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第六話 「野盗」

 ランスが薪を拾って戻るとデルターが火を起こし、二人は焚火を囲んだ。

 季節は木の葉が赤や黄に色づく秋、少しだけ肌寒くなって来た。

 晩の見張りをどちらが先にやるか決め、干し肉とビスケットのようなパンを食べようとした時だった。

 乾いた音が少し離れた夕闇の中から聴こえて来た。

「何か聴こえたよな?」

 デルターが問うとランスが頷く。

 と、今度は間違いなく立て続けに音が響いた。

「銃声だ! これ間違いないですよ!」

 ランスが表情を驚かせ立ち上がった。

 音は止まない。中には破壊的な音も交じっていた。

「こっちはショットガンかもしれません」

「どういうことだ?」

 闇の先を見てデルターは問う。

「この先で銃撃戦が繰り広げられているのでしょう」

 ランスは落ち着いた声で言った。

 銃だって? こっちには備えが何もないぞ。樫の棍棒に、ランスの弓矢。ピストルに勝てるはずが無い。

「おいおい、こっちにまで来ないよな」

 デルターは軽く焦りを覚えながら年下の相棒を見る。

「野盗かもしれませんね。どうします、デルターさん?」

「俺に言われてもな、とてもピストル相手には分が悪いぜ。町へ逃げ帰るのが得策じゃないのか?」

 デルターは正論を言ったつもりだった。

「ですが、誰かが襲われているのは事実です。助けに行かなくて良いんですか?」

 銃の音は続いている。

「樫の棍棒と、弓矢で対抗するのか?」

「そ、それは・・・・・・」

 だが、デルターも心のどこかに助けに行きたいという思いが湧くのを感じた。この先に善良な誰かが傷ついているかもしれない。例えば、仲睦まじい家族で小さな兄妹がおり、母親が背で匿い、父親が一人で対抗しているのかもしれない。

「ええい、行くぞ、ランス!」

「はい!」

 ランスの表情は明るかったが、返事は生真面目なものだった。

 夕闇を駆けながらデルターは尋ねた。

「ランス、いざとなったらお前の弓が頼りだ! 棍棒だと殴りに行く前に撃たれちまうからな」

 銃声は続いている。

 消え入る直前の陽が一台の馬車を照らし出していた。

 馬車の後ろに四人いる。彼らは左手の茂みの方を窺い、発砲していた。

 その内の一人が気付いてこちらにピストルを向けた。

「盗賊か!?」

 そう問われ、今更だが迂闊だと思った。馬車の後ろにいるから善良な民とは限らない。もしかすれば茂みにいる方がそうかもしれないのだ。しかし、勘の赴くままにそちらを味方だと思い接触していた。

「違う、俺達は向こうで野宿していたんだ! 音が聴こえてこっちへ来てみたんだよ」

「来い!」

 相手はそう言い、デルターとランスは馬車の裏へ駆け込んだ。

「お前ら銃はあるのか?」

 四人ともカウボーイハットを被っていた。

「いや、棍棒と弓矢だけだ」

 デルターが告げると相手は失望したように舌打ちした。

「邪魔が増えただけかよ」

 その言葉にデルターの義侠心が怒りに成り代わった。

「確かに、すみません」

 ランスが謝る。

「おいおい、そろそろ弾切れだぞ」

「こっちもだ」

 茂みの向こうから飛んでくる銃弾が馬車を穿っている音が聴こえる。

 陽は完全に消えた。

 と、デルターは一策思い付いた。命懸けの策だが弾切れだと喚いているような奴らはもはや頼りにはならない。

 ランスが顔を出し弓矢を番えて引き絞ろうとしたが駄目だった。

「どうした、ランス?」

「この弓、重くて私には引けません」

 なら、何で持ってきたんだよ。

 デルターは呆れて溜息を吐いた。

 と、男の一人がランスから弓矢を奪い取り引き絞った。

「弾切れだ。こいつを借りるぞ」

「良かったら差し上げますよ」

 ランスが言った。

「おいアンタら、ちょっとこっちに相手の気を引いていてくれないか?」

 デルターが言うと全員がこちらを見た。

「何故だ?」

「こいつでぶっ叩いて来るんだ」

 デルターは棍棒を見せた。

 四人の男は頷きあった。

「奇襲か」

「上手く行くのか?」

「だが、弾も僅かだ」

「よし、それに賭けてみよう。上手くやってくれよ」

「援護射撃!」

 四人の男達がそれぞれピストルと弓矢を茂みに放ち続ける。

 闇に紛れデルターは、その少し酒で太った屈強な体格を忍ばせ馬車の後ろから出ると距離を取り茂みに入り込んだ。

 程なくして銃撃の音が一方的になった。ランスといる男達が撃つのを止めたのだ。

 今しかない。

 デルターはやや荒っぽく茂みを掻き分け歩きながら耳をそばだてた。

「出てきたぞ!」

 大きな声が聴こえた。ランスのものだった。それは間違いなくデルターに相手の位置を知らせる意図があってのことだろう。

 デルターは茂みで決着をつけるつもりだったが、出て行ったのなら出るしかない。

 側頭部に残った毛を掻き、多少の緊張を覚え、樫の棍棒を両手で握り締め再び街道へ飛び出した。

 闇に目が慣れて来たため、馬車に近付こうとしている幾つかの影を見ることができた。

 デルターは心の底から叫んで駆け、一人を思い切り打ちのめした。

「何だ!?」

 そう振り返った二人目の敵は棍棒で顔を殴打され吹き飛んでいた。

「もう一人いたのか!?」

「この野郎!」

 残りは四人だった。

 神よ、御加護を!

 デルターは声を張り上げ一人に襲い掛かって昏倒させた。

 と、馬車の裏から四人の男とランスが飛び出し残る連中を囲んだ。

 おそらくピストルの弾は空だろう。

 それでも敵は気付いていない。

 デルターが背を向けた手近の一人を渾身の一撃で打ち据え沈ませると、四方から銃口を向けられ、残る賊は、手を上げて降参した。

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