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コードネーム バ美肉 ~実況プレイヤーだった俺が、世界を救うことになりました~

“下校中の女生徒が突然の暴徒化。カッターナイフを振り回す。ひとり軽傷”


 行きつけのうどん屋でうどんを啜りながら、スマートフォンでニュースをあさる。最近は、物騒な事件が増えたものだ。ほとんど引きこもりで、うどん屋とコンビニと家をぐるぐる回るだけの俺には関係ないことだ。


 ゲーム実況者として収入は安定したが、食生活を改める気はさらさらない。うどんは安いし、早い。美味い上に腹持ちも良い。


 家に帰り、立ち上げっぱなしのゲーミングPCの前に座り、ヘッドセットをつけて、ゲーム実況アカウント“リカピン”で生配信を始める。画面に映るセーラー服姿の美少女アバターの正体が、剛田恭二郎(ごうだ きょうじろう)という名前だけ厳ついニートだということは内緒だ。

 FPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)の実況プレイを配信すること数十分。


 こめかみに冷たい鉄の感触がした。


 何だろう?


 そう思って、ヘッドセットを外した瞬間――


「手を挙げろ。抵抗しなければ撃たないでいてやる」


 洋画の吹き替えのようなハスキーな女の声がした。FPSをプレイしていたら、自分に銃口が向けられていた。うん、わけが分からない。


「まさか美少女ゲーム実況プレイヤーの“リカピン”の正体がこんな汚いニートだとはな」


 罵倒されてむかっ腹は立ったが、抵抗はしなかった。


「利口だな」


 女は背後から俺を羽交い絞めにし、デスクの下へと引きずり下ろした。

 

「あと数秒で奴らが来る。お前は巻き込まれないように隠れていろ」


 内容をかみ砕く前に玄関の方から男の声がした。その奴ら(、、)がやって来たらしい。見上げる視界の中、レザースーツに身を包んだその女は銃を構えた。


「レオナ、何の真似だ」


 レオナというのが彼女の名前か。外国人なのか?


 ズガン! 


 彼女の持つ拳銃が火を噴いた。その迫力は、ヘッドホンで聞くものとはまるで違う。思わずデスクの下で跳ね上がって、頭をぶつけてしまった。

 今度は、敵の銃弾がデスクの骨組みに当たった。


 カン!


 甲高い金属音が響く。泣き叫びそうになった。


「そこのヘタレ、もう出ていいぞ」


 撃ち合いは数分と続かなかった。

 デスクの下から出ると、壁に穴が開いてるわ、窓ガラスは割れてるわの惨状。おまけに廊下には、男が数人倒れている。立派な事故物件だ。


「しばらく時間ができた。今のうちにお前のパソコンからデータを削除する」

「待ってくれ! データって何のことだ!」


 たまらずに声を上げた。土足で上がり込んで来て、銃撃戦を繰り広げた挙句、今度は三十万円も出して買ったゲーミングPCを勝手に触ろうというのか。冗談じゃないぞ。


「今は説明している場合じゃない。早急に削除プログラムを実行する」


 彼女は問答無用でUSBメモリを俺のPCに接続した。マウスをカチカチといじるが、その動きがあまりにもぎこちない。ダブルクリックすら出来ていないけど、この女は何がしたいんだ――と思いかけたそのとき。


 ズガン!


 銃弾がPC本体を貫いた。


「これで削除完了だ」

「なんで撃ったぁああ!?」

「お前のパソコンに危険なデータが入っている。だからワクチンプログラムを打ち込んだ」

「いや、鉛弾撃ち込んだようにしか見えなかったけど!?」

「とにかく、お前はここにはもういられない。ベランダから飛び降りて逃げるぞ」


 USBメモリを回収しながらこいつはとんでもないことを口走った。正気か? ここはマンションの七階だぞ。

 戸惑う俺の前で彼女は両腕を広げた。心なしか頬が赤くなっている。


「まずは私を全力でハグしろ」


 何を言っているんだ、この女は。


「とち狂ったのか?」

「うるさい! お前がボイスチェンジャー使って女声実況していたから、女と勘違いしていたんだぞ! 私は美少女の熱い抱擁を期待していたのに!」

「なんかごめん」


 実況プレイを始めた時からずっとボイスチェンジャーで声を変えていたから、リスナーの大半は俺のことを女性だと思っているだろうな。


「いいか、決して変な気を起こすな!」


 そうは言っても彼女はレザースーツの上からでも分かるくらいに強烈なスタイルだ。キュッとしまった腰とは裏腹に、尻と胸は生地が張り詰めていてはちきれそうだ。ごくっと喉を鳴らした瞬間に、その豊かな胸が迫って来た。


「ちょっと!」


 彼女は俺よりも身長が高い。その長い手足で抱きつかれたら解くのは難しい。

 それよりも彼女の身体が俺の身体に密着している! なんかいい匂いがする!


