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第四十一話 「怪鳥現る」

「仕方がない。この身軽なコモ様が行ってやろうじゃないの」

 コモはそう言うとロープが固定されていることを確認し、上って行った。

 程なくして内側から石造りの扉が開いた。

 デルター、ランス、ユキ、モヒト教授の順番で入った。

 苔生した石造りの大きな建物が遠くに見えるが、ここは広場になっていた。

「もしもここが太古の砦だとしたら、この広さ。ここは演習場かもしれませんね」

 モヒト教授が喉を唸らせてそう言い、途端に彼は駆け出した。

「おい教授!?」

 デルターが呼んだ先でモヒト教授は足を止めていた。

「何だってんだ?」

 デルターはそう言いモヒト教授の後を追った。

 モヒト教授が見ていたのは間違いなく井戸だった。

「井戸がある時代ですか。というと近代的な時代なのかもしれませんね」

 モヒト教授は画用紙に木炭で井戸をスケッチしていた。

 こんな調子で教授に振り回されるのだろうな、と、デルターは思った。振り回されるのはコモで慣れていたが、こっちは護衛対象だ。うっかり先ほどのような罠にでもかかって死んだなどということがあるかもしれない。

 その時だった。

 大きな影がデルターの足元を横切った。

「何だい、あれは?」

 ユキが見上げて指さす。

 デルター達も驚いた。

 空を見る。そこに影があった。

 デカい鳥だ。それが翼を広げて上空を旋回している。

「見たことのない鳥ですね」

 モヒト教授が言った。

「撃ち落とそうか?」

 コモが言った時だった。

 影は勢いよくこちら目掛けて滑空してきた。

 ものすごい風圧、そして大きさだった。

 誰もがまさか襲われるとは思っていなかったようで、度肝を抜かれていた様子だった。

 デルターとユキが反射的にモヒト教授をかばった。

 大きな鳥は再び空へと戻る。

「翼を広げて七、八メートルはあるかもしれません。ファンタジーに出てくるロック鳥もあのぐらいなのかな」

 ランスが言った。

「み、み、み、皆さん!」

 モヒト教授が興奮した様子で口を開いた。

「どうした、教授?」

 コモが尋ねる。

「私の見間違いじゃ無ければ七色の羽を持ってました」

 モヒト教授は上空に輪を描いている大きな鳥を見上げて言った。

 デルターはそこまで詳細に見る余裕は無かった。

「確かに虹色だったね」

 ユキが応じる。

「おおっ! やはり! これは大発見かもしれません! あの鳥こそ、間違いなく始祖鳥に違いありません!」

 しそちょう?

「始祖鳥ですって!?」

 ランスも驚きの声を上げる。

「何だ、そのシソチョウってのは?」

 デルターはランスに尋ねたが、言葉を返したのはモヒト教授だった。

「一番最初に生まれた鳥の種類です! まさかまだ形を変えずに生きていたとは!」

 デルターは見上げた。

 その始祖鳥がこちら目掛けて滑空してきた。

 狙いはモヒト教授のようだったが、この教授は始祖鳥になら食べられても良いというような顔でその姿に見入っていた。

 ピストルの音と、ショットガンの音が続いた。

 始祖鳥はバランスを崩し地面に落ちた。

 鳴き声がこれまた凶悪で甲高い声だった。

 撃ったのはユキとコモだった。

「ああ、何てことを!」

 モヒト教授はそう言うと翼をバタつかせ、もがく太古の鳥の方に駆けて行った。

 デルター達が合流すると、教授は憎悪の目でこちらを振り返った。

「何故、撃ったんです!? これだから銃は嫌いなんです! 生きているものに触れずに命を奪う。命が失われる責任すら感じられない! まさしく悪魔の武器!」

 始祖鳥はまだ生きていた。相変わらず耳障りな声で鳴いている。

「俺達が撃たなきゃ、教授、そいつはアンタを狙ってたんだぜ」

 コモが呆れたように言った。

「みんな、黙って!」

 ユキが突然声を上げた。

 デルター達は彼女に従った。

 瀕死の始祖鳥の声だけが聴こえていたが、やがて空気を孕む音が幾つも聴こえてきた。

 建物の後方の空から幾つかの影が見えた。

「きっと仲間を呼んだんですよ!」

 ランスが慌てた様子で言った。

 デルターは瀕死の始祖鳥を振り返る。

 確かに巨大で、七色の羽に覆われていた。それだけ見れば綺麗だが、声がいただけない。彼は再び上空を見た。

 グングン迫る影達はランスの言う通り始祖鳥の仲間達だろう。

 声が幾つも上がった。

「まずいですよ、きっと私達を狙ってるんです」

 ランスが慌てた様子で一同に言った。

 モヒト教授が立ち上がった。

「死にましたよ」

 彼は恨む様な視線は見せなかったもののやるせなさを感じていたようだった。

 コモと、ユキが迫る始祖鳥達に向かって銃を向ける。

「いけません! これ以上殺しては!」

 モヒト教授が一同の前に両手、両足を広げて立ち塞がった。

「じゃあ、帰るのか!? アンタが決めたことだ、約束分の給料はしっかり貰うぜ!?」

 コモが声を上げると、モヒト教授は遺跡を指さした。

「向こうへ逃れましょう!」

 そして走って行く。

 始祖鳥達がついにその姿を見せた。太陽の下、その姿は大きな黒い影となっていた。

「撃ってはいけません! 遺跡に逃れるんです!」

 モヒト教授はグングン走って行く。足が遅いため、デルター達はすぐに追いついて彼を守るように走った。

 遺跡のぽっかりと開いた黒い入り口が見えてくる。

 始祖鳥が滑空したが、その鋭い爪の餌食になる前に遺跡の中に滑り込むことができた。

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