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第四十三話 「探索」その二

 先へ戻ってみるとコモが煙草を吹かして待っていた。

 道を寸断していた壁が無い。

「上に上がって行ったぜ」

 コモはそう言い天井を指さした。

「ちょっと待ってください。後々のためにレポートに書き残して置かなくては」

 モヒト教授はその場にどっかりと腰を下ろし手帳を開いてインク瓶に羽ペンを着け、状況を書き綴っていた。

 それが終わると立ち上がり言った。

「さぁ、行きましょう!」

 彼は護衛対象だというのに先頭に立って歩き始める。すっかり遺跡に興奮してしまっているようだ。

 デルター達は後を追い、自然に護衛隊形を組んでいた。

「ん?」

 後ろから声が聴こえた。

「どうした?」

 デルターは足を止める。ユキが壁を見ていた。そこだけ少々浮いていた。

「これ、スイッチだったりするのかい?」

 ユキの問いにモヒト教授は飛び込んできた。

「何のスイッチかはわかりません! 迂闊に押してはいけません。が、調査ためのです。押してみるしかありません」

「誰が押すんだ?」

 コモが嫌そうに言った。

「では、私が」

 ランスが名乗り出た。

「わかりました。では、我々は下がりましょう」

 モヒト教授が言いデルターは心配ながらも後に従った。ランスは今は仕事に来ているのだ。彼は彼の役割を果たそうとしている。

 デルターは心の中で神にランスの無事を祈った。

 全員が離れるのを見るとランスは浮いている石壁を押した。

 すると、重々しい音が聴こえて側の壁が下に下がり、入り口が現れた。

「部屋になってるみたいですよ。あ、何かありますね」

 先に中を覗いたランスがそう言い、モヒト教授へ視線を向けていた。

「調査しましょう」

 モヒト教授が先に中へと駆け込んで行く。

「まったく、興奮しすぎだぜ」

 コモとユキも続く。

「怖くなかったのか?」

 デルターはランスに尋ねた。

「そりゃ、緊張はしましたよ。もしかしたら入り口の罠のように落とし穴が現れるかもしれませんからね」

「そうだよな」

 デルターはそう言いながら、何故か部屋の中には足を踏み入れなかった。何となく気分が落ち着かなかったのだ。

「おお! これは斧ですね!」

 モヒト教授の嬉しそうな声が薄暗い部屋の中から聴こえた時だった。

 下に下がっていたはずの壁が勢いよく閉じた。

 外にいたデルターとランスは驚いた。

 中でもコモが騒いでいる。

「おいこれ、開かねぇじゃねぇか! 破壊するしかねぇな!」

「止めて下さい! 貴重な遺跡に傷をつけてはいけません!」

 そんな声がくぐもって内側から聴こえてくる。

 ランスが駆け出した。

「あれ? 仕掛けが戻ったと思ったのに、壁のスイッチは沈んだままだ」

「何だと?」

 デルターも慌ててランスに合流し、その目で確かめた。石壁は沈んだままだった。

 二人は部屋の前に戻った。

「こっちからは開けられそうもない!」

 デルターが言うと、コモが応じた。

「分かった、下がってろ、ショットガン・コモ様の出番だぜ」

「駄目です! 遺跡に傷をつけてはいけません!」

 コモとモヒト教授の言い争う声だけが聴こえている。

 デルターも、ランスも途方に暮れていた。

「静まりな!」

 と、ユキの一喝がコモとモヒト教授を黙らせた。

「思い返すんだよ、自分達がこの中でどんな行動をとったか」

 ユキが諭すように言う声が聴こえた。

「斧を取っただけだぜ?」

 コモが言うやモヒト教授の声が壁の向こうから轟いた。

「それだ!」

 程なくして部屋は開かれた。

 デルターは中に踏み込む気にはなれず、入り口の外から様子を窺っていた。

 薄暗い部屋だ。奥の祭壇というよりも飾り台があり、そこに一振りの斧が掛けられていた。豪華絢爛というわけでもないただの斧だ。本当は古びているのかもしれないが、暗さと距離でそこまでは確認できなかったし、別段興味も無かった。

「この部屋は後程、研究会の者と詳しく調べることにしましょう」

 モヒト教授はそう言うと再びスケッチし始めた。

 それが終わり、一同は部屋を出る。すると、信じられないことにそれを見計らったかのように壁は閉じられたのであった。

「うーん、凄い仕掛けですね」

 ランスが言うとモヒト教授は頷いた。

「全くです。では、先へと進みましょうか。先導、お願いしますよ。くれぐれも周囲に見落としの無いように」

 デルターが先に歩き始める。

 格子窓から見える外は夜の帳が降り始めていた。

 ユキが溜息を吐いた。

「ここで夜明かしかい」

「おや、もうそんな時間とは。そうですね、この状況だと見落としが出るかもしれません。少し早いですが、今日はここまでにしましょう」

 モヒト教授が元気づける様に一行に言った。

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