魔王に成り上がった転生者~最強チートと四天王で異世界無双~
世界征服して魔王になりたい。
信念の、美学のある真の強者になりたい。
なぜそんなことを考えることになったのか。それはもうわからない。
きっと色んな影響が積もり積もって、そうなったのだ。
ただ「魔王」というカッコいい響き。
あるいは俺がヒーローよりも悪役に惚れるタイプだったか。
中二と言われればそれまでだが、俺の魂に魔王という言葉は焼き付いた。
善悪を超えた信念と圧倒的な力。
部下を率いてスケールのデカいことをする。
――カッコイイ!!
俺もああなりたい!
俺は強く――強く、心の底から憧れた。古今東西の魔王を研究して実践しようとした。
社畜労働で稼いだ金をどれほどつぎこんだか。
台詞や立ち振る舞いも完璧に練習した。特殊メイクも独学で習得した。
裁縫を頑張って黒マントだって作ってみた。
……でも悲しいかな。
現実世界で出来る事には限界がある、当然だ。
俺は特別な存在じゃない。特別な存在になろうとした一般人だ。
ラノベで言ったら所詮モブでしかない。
俺にできたことは世界最高のVRMMORPGで世界ランク1位になり、魔王と呼ばれたくらい。
並みいるライバル達を倒して、たくさん取材もされた。
ゲーマーなら俺のハンドルネーム『ナイト・クロウ』の名前を知らないやつはいない。
身長2メートル、漆黒の鎧、空間を切り裂く魔法を極めて編み出した、至高の魔王剣。
最後にいつでも風にたなびく闇色のマント。
どんな敵でも容赦せず斬り捨てて、勝ち続けてきた。
確かに気持ちは良かった。愉快でなかったといったら嘘になる。アドレナリンがドバドバ出た。
でもこれじゃダメなのだ。本当の、本気で魔王になりたい。
まぁ、どうすればいいのかはわからなかったが。
だから俺の元に変なメールが来た時も、不思議には思ったが迷いはなかった。
『真の魔王になりませんか?!』
『あなたのイメージする最高の魔王を具現化します!』
『YESならボタンを押してください!』
どうせ何かの取材だろう。
前にもテレビの取材があった。その時はノリノリの魔王ルックを見せてやった。
きっとちょっと変わった取材だ、うん。あるいは衣装を揃えてくれるのかもしれない。
ウィンドウ画面にはYESボタンがある。
魔王と名が付くものであれば、俺が断るなんて死んでもありえない。
背を見せる魔王なんてありうるか? 絶対にNOだ!
魔王とは挑戦マインドそのものなのだ。
「やるに決まってるだろ!」
YESを選択した瞬間――俺の視界が暗転する。
あれ? そう思った時には意識が遠くなった。
もしかして、これってマジなやつ――?!
♢
気がつくと、俺は大きな祭壇の真ん中に立っていた。
とにかく暗い……。窓もないし、かがり火が少しあるだけだ。
どこなんだ、ここは……?
YESボタンを押した後、意識がなくなったみたいだが。
そうだな、これは夢だ。夢に決まってる……。
なんかスゲー質感がリアルなのも、土くれの匂いがするのも、俺の目線が高くなっているのも、きっと偶然だ。
HAHAHA!
ヤベェ、もしかしてこれって異世界……だったりするのか。
原因はさっきのメール?
ずるり。
何かが闇の中で動いた。俺以外に、誰かいるのか?
「ぐふふふ……成功! 実験は成功だ!」
ねっとりとした声が響いてくる。
ぬらっと人影が出てくる。
……キモッ。イゾギンチャクが歩いているみたいだ。
触手がいっぱいで、美的センスの欠片もない。
しかもなんか、喜んでいるのか触手が揺れてるし……キモッ!
どう見ても悪役である。
「我輩は【探求の魔王】ヌラーゾ! 異世界の魔獣よ、我輩がお前の主だ! 存分に崇めるがいいぞ」
ああん? 気持ち悪い声で何言ってるんだコイツ。
というか、本当にリアルな夢だな……まるで現実みたいだ。
まるでホラー映画のような状況だけどな。
脳内でぐるぐると状況整理していると、ヌラーゾが不機嫌そうな声を上げる。
「オイ、なんとか言ったらどうなんだ? せっかく生贄をたくさん使ったのだぞ。でくの棒じゃ困るんだ」
「……生贄?」
「お、喋ったな。ぐふふ、そうだ! 手間はかかったがな……コイツだ」
ヌラーゾが奥から引きずり出してきたのは、角が生えている黒髪の少女。
触手が首に巻きついて苦しそうに顔を歪めている。
暗がりに触手と少女って、犯罪の臭いしかない。
ロリコンだよ、ないわー……。
ダメだコイツ、早く始末しないと。夢だからって品がなさすぎる。
いかにも悪役、自称魔王ってので少しは期待したんだが、がっかりだ。
あ、でも死刑宣告するにしても、ちゃんと魔王の語りにしないとな。俺は相手が変態でも紳士的に対応できるんだ。
「貴様は抹消だ。生かしておけぬ」
「……は? な、なんだ?」
「弱者を踏みにじるのは真の強者ではない。強者を打ち倒してこそ、真の強者……貴様にはそれがわからないらしい」
お、ちょっと自分の中で盛り上がってきた。
なにか――なにかが身体から溢れ出そうになる。
ヌラーゾが突然、慌てだす。俺の演技にビビってるのか?
