第四十七話 「モヒト教授救出戦」
モササウルス? ティロサウルス? とりあえずワニ野郎とは三回遭遇した。いずれも単体だったため、どうにか二人は力を合わせて化け物を撃退した。
血染めの水中から一気に上昇しデルターは息を吸った。
隣からコモ出てきて同様のことをした。
「傷口がしみやがる」
最初にワニ野郎に噛まれた左腕の傷を見ながらコモが言った。
綺麗に歯形が残っていた。
だが、ここまで来た以上、引き返せはしない。コモも悟ったように口を開いた。
「早く行こうか。教授の奴が息継ぎをしているかどうかも分からない。もう手遅れかもしれないが」
「生きていることを信じよう。そして首長野郎から取り戻すんだ」
「はりきってるね、ボランティアさん。さぁ、行こうか!」
コモが潜り、デルターも後に続いた。
やはり見通しの良い水中だった。これが濁っていたらワニ野郎の位置が分からずあえなく食われていただろう。
二人は並んで平泳ぎし、先へ先へと進み、その都度上昇し息を吸った。
すると前方に巨大な影が見えた。
ワニ野郎よりもはるかに大きい。四つの足はヒレになっている。そいつが長い首を振り返らせた。
モヒト教授は咥えられていた。だが、既に死んでいるのか、気絶しているのか、身動き一つしなかった。
あまりの恐怖に戦慄したデルターだが、コモに肩を叩かれ、我に返る。
モヒト教授を救わなければ。死んでいたら死んでいたで考古学研究会に報告する義務もある。
首長野郎は獰猛な目を向けてきてこちらへ向かって泳いできた。
コモが先行する。その度胸にデルターは彼を見直した。
首長野郎が口を開いた。餌だったモヒト教授は放され、下に落ちていった。
水中では奴らが有利。首長野郎を倒すことが先決だ。それもなるべく早く。
首を伸ばし、恐るべき速さでデルターに向かって首を伸ばした。
デルターは避けられず、ナイフを我武者羅に振るった。
すると敵は大きな波を上げてその隣を通り過ぎ旋回してきた。
息が持たない。
危険だったがデルターは上昇し息を吸う、コモも上がって来た。
「デルター、アンタの方が腕力がある。俺が囮になるから、奴を殺してくれ」
答える間もなくコモは潜った。デルターも続いた。
敵はすぐ目の前だった。
寒気を覚えるほどのおぞましい首長野郎は口を開き、コモに噛みついた。
コモがこちらを見ながら訴える。今だ! と。
あの顎だ。コモは真っ二つにされるかもしれない。デルターは急いで巨体に追いつき、その首の付け根に足を挟むと、ナイフを突き刺した。そして全精力をかけて抉り、思いを込めて、切り裂いた。
赤い血が立ち上り、ゆらゆらと水中を染める。
デルターは、何度も何度も突き刺し、抉った。息が限界になるが限界を超えてコモのために、モヒト教授のためにナイフを振るった。
すると化け物はコモを解放した。そして血を流しながら先へと逃げるように泳いでいった。
デルターは一気に上昇し息を吸い、再び潜った。コモがモヒト教授を抱えて上がろうとしている。デルターも手伝った。
二人は水面に顔を出した。
「やったな、デルター、奴を追い払えた!」
歓喜するコモにデルターはもう一人の青白い顔を見た。
心音の確認はできない。息も止まっているのか分からない。ここが地上だったら話は別だろう。もっと詳しく分かったはずだ。
「コモ、下で押さえてくれ。心臓マッサージをする!」
「分かった!」
コモは勢いよく潜った。
「教授、生きていてくれよ」
デルターは両手を合わせ、思いっきり心臓の辺りを押し続けた。
途中、コモが顔を覗かせ、息を吸うと再び下でモヒト教授の身体を支えた。
教授は反応は無かった。
遅かった。
「ちくしょうが!」
無念のあまり教授の心臓に腕を叩きつけた時だった。
モヒト教授の口から多量の水が溢れ出し、彼は咳き込んだのだった。
コモも気付いたのか上がって来る。
「教授、大丈夫か?」
「こ、ここは?」
モヒト教授が尋ねた。
明かり取りの格子状の小さな窓から光が差し込んできている。青白い顔は徐々に生気が戻りつつあった。
「罠の底だよ」
デルターが言うとモヒト教授は溜息を吐いた。
「すみません、御迷惑をお掛けしました」
「良いんだ。だが、どうする? 戻るか? ずいぶん先にまで来たのは確かだが」
デルターは二人に尋ねた。
「先へ進みましょう。水生の恐竜が出入りしているならどこか外に通じる道があるはずです」
「だが、教授、泳げるのか?」
「ええ、まぁ」
デルターの問いにモヒト教授は頷いた。
「ならば先へ進もう」
デルターの言葉にコモが先に潜り、モヒト教授が続いた。デルターも大きく息を吸い、水中へ身を沈めた。外に出られることを願って。ランス達はどうしただろうか。だが、まずは自分達が無事でなければ話にはならない。
モヒト教授を真ん中にし、三人は並んで泳いだのだった。




