高校、スリーサイズはひ・み・つ」

渾身のドヤ顔である。

…何故だか無性にイラッときた俺は、知らず知らずのうちに右手の人差し指を曲げていた。


世界が巻き戻る


「…君も、能力者なんd」

「もういいわ!?」

俺はつい叫んでいた。

俺が言うのもあれだが、何回このくだりをするつもりだ!?

「きゃっ!?」

高森がかわいらしい悲鳴を上げた。

「一体何なんだあんたは!」

「わ、私?ふふ、私の名前は…」

「政治経済学部一年の高森明日香だろ。そこはもういいから」

「な、なぜそれを!?まさかあなたの『能力』は…」

「それより、『組織』ってなんだ。それと君『も』ってことはひょっとして…」

「…そう。なら話が早いわ、場所を移しましょう」

そういうと高森は俺に背を向けるとつかつかとどこかへと向かった。

無駄にヒールがかつかつ鳴っているのが無性にイラっとする、がしかたないのでついていくことにした。

あ、こけた。




「で、なんでここなんだ?」

高森に連れてこられたのは、正門から出てすぐにあるファミレスだった。

「ふ、こういう話は『敢えて』人が多い場所でするものよ。」

ふふん、とドヤ顔する高森。


うぜぇ…。

普通に人がいないところにしとけよ。

「あ、すいません、二人、テーブル席で。」

「申し訳ありません、ただいまテーブル席は満席でして。もう少ししたらお二人用のお席が座れますので、そちらでお願いします」

「あ、はい…」

あほか、こいつ…。

しかたないので、店の前で少し待つことにした。

これは、今日のサークルは無理だな…。


「改めて、私の名前は高森明日香、『組織』の人間にょ」

噛んだ。

「…そうか。知っているんだろうが、俺は長谷川恭弥。『能力者』だ。早速だが聞きたい、『組織』とは何なんだ?」

俺がそういうと高森は小刻みに肩を震わせた。

なんだ…?そう思った次の瞬間、高森は口を開いた。

「もー!噛んだこと触れてよ!そしてなんか面白い感じにフォローしてよ!それができないならあんたも噛みなさいよ!」

プチン、俺の中で何かが切れる音がした。

俺は高森の胸ぐらをつかんでいた。

「うるせー!こっちが流してやってんだからさっさと流せよ!?てかさっきから話が進んでねーんだよ!さっさと話せ!」

「あ、コーラ二つお願いしまーす」

「話を聞けー!?」

だめだこいつ早く何とかしないと…。

そんなことを考えていると、高森が小声で言った。

「まあ落ち着きなよ。まずはどうして君が『能力者』だと分かったか、知りたくない?」

「…っ!?」

思わず体に力が入る。

確かに、俺は誰にも『能力』のことを話していない。痕跡も残していないはずなのに…。

「ちょ、そろそろ限界なんだけど、長谷川、ギブギブ…」

いやまて、少し前に『能力』を使ったな。

まさかあの時に…。

「ちょ、はせ、まじ、しにゅ、げふ…」

いやしかし…

「こちら、コーラでございます。」

「あ、ありがとうございます」

店員の声で意識が戻った俺は、自分が知らず知らずのうちに高森を殺しかけていることに気が付いた。

手を放す。

「げっほげっほ…ヴァー、死ぬかと思った…」

「す、すまん。それより、どうして俺が『能力者』だと分かったんだ?」

「あんた、人の命をそれよりって…まあいいわ」

高森はコーラを一口含んだ。

「げっほげっほ」

むせた。

こいつはどこまで人をイラつかせるのだろうか。

「げふげふ、なぜあんたが『能力者』だと分かったか、それはあたしが『【首をかしげると】半径1mの能力者がわかる』能力を持っているからよ」



「…はあ」

「ちょっと!今『なにその能力使えねー』って思ったでしょ!絶対思ったでしょ!」

「思ってねーよ」

「嘘よ!『組織』の人とおんなじ反応だったもん!」

「ああ、やっぱそうなんだ…」

なんか急に『組織』とやらに親近感が湧いた。

ていうかこいつ、最初とキャラが違いすぎだろ…。

