第七十三話 「勝利への道」
「やはり、明朝、仕掛けるしか道は無いようですな」
村長が言い、村の男達も同意した。
「いや、それは不味い! それだけは止せ!」
デルターは思わず声を上げていた。
「ですが」
と、食い下がろうとする村長の前にキンジソウが進み出た。
「このデルターの言う通りだ」
「では、村を戦場にしろと!?」
村の男達が声を上げる。
「落ち着け。良いか、奴らはこっちが動くことを知っている」
「それはどういうことですかな?」
「内部に裏切り者がいて既に今頃は盗賊団にアンタらが明朝に攻めることを知らせているだろう」
「裏切者が?」
「ああ。まぁ、その辺は後回しだ。問題なのは、盗賊が迂回してアンタら男達の留守を狙うってことだ」
「迂回?」
「アンタらでも記憶の彼方に飛ばした昔の間道があるだろう」
「間道が? 村長、それは本当ですか?」
「ううむ、ワシも良くは分からんが」
村の者達が話し合っている。
デルターは思わず口を挟んだ。
「間道はある。俺が案内しても良いぜ」
「何故、余所者のあなたがそのようなことを御存知なので?」
「そんなことはどうでも良い、間道はあるんだ! 用意を整えてついて来い!」
デルターはまどろっこしく思い声を上げたが、村の男が言った。
「だが、その間道を敵が通らず、もしも直接正面から村へ押し寄せたらどうする?」
するとキンジソウが笑った。
「言ったろ、既に俺達が正面から挑むことを向こうは知っている。囮を使おう。銃の無い連中を集めるだけ集めて正面に出発させる。それを確認した斥候は向こうの計画通り間道から虚を衝こうとするはずだ。だが、ギッチョン。その間道に銃を持った俺達が伏せて奇襲を仕掛ける。とりあえず、間道まで案内してくれ、デルター」
「分かった」
デルターは頷いた。キンジソウの策は完璧だ。もう十枚惜しげもなく金貨を支払っても良い思いをしていた。
二
村の丘の上に間道はあった。と言っても、長年手入れが施されていなかったせいか獣道のように成り果てている。盗賊共はここから村を見下ろしそして雪崩れ込んだ。
道の存在をすると村長は納得した。それでも不審がる者もいたが、村の中につい最近引っ越してきたという男の姿が無いことを知ると押し黙ったのであった。
作戦は決まった。
デルター達は村人達が準備を整えている様子を見ながら話していた。
「キンジソウ、すまねぇ、恩に着るぜ」
デルターが言うとキンジソウは手を差し出した。デルターは握手に応じるとその手は放された。
「金だよ金。そう思うなら金を払ってくれ」
デルターは素直に応じようとしたがキンジソウ側が驚いて止めた。
「おい、冗談で言ったんだよ。どうしたんだ、えらくしおらしいじゃねぇか」
「まぁな」
「ニャー」
するとヴェロニカの腕の中でペケさんが鳴いた。
「しかし、奇襲ですか。出遅れないようにしないと」
「そうね」
ランスの言葉にヴェロニカが応じたのでデルターは慌てた。
「ヴェロニカ、お前は村に残ってくれ」
「ええ、分かってるわ。ピストル持って無いもの。ペケさんと大人しく待ってるわね。ねぇ、ペケさん?」
「ニャー」
その言葉を聴いてデルターは心底安堵した。ここで駄々をこねられたらと思うと、気が気でなかった。
そして今回は戦力的には拮抗している。向こうは約三十名、こちらはデルター、ランス、キンジソウを含めて二十七名、つまりピストルは二十七丁あることになる。対人戦を経験したランスなら、いや、以前吹っ切れたランスなら十二分に任せられる。村人は人を撃ったことは無いだろうし、銃口を向けられたことも無いだろう。銃撃を受ければ焦るはずだ。
すると、村の男が来た。
「準備が終わりました」
「分かった。予定通り明日の朝、作戦開始だ。だが奇襲隊は未明には起きていてくれ。間道をある程度進んだところで伏せる」
デルターが言うと村人は頷いて去って行った。
「指揮官らしいじゃねぇか、デルター。デルター司令って呼ぶか?」
キンジソウが言った。
「カッコイイわよ、デルター」
ヴェロニカが続く。
「もしかしたら、勝てても死ぬかもしれねぇんだ。俺が死ぬとも限らないが、気を引き締めて、頼む」
デルターは前回のことを思い出し、生真面目な態度で仲間達に言った。その心が伝わったのか仲間達は笑みこそ浮かべていたが頷いたのであった。