「お、おい……この魔力は、桁外れの魔力はどういうことだ!? お前は――何なんだ!?」
「知れたこと、俺こそが魔王だ」
ヌラーゾが触手を揺らす刹那、俺はゲームで培った動きを流れる様に放っていた。
【虚無一閃】
何万回も繰り返した無意識の動作、右手に白い剣が現れる。
俺は躊躇なく【虚無一閃】≪ゼロ・ブレード≫を振り抜いた。
バシュン!!!
これまた何万回も聞いた、お馴染みのエフェクト音。
あらゆる魔法防御を貫く防御無視の攻撃スキルだ。
勝負は一瞬で終わった。
ヌルーゾの首らしき部分は抵抗なく吹き飛んだのだ。
「ば、ばかな……!」
「消えろ、外道……」
そのままヌルーゾの身体、全ての触手が塵になって消えていく。
死に際はそれなりにカッコイイ。ちょっと弱すぎだが。
『SSSランクのネームド【探求の魔王】ヌルーゾを撃破。
魔王撃破ボーナスとして――
Sランクスキル【超進化】 能力値、スキルのカスタマイズが可能になります。
Sランクスキル【宝物殿】 亜空間に物を収納可能になります。
Sランクスキル【魔王の英知】 超高速の思考展開と鑑定が可能になります』
なんだ、この声は?
頭の中に直接聞こえてきたぞ。
いや……というか、俺は初めて理解した。
【魔王の英知】の効果だと思う――俺は心の底から納得して実感した。
ここは夢の中でもゲームの中でもない。
もちろん現実の地球でさえない。
異世界だ。俺は異世界に来たのだ。
今の一連のアレコレはこれは現実そのものなのだ。
ああ――そして、俺が考え抜いた魔王の肉体と力。
死ぬほど憧れ、なりたいと願っていた魔王という存在。
全てが圧倒的に本物。
……そうだ、俺はこれを望んでいた。
まだ俺以外に何もないが、十分だ。現実に未練なんて欠片もない。
ウォォォォォ!!
俺は心の中でガッツポーズをしまくった。
最高だ!!
最高最高最高、最高ッッ!!!
叶った、俺の望みが!!
魔王になれる――なれるんだ!!!
「…………あの……」
嬉しすぎる……と、感慨にふけっていると、解放された少女がおずおずと声をかけてきた。
む、ちょっと君のこと忘れてた。ゴメン。
もしかして何か厄介な問題はないよ……な?
『少女は多少衰弱しているものの、特に治療の必要なし』
頭の中にぱっと答えが浮かぶ。お、こりゃ便利だ。
【魔王の英知】は多分ちょっとした情報から最適解を推理、思考するスキルだな。
ものすごく賢くなった、あるいは常時名探偵状態とでも言えばいいか。
少女は立ち上がると礼儀正しく、腰を曲げてお礼してくる。
見た目、中学生くらいなのにちゃんとしてるな。というか礼儀正しすぎて落ち着かねぇ。
俺も実際こんなだし、もっとフランクでいいよ!
「ありがとうございます。助けて、いただいて」
「気にするな。……もっと砕けた口調で構わんぞ」
「そ、そういうわけには……!」
「本当に気を使わなくていいんだがな。むっ……?」
グラグラ!
地面が揺れている。それは徐々に大きくなっている。
地震……にしてはタイミングが良すぎるような。
少女がふらつくので危なっかしい。右腕で抱きとめて倒れないようにする。
目を丸くしながらも少女は俺に寄りかかり、
「主のヌルーゾが滅んだから、崩壊が……!!」
あー……なるほどね。俺は妙に納得する。
要は道連れの自滅機能ってことか。用意周到、悪役の美学だな。
巻き込まれてやるつもりはないが。
ちまちま脱出するのは性に合わない。
というか脱出経路もわからんし。どうするかは今から決めるしかない。
「まぁ、心配するな――魔王が共にいる限り、安全だ」





