第九十九話 「王都での戦い(その三)」
コモは建物の奥へ案内した。キンジソウがペケさんと外で守備に就いている。
「しかし、何で、オメェ、方角違ったんじゃないか?」
デルターが言うとコモは人好きのする笑顔を浮かべた。
「依頼人のご要望でね、ここまで護衛して来たんだが……」
そうして扉を開くと、そこには民間人が声を潜めて縮こまっていた。
「コモ殿、その人達は?」
「味方です。そういや、そっちのお姉さんは初めましてだな」
「ええ、ヴェロニカよ。そんなことより」
ヴェロニカはぐったりしている子供に駆け寄った。
「この子は?」
「鴉団の連中に捕まってなぶられ放題やられてたのさ」
コモが答える。
「そんな、酷いことを……」
ヴェロニカは子供の具合を見始めた。
その時、外から銃声が木霊し、人々の顔を恐怖へと変えた。
「ニャー」
ペケさんが、まるで知らせるように現れた。
「しつこい連中だ。デルター、手を貸してくれ」
「任せろ」
コモとデルター、そしてランスは飛び出した。
キンジソウが樽の後ろに隠れ、弾を装填していた。
デルターは樽をもう一つ持ち上げ、隣に置いた。
「敵の規模は?」
身を伏せてランスがキンジソウに問う。
「十二ぐらいだ」
「大人しく出て来い、反逆者どもめ!」
賊が声を上げた。
すっかり王都を占拠したつもりでいる。先ほどの重傷の子供を思い出し、デルターは怒りに吼えた。
「どっちが反逆者だ! この悪魔どもめ!」
樽の上に身を乗り出しデルターは次々発砲した。三人が斃れ、デルターは再び身を隠し、急いで弾を装填する。
「やりやがったな!」
賊達が一気に撃って来た。凄まじい銃撃の音だ。固い樽の表面が木っ端となる前に、四人は左右へ飛び出した。
キンジソウの早撃ちが逸早く一人を仕留め、デルターとコモも声を上げて引き金を引いた。キンジソウの隣でランスの銃が奇跡的に一人の顔を貫いた。
「くっそ、一旦引き上げるぞ」
賊達が恐る恐る下がった瞬間、四人は息を合わせて飛び出した。
「逃がすかい!」
コモがそう言いショットガンを打ち鳴らす。キンジソウとランス、デルターも拳銃を発砲した。
賊達は倒れた。
「デルターも、やるけど、お兄さん、只者じゃないね。俺はコモ」
「キンジソウだ」
握手こそしなかったが、二人は互いに名乗った。
弾薬を敵の死体から回収した。あまり出番が無かったのか、それとも新たに補充したのか、一人の賊が弾薬をたくさんせ占めて持っていた。
「さて、これからどうします?」
ランスが尋ねて来た。
「中央へ戻って、王城を目指す。そこに敵の頭目もいるだろう」
「悪い、俺っちは行けない」
コモが言った。
「分かってる。ここの人達を見捨てる訳にはいかねぇ」
デルターが応じた。ヴェロニカが建物から出て来た。
「デルター、どうするの?」
「王城を目指すが、お前はここに残って欲しい」
「何故?」
「傷ついた人達を励まして欲しいんだ」
デルターの真意は違った。これ以上危険な場所にヴェロニカを同行させたくなかったのだ。ヴェロニカもそんなことぐらい分かっているだろう。分かっていてどんな返事をするのか。デルターは緊張を覚えた。
「分かったわ。ここには誰が残ってくれるの? ランスさんじゃないでしょうね?」
辛辣な物言いにランスは乾いた笑いを漏らした。
「このコモが残る。腕前は保証する」
デルターが言うと、コモは頷き、ニコリと微笑んだ。
「それなら安心ね。デルター、気を付けてね」
「ああ」
お互い見詰め合いデルターは頷いた。
そしてキンジソウ、ペケさん、ランスと共にその場を後にしたのだった。




