第七話 「シールの町」
賊は全部で六人だった。
敵も味方も死人はいなかった。賊の方はデルターによる棍棒の一撃で軽傷を負ったがそれだけだった。今は縛り上げられている。
デルター達が救援に赴いた側は、この先にあるシールの町へ店の売上金を運んでいた警備員達だった。
賊達は往生際が悪く動こうとしないため、デルターとランスが先にシールの町へ行って、駐留する警備兵に増援を求めることとなった。
「それにしても、お前さん方、銃を持ってないんだな。それで旅をしているなんて無謀すぎるんじゃないか」
出発間際、焚火の灯りに照らされながら、警備員の一人が言った。
大きなお世話だとは言えなかった。実際、弾切れでも起こさない限り、銃を持つ相手には近づけない。
「良いこと、教えてやるよ。シールには教習所があるぜ。そこで資格を取ればお前らも銃を使える。棍棒に弓矢なんて時代遅れの武器よりも遥かに使えるぜ」
その棍棒の世話になったのはどこのどいつだ。
デルターはムッとしたが、怒るほどでは無かった。
「デルターさん、行きましょうか」
ランスがカウボーイハットをかぶり直しながら言った。
気を取り直してデルターは頷いた。
「そうだな」
二人は警備兵達に見送られ、シールへと急いだのであった。
二
ランスの脚力と体力が心配だったが、彼は弱音を上げずにデルターのペースについてきた。
そして夜更け、空には三日月が顔を出している。その明かりが閉ざされた町の門を照らした。
デルターは門を叩いた。
「何の用だ?」
覗き窓が開き、男が顔を出した。
「盗賊に現金輸送の馬車が襲われた。盗賊共は縛ってあるが、連れて来るのに一苦労している。増援を頼みに来た」
「そうかい。入りな」
窓が閉じられ門が開いた。
「駐在所まで案内してやる」
フードをかぶった覗き窓の男が親切にそう言ってくれた。
夜更けの町はどこも暗かった。先導する男がカンテラを灯し闇を照らし突き進んで行く。
ランスの息が上がってきていた。
「ランス、適当な場所で休むか?」
「いいえ、御心配なく。ついて行きますよ。この分だと今日は町の宿に泊まれそうですね」
ランスは励ますように言った。それは自分自身にも向けられた言葉だろう。限界の身で責任を果たすために叱咤激励、自分の身体に鞭を打っているのだ。
何を言っても無駄だろう。
「ここだ」
先導の男が言った。
小さな建物には窓ガラスから灯りが漏れていた。入り口の扉もガラス製だった。
「おおい、保安官、一仕事あるらしいぞ」
ガラス戸を叩いて先導した男が言った。
中からカウボーイハットをかぶった男達が出て来る。
デルターよりも年上の男が現れた。彼が保安官のようだった。ランスが説明した。
「南の街道の途中で賊の襲撃に遭いましたが、捕縛しております。ただ賊達が素直に歩こうとせず難儀しています。それでお力をお貸し願えればと思いまして」
「分かった。面倒だが行ってくる。賊が言うことを聞かないなら荷馬車に放り込んでやるまでだ。おい、荷馬車の用意をしろ」
保安官がそう言い、部下達が裏に駆けて行った。
「こんな夜中に御苦労だったな、後は俺達の仕事だ」
保安官がそう言うと、馬が二頭引く荷馬車が裏から現れた。
保安官を含む四人がそれに乗り、闇の中を駆けて行き、見えなくなった。
「旦那方、宿をお探しならついでだ、案内するぜ」
先導してくれた男が言った。
「そいつは助かる」
デルターは心の底から安堵の息を吐いて言った。
やれやれ今日はもう店じまいだ。
デルターとランスは再び男に案内され、小さな灯りが零れる宿へと辿り着いた。
ランスが店の中に入って行った。そして戻ってきた。
「デルターさん、部屋が取れました」
「そうかい」
デルターはそう言うと案内してくれた男に言った。
「悪いな、色々面倒見て貰って」
すると案内の男はニヤリとしてフードを取った。
綺麗に禿げあがった頭が現れた。
「月明かりに見事に輝くアンタの頭。どうも他人には思えなくてね」
するとランスが合点が言ったように手を打って声を上げた。
「あ、そうか、ハゲか!」
デルターはこの相棒を樫の棍棒で打ち据えてやろうかと思った。
そんな視線に気付いたのかランスは自分の口を手で押さえた。
「それじゃあ、旦那方、良い夜を」
男は去って行った。