「おいスケベ。飛び降りるぞ」


 悦に浸っている間もなく、彼女はベランダの柵を俺を抱えたまま飛び越えた。


「うわああああっ!」


 ついに叫んだ俺をなだめることもなく、彼女は手のひら大の黒いディスクを取り出した。それは一瞬で人を包み込めるほどの大きさな傘のように広がって、ばくりと上から俺たちを丸呑みにして、ボール状に変形した。その内部は頑丈なエアークッションとなっている。


「こいつが落下の衝撃を和らげてはくれるが、酔うぞ。覚悟しろ」


 そう彼女が言いきる前に僕らを包んだボールは地面に叩きつけられた。クッションがあってもすさまじい衝撃で、内臓が揺れて痛いと感じるほど。痛みが引くまでもなく俺たちは弾んでもう一度空中へ、そしてまた地上に叩きつけられる。壁に当たって跳ね返って、ボールの中でもみくちゃになりながら上下も分からなくなったところでようやく収まった。うぇえ、気持ち悪ぅ。 


「休むのはもう少し先だ」


 彼女がスマートウォッチの画面をタップした途端に、俺たちを包んでいたボールはしぼんで手のひら大に折りたたまれた。


「今のは、私たちが使用しているガジェットのうちの一つだ。後でお前にも支給する。今回の任務はお前の力を借りることになるからな」


 銃撃戦の次は、オーバーテクノロジーな小道具まで出てきやがった。これが現実と考えると、目眩がする。


「待ってくれ、これ以上危険な目に合うのは御免だ!」

「拒否するなら、お前はテロリストになるぞ」

「はあ!?」


 思わず声が出た。どうして家に籠って実況プレイ動画を投稿していただけの俺が、テロリストになるんだよ。


「これからアジトに向かう。そこで詳しく説明する」


 戸惑う俺を尻目にすたすたと歩いていく彼女。アジトってどこにあるんだ? 近くらしいが、ここは、昼飯を食ったうどん屋の近くの裏通りだぞ。


「着いたぞ」


 俺は目を疑った。彼女が立ち止まったのが、まさにその馴染みのうどん屋の勝手口だったからだ。


「いや、ここただのうどん屋だよな。しかも俺がよく行く」

「うどん屋兼アジトだ」

「どんなアジトだよ」


 中に入ると、厨房につながっていた。店主がうどんを湯切っている背後を通り過ぎ、隣の四畳半の和室に上がる。


「この従業員休憩室がアジトへの入り口になっている」

「どこの世界にうどん屋の厨房が見えるアジトがあるんだよ」


 周りをきょろきょろと見渡している間に、彼女がスマートウォッチで通信を始めた。


「こちらレオナ。コードネーム バ美肉(、、、)を連れ帰って来た。通せ」

「なんだよ、それは!?」

「お前の呼び名だ、ネカマ野郎」


 俺が性別を詐称して動画を上げていたことのあてつけか。ため息をついたところで部屋が激しく揺れた。ゴゴゴと音を立てて、四畳半の和室が地下へと潜っていく。そして数十秒後、いったい地下何メートルまで潜っただろうかと思い始めたところで止まった。

 うどん屋の厨房があるはずだった引き戸の向こうに、今は薄暗い廊下が伸びている。てっきりここがアジトなどでんぱな彼女の戯言だと思っていたが、どうやら事実らしい。


「何をぼうっと突っ立っている。行くぞ」


 背中を小突かれて、冷たい廊下を歩く。

 その先には、スパイ映画でよく見る大量の銃器が陳列された部屋があった。FPSをプレイすることが多い俺には馴染み深い武器もちらほらとある。


「さて、お前が巻き込まれている事態についてだが。ここのところ巷で、突如として人間が暴徒化し、殺し合うという事件が相次いでいるのはお前も知っているだろう?」


 さっきも見たニュースだが、何か俺と関係があるのか?


「それがお前の配信している投稿動画の一部に電子ドラッグが仕込まれているのが原因らしい」

「電子ドラッグ?」

「人の精神に異常をきたす音声データだ。それがお前の配信動画に重ね録りされて垂れ流されている」

「はぁ!? 俺には全く覚えがないぞ!」

「お前は完全に巻き込まれた被害者だからな。私がいなかったら、ブタ箱送りになるところだったぞ」


 たらりと汗が、俺の背中をなぞった。


「お前、所属している事務所の公式放送に出ることになっていただろ?」


 事務所から顔出しはしなくていいから、公式放送に出てくれと要請が来ていたが、どうしてその話を今切り出すのか。


「その日にサイバーテロが決行される。このまま行けば公式放送の視聴者全員が暴徒化し、殺し合うことになる」


 耳を疑った。無自覚とはいえ、俺が世界を混沌に陥れるきっかけになるというのか。


「私の任務は、その計画を阻止することだ。お前にも協力してもらう」


 公式放送までは、あと二週間。それが俺たちに遺された時間というわけだ。

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