第八話 「教習所」
夜も遅くに寝たせいで少々眠たかったが、長年教会で働いていたためか、五時半に目覚めた。壁掛け時計が刻んでいるのはいつものデルターの起床時間だった。
昨夜の一件を振り返る。
ピストルでドンパチやってた連中を助けて、保安官を呼んで、今はシールの町にいる。
隣室のランスは気持ちよく眠っているだろうか。
デルターは考え事をしていた。
ピストルだ。
今後の旅には欠かせない物かもしれない。
街道で助けた警備員が言っていた。この町にはピストルの教習所があると。
壁掛け時計が六時過ぎを指した。
少々可哀想な気もするが、デルターはランスを起こすことにした。
部屋の外に出る。まだ町は静かな様子だった。
デルターは隣室の扉を叩いた。
だが、応答は無い。
「ランス、起きろ!」
デルターは声を上げたが、ランスが出てくる気配は無かった。
尚もしつこく扉を叩いて、呼ぶと、ようやく錠が外れる音がし、寝惚け眼のランスが出てきた。
「デルターさん、おはようございます」
「なぁ、ランス。働きたいなら早起きは重要なことだぞ。お前、たぶん日勤の仕事が希望なんだろう?」
「ええ、はい」
寝ぐせを撫でつけながらランスが言った。
「確かに今回はそんなに寝る時間は無かったからな。ちょっとは同情するが、今日は平日だ」
「そうですね。以後、気を付けます」
ようやく目が覚めたらしくランスはそう言った。
デルターは頷いた。
ランスが着替えるのを待ち二人は食堂へ下りた。
食べながらデルターは話を切り出した。
「ランス、ピストル持ちたいか?」
「え? ピスト・・・・・・ああ、銃ですね」
ランスは手を止め少し悩んだ様子を見せた。
「この町には教習所があるって言ってたのを覚えてるか?」
「ええ、覚えてます」
「これからの旅で俺達が野盗に襲われるとも限らない。ピストルを持っておくべきだと俺は思う」
デルターが己の考えを述べるとランスは頷いた。
「確かに、昨日みたいな戦いでは銃があった方が良いですね。ここで教習を受けるんですか?」
「そのつもりだ。お前はどうする?」
「勿論、受けますよ」
ランスは浮き足立った様子で答えた。
変な妄想でもしているのだろう。ピストルを両手に可愛い娘ちゃんを背に守る様な。
顔は地味だが脳天気な奴だ。
「決まりだな。行くぞ」
「はい」
食事を終え、二人は立ち上がった。
二
町の人間に聞き込み、広い街中を教習所の前に辿り着く。
まぁまぁ大きな建物だった。
両開きの扉は開け放たれていた。
「おう、邪魔するぜ」
「失礼します」
二人は中へ入った。
「初めての方かしら?」
若い受付嬢がカウンター越しに話しかけてきた。
「そうだよ。ピストルの免許を取りに来た」
デルターが言うと、受付嬢は首を傾げた。
「拳銃ですよ」
ランスが言うと受付嬢は気付いたように頷き、書類を一枚ずつ手渡してきた。
「そちらに必要事項を記入してください。講義は九時からです」
「もうそんなに時間無いですね。正直眠いですが、デルターさんに起こされて正解でしたよ」
ランスが言った。
二人は椅子に座り、書類に記入して行く。名前、年齢、現住所などの他、何のために銃を持つのか。という大きめの記入欄もあった。
「ここどうします?」
ランスがそのピストルを持つ動機を尋ねて来た。
「護身用で良いですかね。私達は旅人ですし」
ランスは半信半疑の様子でデルターを見た後、受付嬢に答えを求めた。
「良いと思いますよ。皆さん、当然身を守る為に銃を持ちますからね。特殊な動機だと、狩猟のためというのもありますよ」
受付嬢は答えた。
「ありがとうございます。では、護身用にしときますね。デルターさん、それで良いですか?」
「ああ」
二人は同時に記入を終えた。
「では、学習過程の講義を受けた後、実践の方になります」
「両方合わせてどれくらいかかるんだ?」
デルターが問う。
「大体二十日ぐらいですね。あら、もうこんな時間。教室へ案内しますので急いでください」
受付嬢が言い、先頭に立ったので二人はその後に続いたのだった。