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第五十五話 「ピストル」

 情けない話だ。あの時、咄嗟に手が出なかった。出たのは保安官の方だった。彼が止めなければ、ランスの奴はこの世にはいなかったはずだ。

 その日は部屋をツインにした。二つのベッドがある。

 その一つにランスが毛布を被って潜り込んでいた。

 ここまで来るまでに大変だったわけではない。半分正気を取り戻したランスは、涙を流し、茫然自失といったていで、デルターに手を引かれて、どうにか歩んで来たのだった。

 宿の主人が保安官が来たことを告げると、デルターはランスが心配だったが、一旦部屋を後にした。

 保安官は強盗団の居場所が分かったため、デルターに協力を申し込んできたのだった。

 事件は一件落着を迎えてはいなかったのだ。「ギャング」達は斥候を出し、街の様子を確認しているというのだ。保安官補達が殺され、逆にギャング達が調子に乗って報復戦に出てくるのではないかと保安官は思っているようだ。やられる前に叩く。保安官は町中のピストルを所持する民間人達に声を掛け、人数を集めているとのことだった。

 デルターは返事に窮した。ランスのことだ。あいつを連れて行っても置いて行っても懸念が残る。もし置いていったとして衝動的にまた自殺をしようなどと考えなければいいが、断言はできなかった。

 来る気があれば、明朝、四時に保安官事務所に集合してくれ。と、保安官は言って帰って行った。

 デルターは急いで部屋へ戻る。ランスは毛布を被ってベッドに横になっていた。

「ランス」

 デルターが声を掛けるとすぐにランスはそのまま格好で応じた。

「少年でした。まだ若い。そう、子供だ。将来何にだってなれることを約束された未来ある命を私は奪ってしまった」

「そうだな、ランス」

 デルターは、イヅキ教官が言っていたことを思い出した。俺達は相棒だ。頼れるのは俺だ。俺がどうにかしなきゃならない。これはランスの試練でもあり、俺の試練でもある。

「だがな、相手は子供だが人殺しをやってのけた。私欲のために非行に走った。保安官補だって何人も殺された。誰かが幕を下ろさなきゃ駄目だったんだ。その役目を神はお前に託したんだ」

 デルターは無理に説得するつもりは無く、ただそう言った。

「何故、神はそんな役目を私に!? いや、私で当然だったんだ。モヒト教授が言っていた。銃は人殺しの痛みさえ感じさせない、悪魔の武器だと」

「確かにそれらしいことは言っていたな」

「私は、結局正義を気取っていただけなんです。そして痛みを、罪を感じぬまま、悪人とレッテルを張られた人を殺したことさえある。もちろん、傷つけたことも。神はそんな私にこうして罰を下した。お前は罪人なのだと」

 若者は毛布の下から悲痛な声を漏らした。

「やらなきゃやられてたんだ。相手は子供だった。それでも人殺しを何とも思わない奴に育っちまった。あのままだったら、保安官や俺だって死んでいたかもしれない。お前はよくやった。人を殺したことを誇れと言ってるわけじゃ無い。ただ、お前のやったことは正しかったんだ。同時に神はお前にピストルの存在がどのようなものなのかを教えて下さったのだろう。真面目なお前のことだ、言うまでもなく、それを既に胸に刻んでいると思う。もう良い、充分苦しんだ。一つ覚えておいてくれ、俺にはお前が必要だってことを。なぁ、相棒」

 デルターはそう言うと心に決めた。ギャング団を潰しに行くと。



 二



 早朝、まだ日が出ていない保安官事務所の前には三十人ほどの人間が集まっていた。

「ギャング団は西にある廃村を根城にしている。町の平和のためだ、皆、すまないが、手を貸してくれ」

「おう!」

 保安官の言葉に町の男達は応じた。

「では出発!」

 一団は歩き始める。ピストル、ライフル、ショットガン。装備はそれぞれだが全員がカウボーイハットをかぶっている。

 今日のデルターの隣にはランスはいない。昨日と同じ毛布をかぶったままだった。部屋に置いた食事に手を付けた様子もなかった。「行ってくる」デルターはそう言い、気持ちを切り替え、参陣したのだった。

 デルターは最後尾を歩いていた。

 不意に隣に誰かが並んだ。

 黒い衣装に身を纏ったキンジソウだった。黒猫のペケさんも歩いている。

「デルター、ランスはどうした?」

 開口一番キンジソウはそう尋ねた。

「訳ありでな。今日はいない」

 デルターは応じた。

「そうかい。で、どうする?」

「どうするって?」

「安くしとくぜ。俺を金貨十枚で雇うか?」

 デルターは思案した。

 キンジソウの実力、機転は折り紙付きだ。自分で目にしている。

 金貨十枚は痛い。

 だが、相手は保安官補達を手にかけている。無情な奴らだ。それにここに集っているのは素人集団だ。人数で優っていたとしても、形勢は不利かもしれない。

 デルターは決めた。財布に手を入れ、金貨十枚を支払う。

「毎度」

 キンジソウはそう言い、金を受け取った。

 ふと、デルターは気付いた。黒猫ペケさんの姿が見えない。

 歩き出したキンジソウにそのことを伝えようとしたが、止めた。ペケさんが賢い猫であることは良く知っていたからだ。

 はぐれたわけでも無いだろう。だとすれば何か考えがあるのかもしれない。

 デルターは隊列の後を追ったのだった。

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