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第四十六話 「帰路を求めて」

 入口にティラノサウルスとかいう大きな化け物がいるため、一行は先へ進みながら脱出口を探すことになった。

 コエルルスの件もある。モヒト教授は頑なにピストルを持つことを拒んだが、そのくせ、先へ先へと進み、あるいは立ち止まってスケッチしたり、レポートを書いたりで、デルター達は振り回されっぱなしだった。

 今も遺跡の落とし穴に引っかかったモヒト教授を慌ててデルターが掴み上げ、全員で引っ張り上げた。

 今回の落とし穴は水が流れていた。おそらく深いだろう。モヒト教授はスケッチブックとレポートの冊子を放さず、どうにか地上へ生還できた。

「まったく、教授、少しは落ち着いてくれ。アンタが死んだら考古学研究会に訴えられるかもしれない」

 デルターが言うとコモが続いた。

「そうだぜ、せっかくの給料が貰えなくなる」

「すみません、皆さん。どうも、遺跡に入ると浮かれ気味になってしまって、ましてや未開の遺跡です。どうしてもその最初の一人の踏破者になりたいのです」

 モヒト教授は野望を明らかにして言った。

 それにしても、と、デルターは悩んだ。

 目の前に大きく口を広げた罠は広大で先まで続いている。おまけに幅もあり通ることができなかった。

「時間が経てば閉じるんじゃないですか?」

 ランスが言った。

「そうだと良いけどね」

 ユキが溜息交じりに応じる。

 だが、いくら待っても罠は閉じる気配が無かった。

 狭い格子窓からの光りが午前も半ばほどの陽になっている。それだけ待っても落とし穴は閉じる気配を見せなかった。

「誰かが罠の入り口を無意識の内に踏んだのかもしれねぇ。それを探すぞ」

 デルターは疲労困憊だったがそう言った。一キロのステーキ何てどうでもいい。ただ一杯のワインを呷りふかふかのベッドで寝たかった。

 そして一同が動こうとした時だった。

 落とし穴からヌッと長い首が上がり、凶悪な顔が現れるや背を向けていたモヒト教授の横腹に噛みつき、下へと沈んでいった。

 フック付きロープとスケッチブックと、木炭、非常食や松明の入った背嚢、レポートの冊子が床に落ちる。

「うわああああっ!」

 モヒト教授の声が聴こえたが、水が音を立てるのを聴いた。

 全員が慌てて際により落とし穴を眺める。深い青色の水底の様子は見えなかった。

「今のは、プレシオサウルス、いや、エラスモサウルスか?」

 ランスが言ったが名前などどうでも良い。

「どうするよ?」

 コモが尋ねて来た。

 デルターは思案した。どの道、この先に行け無いなら同じことだ。それにモヒト教授を見捨てるわけにもいかない。モヒト教授の命を思えば一分一秒の決断が重要だった。

 デルターは弾薬や非常食の詰まった背嚢とピストル、財布を置いて外套と上着、ズボンを脱いで半裸になった。

「デルター、お前」

 コモが驚いたように言った。

「俺はモヒト教授を連れ戻してくる。お前ら、もし俺が戻らなかったら入口へ戻れ。何とかサウルスをどうにか躱してここから逃げろ」

「デルターさん!」

 ランスが呼び止めた。

「ランス、後を頼むぞ。俺の故郷のマイルス神官長にはその旨伝えてくれ。じゃあ、行ってくる」

 デルターは恐ろしかった。水の中だ。先ほどの水生の化け物の方が上手だ。銃も無しにどう立ち向かえば良いのだろうか。

 だが、飛び込んだ。

 冷たい水が一気に体を冷やす。

 息を止め、意外と綺麗な水中に目を凝らす。背後には壁。ということは先へ進むしかない。

 彼は泳いだ。息が続くことを祈って。

 


 二



 二分ほどしか息が続かないのは知っていた。

 だから、水中から遥か上に天井があり空気が通っているのはありがたいことだった。

 デルターは再び潜り、平泳ぎで水中を進んで行く。

 と、前方から何やら少し大きなものがこちらへ向かって泳いで来るのを見つけた。

 ワニの様だがワニではない。手足がヒレになっている。新たな恐竜、いや、化け物だ。

 そいつは口を広げてデルターに迫って来た。三メートルほどの身体をしている。生え揃った牙が見えた。

 デルターは腰のナイフを抜いた。

 息が続かない上に化け物の襲来ときた。俺の命もここまでかもしれない。神がそう決めたのだろう。

 だが、もがけるだけもがいてやる。

 大きく息を吸い潜った時だった。

 先ほどのワニと誰かが水中で対峙していた。その誰かもナイフを抜いて化け物の身体を突いた。真っ赤な血が噴霧され水中を薄く赤く染める。

 デルターも加勢に出た。

 ワニ野郎が助っ人の腕に噛みついた。

 デルターは素早く潜水し、ナイフをワニ野郎のどてっ腹に力いっぱい突き刺した。そして抉って抉って切り裂いた。

 ワニ野郎の臓物がはみ出、血が濃く水中に漂った。

 ワニ野郎から腕を抜いた助っ人が最後の一発とばかりに両手で握ったナイフを敵の目玉にくれてやった。

 声にならない悲鳴を上げてワニ野郎は動かなくなり、底まで沈んでいった。

 デルターは息も限界だったため素早く水上に戻り、息を吸った。

 隣から助っ人も顔を出した。

 よく見ればコモだった。

「コモ、来てくれたのか!?」

「まぁな。ランスの奴は泳げないし、奴が言うには水中の恐竜は最初のあれ以外にもいるって聴いたからな。たぶん、奴の言っていた特徴からすれば、これがモササウルスか、ティロサウルスってののどっちかだろう。昔読んだ図鑑からの情報だとさ」

 デルターは感激していた。

「あ、救援料、金貨一枚ね」

 コモが言いデルターは笑った。

「コモはコモだな」

「そうよ。俺は俺よ」

「だが、助けに来てくれてサンキューな。金は必ず払う。だから先へ進むぞ」

「毎度あり、行こうか」

 半裸の二人は大きく息を吸いモヒト教授奪還のため再び潜ったのであった。

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