第三十八話 「ランスの決意」
ボーイの町に到着すると、さっそく門番に考古学研究会の場所を尋ねる。
「あんまり良い噂は聞かないぜ? 遺跡の罠の前に雇った連中が死ぬか、逃げ帰ってくるかばっかりだ。アンタらも本当にそれで考古学研究会の依頼を受けるのか、もう少し考えた方が良いと思うぜ」
壮年の門番はそのように忠告をした。
一行は町を歩いている。
「私達よりも慣れた方々が命を落としているようですね」
ランスが真剣な顔で言った。昨日の勢いはどこへやら、少々怖気付いているようにも見える。
「なんだい、アンタ、ビビってるのかい?」
ユキが冷静な顔で尋ねる。
「え、ええ、まぁ・・・・・・」
ランスは苦笑いというよりも引きつった笑みを浮かべて応じた。その肩をコモが叩く。
「安心しろよ、このコモ様がついてるんだぜ」
「コモ、お前は遺跡調査とかしたことあるのか?」
「無い」
デルターの問いにコモはあっけらかんとして応じ、言葉を続けた。
「だけど、冒険小説なら何度も読んだことがある。だから仕掛けとかはバッチリだ」
得意げにショットガンを担ぐコモを見てデルターは溜息を吐きたい気分だった。
「だけど、この依頼は受けるしかないぜ。何せ弾薬を補充したらお嬢さんの財布がすっからかんだからな」
「うるさい奴だね。それとお嬢さんは止しとくれ」
コモに対してユキが応じる。
命が儚いことなど既に経験済みだ。銃口を通してたくさんの死を見てきた。良い奴も悪い奴も神が見放したのかは分からない。だが、俺は死にたくはない。ランスもむざむざ死なせたくない。
「ランス、俺達は身を引こうか」
デルターが提案すると、ランスは悩む様な顔をする。
「おい、デルター、お前、俺とお嬢さんを見捨てる気か!?」
コモがいち早く反応した。
「そういうつもりはない。ただ、むざむざ死にに行くような真似はしたくないと思ったんだよ」
デルターが言うとコモは応じた。
「何だ何だ、図体はデカいくせにそれに見合った度胸は無いのか?」
デルターは思わず言い返そうとしたが、ランスが言った。
「受けましょう、デルターさん」
「何故、そう思う?」
デルターが尋ねるとランスは言った。
「困ってる人を助けるのがデルターさんの使命ですよね。今、ここで考古学研究会という組織が困っているわけです。それを見放して進むのは後ろ髪が引かれる思いがするんじゃないでしょうか?」
「俺は俺達ためを思って言ってるんだぞ、ランス」
デルターが言い返すと、ランスは少々度胸を取り戻したような温和な顔で応じた。
「ありがとうございます。しかし、この依頼は受けましょう。コモさんもユキさんもついてます。デルターさん、あなたもいます。それに気付いた私に怖いものなんてありません。四人で遺跡を踏破しましょう」
らしいことをランスは言った。そう、らしいことをだ。その心の裏側には押し隠した恐怖や疑念が渦巻いているはずだ。デルターが更に問おうとしたときだった。
「あれだ、考古学研究会!」
コモが指さす。
大きなレンガ造りの建物だった。
看板が出ている。大きな文字で、「調査員急募」と記されていた。
「詳しくは考古学研究会へ」
コモが看板に添えられた小さな文字を見て言った。
「ヤッホー、どれだけの報酬が貰えるか楽しみだぜ!」
コモが勇躍して駆けて行き扉を開け放つ。
デルターはランスの顔を見た。その地味な表情は読めなかった。だが、緊張していることだけは分かる。
「おい、お前ら、早く来いよ!」
コモが顔を出し言った。
「私は行くよ」
ユキが歩んで行く。
「我々も行きましょう」
ランスが息を弾ませて言った。
「ランス、本当に良いのか? 善行だって大なり小なり色んな所で巡り合える機会がある。俺のことを考えているなら」
「正直怖いですが、死ぬときは一緒ですよ、デルターさん」
青い顔をしてランスが言った。
「やっぱり止した方が良い」
デルターが尚も言ったが、青い顔のランスはかぶりを振った。
「今までどんな職業が自分に合ってるのか分かりませんでした。それは今もです。だからちょっと勇気を出して体当たりしようと決めたんです。幸い私一人ではなくデルターさん達が付いていてくれています。これは私にとって恵まれた機会なのですよ。そう、この上なく! さぁ、行きましょう!」
ランスが歩んで行く。
ランスの恐怖は死ぬこともそうだが、働くということに関しても同じような怖さを抱いているのかもしれない。出会ったころ以前職に就いていたことを話してくれたことを思い出す。簡単な作業ができなかった。と。
ランスの言うことは全て本音だろう。今こそ、無職の呪縛から解き放たれたいと挑んでいるのだ。ならば、それを応援してやるのが俺の役目じゃないか。
そうだ、俺一人じゃない。コモもユキもいる。だったら冷静に行けば何とかなりそうだ。
デルターはそう思うと、先に歩みだしたまだ若き相棒の後を追ったのだった。




