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第七十一話 「後悔」

 何故だ。どうしてこうなった。

「おい、ヴェロニカ!?」

 むせ返る血のにおい。二度と起き上がらなくなった人々に交じってヴェロニカの姿はあった。

 そんな広場の真ん中でデルターは変わり果てた姿の彼女を抱き上げた。

 目は虚ろに見開かれ、こちらを見てはいない。血が流れ出ている口からはもう言葉は紡がれなかった。

「ヴェロニカ!? おい、嘘だろう! ヴェロニカ!?」

 そのように他の男達も大切な家族達の亡骸を揺さぶり、抱きしめ、悲しみの声を上げていた。

 だが、そんなもの霧のようだった。

 ヴェロニカの服の下からは大量の血が流れ出ていた後だった。

「デルターさん・・・・・・」

 呻き声が聞こえ、デルターはハッとして振り返り、亡骸を見回しながら彼を見つけた。

「ランス!? ランス!」

 デルターは駆けた。ランスは弱弱しく右腕を上げて居場所を知らせた。

「ランス、しっかりしろ!」

 デルターは、相棒の周囲が血の溜まりになっていることなど気にも止めず、ランスを抱き起そうとした。

 ランスが咽る。血が飛び散る。

 デルターは新たなる絶望を覚えながら、それでも小さな希望を捨てずにランスに向き合った。

 だが、先に語ったのは相棒だった。

「すみません、ヴェロニカを守り切れなかった」

 ランスは涙を滴らせながら言った。

「ああ、ああ、分かってる! お前は大丈夫なんだろう!?」

「分かりません。ただ、物凄く寒いですね。凍えそうだ。・・・・・・私では無力だった」

 ランスの目から急速に光が失われてゆく。

「ランス! おい、ランス!? どこを撃たれたんだ、今すぐ止血して」

「デルターさん、許してください。ヴェロニカを守り切れなかった。誰も守れなかった・・・・・・」

 ランスの首が力無く斜めに倒れた。荒々しい呼吸をし、デルターは尚も彼の名を呼んだが、ついに呼吸は止まった。

「ランス!? ランス・・・・・・」

 急激に力が抜けて行く。デルターはその場に崩れ落ちていた。

 事の発端はこうだった。

 旅の途中、村に辿り着いたのだが、その村は厳戒態勢を敷いていた。

 最初は歓迎されなかった。

 しかし、村人達はデルターとランスの腰にピストルが提げられていることに気付き、村が盗賊団の標的になっていることを話した。

 最初は鬱陶しそうに邪険にされていたが、話は真逆になった。

 盗賊団退治のために手を貸してくれと懇願された。

 正義感の強いランスがデルターに決断を迫った。デルターは詳細を聞いた。盗賊団は三十人ほど。対する村側の民兵は百はいるが、武器が揃っていなかった。猟銃が二十丁ぐらいある程度で、残りは包丁にハンマー、マチェットに農業用のフォーク。

「助けてあげないのデルター?」

 そしてランスに代わって急かしたのはヴェロニカだった。

「だが、州警察か町の保安官を呼んで・・・・・・」

 というデルターの言葉にヴェロニカは言った。

「困ってる人を見捨てるなんて、あなたらしくないわ。髪の毛と一緒にそんな心まで抜け落ちちゃったの?」

 ヴェロニカになじられる一方、相棒のランスは正義感と使命感に燃えている。

「分かった。手を貸そう」

 ここまでは良かった。そう、ここまでは良かったんだ。まともにやれば勝てない戦いじゃなかった。

 その後、厚遇されたデルター達は明日の夜明けとともに盗賊団の根城である西の廃屋を目指すことになった。

 これが間違いだったんだ。

 こちらの動きを察した盗賊団は、いつぞや経験したことと同じ、迂回して、男手の無くなった村を襲い、殺戮し、略奪の限りを尽くして去った後だった。

 ランスの亡骸を見下ろす。

「留守は任せて下さい」

 本当は先行したかったのだろうが、ヴェロニカを一人にして置く気にはなれなかった。

「私に残れと言うんですか?」

 ランスは不満げにデルターに応じた。

「ランス、ヴェロニカのことを頼む。村の方も男手が減って心細くなるだろう。悪いが頼む」

 そう言って相棒を納得させた。

 ランスとヴェロニカも連れて行くべきだった。いや、この村を素通りしていれば・・・・・・。いつも通り、歩くだけ歩いて野宿で良かったんだ。

「ニャー」

 ふと、背後から猫の声が聴こえた。

 振り返るとそこには黒猫が鎮座し、射るようにこちらを見詰めていた。

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