第五十話 「もう一人の踏破者」
階段は塞がれることは無かった。
下に戻り、上で見たことを話すとランスは悔しがっていた。
「ああ! 是非見たかった!」
「お生憎、解説ならもう教授からいただいたぜ」
コモが言うとランスは振り返った。
「ユキさん、我々も見に行きましょう! 恐竜達の姿を!」
「私は別に興味ないから」
ユキは冷めた態度でそう言った。
「始祖鳥がこっちを狙って来やがるからな、お前だけで行かない方が良い。そんなことよりも、俺達はずいぶん歩いたらしい。仮にこの先から出られたとしても、恐竜達の側を通って一日以上歩き通しになる。ティラノサウルスとかいうやつがまだいるかも分からないが、このまま遺跡を戻って入り口を目指した方が利口かもしれない」
デルターは自らの結論を提唱した。
だが、モヒト教授だけが乗り気じゃないことが顔を見て分かった。
「教授、アンタがどうしたいかで俺達の行動は決まる。どう思ってるんだ?」
デルターが尋ねると、モヒト教授は言った。
「もう少しで遺跡の全てを踏破することができます。あなた方という腕利きの護衛に恵まれた私は、今こそ遺跡に立ち向かうときだと思うのです。ですから」
言わずもがな、伝わって来た。
コモが溜息吐いた。ユキも乗り気じゃ無いらしい。
だが、依頼人が言うのだ。行くしかない。
「そら、配置に着け先へ進むぞ」
デルターが一声かけると、それぞれ定位置に移動したのだった。
二
「あ」
コモが言った。
「何だ?」という前にデルターはモヒト教授に覆い被さった。天井が割れ、ロープかそれらしいヒモで括られた無数の槍が降って来たのだった。
幸い全員、無事だった。
そしてぶらぶら揺れる槍を見ながら、コモを振り返った。
「いやぁ、ワリィ、ワリィ」
コモは右足を放した。
するとガコンと音がし、床の石畳の一部が隆起し、槍は上へと戻り天井が塞がったのであった。
「まったく、気を付けなよ」
ユキがコモを責めた。
「だから謝っただろう?」
コモはそう言うと煙草を咥え火打石で火を付けた。
ユキは嫌悪の表情をし、口を開いたのだが、その目が見開かれ、先の方へと注がれていた。
デルター達が振り返る。
そこにはコエルルスだろうか、影が佇んでいた。
いや、コエルルスよりは小さい。
「コンピーでしょうか?」
ランスが言ったがモヒト教授が応じた。
「コンプソグナトゥス、通称コンピーはあんなに大きくありません」
すると影が近付いてきた。
軽い足取りだった。コエルルスのように爪が引っ掻く音がしない。
「おや、こんなところにまで客が来るとは」
男の声だった。驚くというよりも嘲笑うかのようだった。
モヒト教授以外がピストルあるいはショットガンを向けた。
「あなたは誰です!? 我々は考古学協会の者です!」
ランスが厳しく問い質した。
「銃を下ろせ。私は害を与えるつもりは無い。それにしてもなるほど考古学者か。私は古生物学者だ。名をアンドウモリエという」
相手は静かにそう言った。若いようだが少々渋みがかった声だった。
「コモ行くぞ」
デルターが言うとコモは頷いて、ショットガンを向けながらアンドウモリエと名乗った人物に迫った。
近付くに連れ件の人物の格好が明らかになる。古めかしさを感じさせ、怪しさを倍増させる服装だった。言ってみれば、ファンタジー小説などで知られる魔法使いのような黒い着物に身を覆い、同じく黒の頭巾で目元まで隠れていた。明らかになるのは口元でそれは嘲笑を浮かべていた。
「危害を加えるつもりはない」
アンドウモリエはそう言った。
「ここで何をなさってるんです?」
ランスとユキに守られながらモヒト教授が歩んで来た。
「その風貌、あなたが考古学者のようだな。先に言ったが私は古生物学者だ」
「恐竜について調べているというのですか?」
「左様」
アンドウモリエはモヒト教授の言葉に頷いた。
「アンタ一人か?」
デルターが尋ねると相手はニヤリと口角を上げた。
「他の者は遺跡の罠で死んだり、恐竜の餌食になった」
「一つ、確認したいことがあります」
モヒト教授が尋ねた。
「何かな?」
アンドウモリエが応じる。
「絶滅したはずの恐竜が生きていたなんて信じられません。あなたが何らかの方法でこの世に生み出したのではありませんか?」
するとアンドウモリエは笑った。乾いた笑い声だった。ひとしきり笑うと相手は言った。
「残念だが、そんな技術は存在しない。私が来たときからここは恐竜達のものだった。そして今、あなたが言ったように、私は絶滅したはずの恐竜を復活させられないか、ここで研究をしているわけだ。だが、今の文明では技術が低すぎる。何もできずに恐竜達と住み、その生きている様を毎日新鮮に思いながら見ているだけに過ぎない。もう一度言う、恐竜達を復活させることはできない。ここで彼らが営みを続け、自然に増える以外はな」
アンドウモリエはそう言った。
するとモヒト教授は溜息を吐いた。
「それならば良いのです。いたずらに生命を操る技術など存在しない方が良いのですから」
「確かにそう言う者もいるだろう。だが、私は恐竜を増やす研究を断念しているわけではない」
アンドウモリエはそう言うと先へ歩き始めて振り返った。
「立ち話もなんだ。私のオフィスへ来たまえ」
アンドウモリエはそういうと歩き始めた。
「いたずらに生命を操るなんてとんでもない! 禁忌です! それを許されるのは神のみ!」
モヒト教授が後を追う。
デルター達も顔を見合わせた。全員の顔が言っている。アンドウモリエと名乗った男をまだ信用していないと。だが、モヒト教授が行くなら行かねばならないとも。
「モヒト教授待ってください!」
ランスが声を上げ、一同は後を追ったのであった。