「とにかく!『能力者』は『組織』の庇護があった方が何かと便利よ。あたしが連れて行ってあげる」

そういう高森の表情は、屈託のない満面の笑みだった。




「…で、ここがその『組織』なのか?」

高森が連れてきたのは大学近くのマンションだった。

「そう、ここの地下が『組織』の本拠地よ。ちなみに、私の家でもあるわ!」

「へー…」

「あ、もちろん何号室かは言わないわよ?あなたにストーカーされるなんて嫌だもの」

このアマ…、多少見てくれがいいからって…!

いやいや、落ち着け俺、これ以上同じことを繰り返すのは時間の無駄だ。

スルーするのだ。


「と、着いたわよ」

マンションのエントランスから階段を降りきった俺たちの前には、やけにごてごてした装飾の扉があった。

コンコン

「入るわよー」

「いや普通の家かよ!?」

ガチャッと音がして高森がドアを開けた。

中には…


畳 テレビ ちゃぶ台の上には煎餅 そしてその周りに散らかったごみ


…完全なるダメ人間空間ができていた。


「ちょ、今日新人連れてくるから片付けてって言ったでしょ!」

「あれ?それって今日だっけか、すまんすまん」

そう言いながら部屋の中央で立ち上がった美人な女性は、朗々と叫んだ。

「私は『組織』の総司令!名前は…」

「その前に下はいてください!!」

高森が叫んだ。

総司令はシャツにパンツ(下着)という随分とラフな格好だった。

「おっと、いかんいかん」

ごそごそ あ、あった。

……。


「改めて、私は『組織』の総司令!名前は葉隠香織はがくれかおりだ」

キリッ

「いや、そんな格好つけてもなんかもう色々手遅れなんですけど…」

なんなんだこの人たちは…色々と残念すぎる。

「あーっと、長谷川恭弥です。『能力』は『【右手の人差し指を曲げると】時間を巻き戻すことができる』能力です。よろしくお願いします…?」

「ああ、よろしく。それじゃあ私はテレビの続きを観るよ。ゆっくりしていきたまえ」


……へ?

「あ、あの…『組織』って何か活動とかしてないんですか…?」

「ん?うちは特にそういうのはないぞ。せいぜい週一で集まるくらいだ」

「あ、そうなんですね…」

「他にも何人かいるから、その辺の紹介は高森、任せた」

「はーい。総司令はとりあえず片付けてくださいね」

「はいはい、それじゃあかいさーん」

「お疲れ様でーす」

「あ、お、お疲れ様です…」

俺たちは部屋を出た。

バイトか!?




階段を上がって、フロントに戻ってきた。

「じゃ、あたしは帰るけど、まだなんかある?」

…そもそもお前が連れてきたんだろうが!?

なにちょっとめんどくさそうなんだよ!?

「あー、じゃあ連絡先を教えてくれ」

「は!?あんたそれで毎日変な文章送ってくるつもりじゃないでしょうね!?」

イラッ

こんの…自意識過剰バカは…!

「はあ、ちげーよ。集まりをいつやるかとか知らねーし、連絡とれないと色々不便だろうが。安心しろ、俺は業務連絡しかしないから」

「…大丈夫?友達いる?電話してあげようか?」

「そんな憐れむような眼でみるんじゃねえ!友達くらいいるわ!文字を打つのが面倒なだけだ!!」

「あっそ、じゃあはい、これ」

「ん…」

連絡先の交換はものの数秒で終わった。

「じゃあ、あたし帰るわ。お疲れー」

「おう、お疲れ」

高森に背を向けて、俺はマンションを出た。

空は嫌なくらい晴れてて、もうすぐ夏が来ることを予感させた。

まあ、そんな清々しい空とは反対に俺の心は曇天なのだが。

「…なんでだ」

少しのわくわくと期待を持っていた俺の非日常は、予想以上にしょっぱいものになりそうだった。

「なんでなんだー!!」

これは、そんな残念系異能力者たちの、少し残念な話だ。

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