第九十八話 「王都での戦い(その二)」
あちこちから立ち上る灰色の煙、燃える家屋、割れたガラス、王都と聴いて華やかな場所だと思い込んでいたが、そうもいかなくなった。時折銃声が聴こえ、デルターは仲間達と身を隠した。
一番酷いのは民間人の亡骸だった。老いも若きもそこら中に斃れ、鴉団の容赦の無さを思い知らされる。
町の中央通りを進んで行くと、大きな十字路は既に賊に制圧されていた。
十数人の賊達が屯し、守備に就いている。デルターは仲間達と共に身を潜めどうするか話し合った。
「小細工もできないぞ。正面突破しか方法は無いか」
デルターが言うと、それは危険すぎるとヴェロニカが意見する。
デルターは腕組みし、思案に暮れた。
「ここも陽動を使うしか方法は無さそうだな」
キンジソウが言った。
「私とあなたが再び囮になるのですか?」
ランスが泡を食ったように問う。
「いや、ペケさん、頼む」
「ニャー」
キンジソウが言うと黒猫ペケさんは意図を理解したが如く敵の方へ歩んで行った。
「ランス、ペケさんにだけは当てるなよ」
「分かってますよ」
キンジソウの言葉にランスは頷いた。
全員がカウボーイハットのつばを上げてペケさんの行方を見守った。キンジソウにとって、これは一か八かの賭けだろう。奴らは猫すらも容赦なく殺すかもしれない。キンジソウとデルター、ランスは銃を提げ、共に民家の遮蔽物から顔を覗かせ様子を見守った。
「ニャー」
ペケさんが敵と接触する。
「何だ、猫か」
賊らがペケさんに目を向けている。
「黒猫とは縁起が悪いぜ。殺しちまえ」
「ペケさん!」
その言葉にキンジソウが反応し、素早く銃を六連発させた。彼はもう一丁の拳銃を取り出し、敵へ突進していた。
キンジソウの後にデルターとランスも従った。
発砲しながら駆け出す。
賊達は半分は不意を衝かれた形になり、キンジソウとデルターの正確無比の狙い打ちによって倒れた。
残りは慌てて銃口を向ける。弾を込める暇もなくデルターは棍棒を引き抜いて、敵へ打ちかかった。
一人の顔面を殴打して吹き飛ばす。二人目の顔にも打ち当てた。
キンジソウはもっと容赦が無かった。大振りのナイフを抜き、近接戦で敵の喉頚を掻き切っていた。
結局は強行突破という形によりこの場は収まった。
「ペケさん、悪い。ケガは無かったか?」
キンジソウが相棒に問う。
「ニャー」
ペケさんは大丈夫だと言う様に鳴いた。ヴェロニカが駆け付けてくる。
男達は弾薬を装填した。
「そろそろ弾が無くなるぞ」
デルターが言うとキンジソウが、賊の死体を漁っていた。
「こいつらが持ってる」
気が進まなかったが、これも戦いを正しい方向に終わらせるためだ。デルターとランスも血の海に沈む敵の遺体を漁った。
弾薬は思ったよりも少なかった。
「さて、前か左右かどこから行きましょうか?」
ランスが問う。
「前方は王城へ繋がっている。守備も堅固だろう。合流して弾薬を手に入れる」
キンジソウが応じた。
だが、右手の方角から激しい発砲音が聴こえて来た。誰かが戦っている。
「見捨てられん」
必死に生き延びようと頑張っているんだ。デルターが言うと、三人と一匹はすんなり右へ足を向けた。
四人と一匹は懸命に駆けた。銃声が断続的に続いている。
「降伏しろ! 出て来い!」
前方に賊と思われる十人規模の連中が佇立し、ボロボロになった店の前にある大樽に向かって銃口を向けていた。
「嫌だね!」
樽の後ろから人影が現れ、派手な音を轟かせて銃弾を打ち込んで来た。
「助けなきゃ!」
ランスが言い、ヴェロニカは進んで後方に隠れる。
デルターとキンジソウは敵の背後に忍び寄り、棍棒で頭を叩きつけ、ナイフで喉元を裂いた。
賊達が振り返った瞬間、樽の後ろにいた誰か、男が叫んだ。
「伏せろ!」
デルターとキンジソウが言われた通りにすると、拳銃よりも派手な音を響かせ、銃弾が連射され、賊を次々撃ち抜いた。
「おおい! 助けてくれてありがとう!」
相手が手を振って言った。
「んん!?」
デルターはこの声に聴き覚えがあった。近付いて行くと、カウボーイハットのつばを人差し指で押し上げ、相手が顔を見せた。
デルターと相手はその瞬間驚いた。
「コモ!」
「デルター!」
そう、そこにいたのはかつて迷宮を探索した時に組んだ、ショットガンを愛用する流れ者コモだったのだ。




