第五十四話 「ランスの試練」
次なる町ズールに入った。途中、街道沿いの村で一泊し、余裕をもっての到着だった。
最近は日が出ていても冷え冷えするようになっていた。そんな午前の太陽の下、デルターとランスは弾薬と旅の準備を揃えているところだった。
「着実に王都まで近づいてますね」
昼の酒場で二人は食事を取っていた。
「まぁ、色々あったが進んでるからな」
デルターはそう言い一キロのステーキ肉をフォークで刺し、ナイフで切って応じた。
「恐竜達はどうしてるでしょうね。コモさん達も」
ランスの出した話題で他愛の無い話を続け、食事を終える。
酒場を出た時だった。
「お前達は包囲されている! 大人しく、投降しろ!」
メガホンだろうか。拡声された男の声が響き渡った。
と、乾いた音が鳴り響いた。銃声、近くだ。
悲痛な声が聴こえた。
「どうやらトラブルみたいだな。どうするランス?」
「行きましょう!」
ランスは自信満々にそう言いピストルを叩いて見せた。
それは悪魔の道具だ。
モヒト教授が言っていたことが思い出された。
忘れていた。これが人を傷つけ、殺すこともできる道具だということを。
幸か不幸かランスは善意と英雄の気持ちに支配されている。今までだってそうだった。彼がピストルとはどういうものかと気付いたときに、俺は何と言ってやれば良いのだろうか。
そろそろその時期が来そうな予感がする。
二
急行した二人は野次馬を掻き分け、鉄の長い盾を持ち一つの民家の正面に立つ保安官一同に合流した。
「何だ、お前達は? 民間人は危険じゃない場所まで下がるんだ」
中年の保安官が言った。
保安官と保安官補を含め、三人が盾に身を隠しながら、民家を睨んでいる。倒れて動かなくなった保安官補が三人いた。
すると民家の開け放たれた窓から犯人と思われる影が姿を見せた。
発砲してきた。
「ちっ、こうなったら仕方が無い。銃もあるようだし、お前達にも力を貸してもらおう」
デルターとランスは犠牲になった保安官補の盾をそれぞれ持ち、撃鉄を起こしピストルを向けた。
「一体、何があったんだ?」
デルターが尋ねると保安官は言った。
「強盗だ。とある商会からの金の詰まったバッグを奪って行った。しかも商人らは殺された。俺の部下達もやられたし、後には引けん」
「相手は何人なんです?」
ランスが問う。だが、その答えは民家の窓から放たれる銃弾だった。
その時、開け放たれた窓に人影が現れた。
ランスが発砲した。
すると人影に見事に命中し、相手は倒れた。
「やった」
ランスが言った。
「距離を縮めるぞ。人質がいるわけでもないしな」
盾を向けながら前進する。
だが、応酬は無かった。
「保安官さん! 生き残りは裏口から出ていきました!」
民間人が駆け寄って来て報告した。
「よし、民家を制圧する」
保安官の指示の下、保安官補、デルター、ランスは、前進した。
そして荒れた民家の中へ入る。
窓際に斃れた死体があった。
それを見て驚いた。
まだ少年だった。
「わ、私が撃ったのは・・・・・・」
ランスが愕然としていた。
「保安官、カバンを見つけました。現金も無事のようです。どうしますか?」
「奴らがどこに潜んでいるかはわからん。この町から逃げたのかもしれない。隣町にそれぞれ使者を出せ。それにしてもこんな少年が銃を手にしていたとは」
保安官が言った。
デルターはランスを見た。
彼の表情は青く、目は見開かれたままだった。
「ランス?」
デルターが声を掛けた時だった。
「ウワアアアッ!」
ランスが絶叫し、自らの口にピストルの銃口を突っ込んだ。




