第三十六話 「真相」
猟奇殺人者ギュンターは厳重な警備の中地下の独房にいる。
デルター達は保安官事務所に集まり、報告を聴いていた。
だが、今回の件で犠牲者が出た。それはあのデブの保安官だった。
胸を刺され、首をかじられながらも、それでも保安官は笛を鳴らしたようだ。
それに気づいた東方面の保安官補達がまず踏み込んだ。
ギュンターは器用だったようだ。鉄板を狼男の顔に似せて変形させ、毛皮を貼り付けていた。全身を覆う毛皮の作りも同様だった。ピストルが効かなかったのはこのためだが、膝の後ろは無防備だったようで、そこをユキの狙った弾に撃たれ、動けなくなり、逃げるのを止めて反撃に躍り出たということらしい。
それにしても獣臭かった。何故ならこれは本物の狼の毛皮で、ギュンターの店の地下倉庫には腐臭を上げた狼の丸裸の亡骸が幾つも横たわっていたという。
だが、ギュンターは熱があった。死に至るような高熱だ。その原因は、保安官補達の予想だが、足に貫かれた痕があったという。そこからみて破傷風ということらしい。
ギュンターは前々から狼男に興味を抱いていたが、その高熱がきっかけで錯乱し凶行に及んだのでは無いかと保安官補達は言った。
そして狼男が実在するかのように振舞うために自分自身に歯形の傷をつけ、被害者となったのだろう。
二
デブの保安官は立派だった。務めを果たした。教会の裏の墓地に一つの穴が掘られ。木製の棺桶がその隣に置かれていた。
牧師が追悼の言葉を述べる。
デルター達も帽子を脱ぎ保安官の冥福を祈った。
町の男達が棺桶を持ち上げ、穴の中に置く。親族達が土をかけ始める。そこで静かに涙を流していた保安官夫人が取り乱して言った。
「埋めないで! あの人のことを埋めないで!」
十代の息子と思われる人物がそんな母を引き留める。
だが、夫人は尚も暴れ続けた。
「仕方ないさね。長く連れ添ったんだ」
ユキが言った。
「そうだな」
デルターも応じる。
夫人は結局泣き声を上げてその場に伏してしまった。
土をかける作業が再開される。
デルター達もそれを見送り、そして戻った。
陽は午後に傾いている。
保安官事務所で、臨時に保安官代理になった保安官補がユキとコモに報酬を支払った。
「ユキさんはこれからどうするんですか?」
外に出るとランスが尋ねた。
「私はとりあえず北へ向かうわ。元々根無し草の賞金稼ぎだからね」
ユキが言った。
「北に何かあるんですか?」
ランスが尋ね返す。
「知らないわよ。でも南から来たんだから北へ向かうだけ」
ユキが歩き始める。
ランスがデルターを見た。デルターはその意味を知り頷いた。
「ユキさん、北へなら私とデルターさんも向かうところです。良かったら途中まででも御一緒しませんか?」
すると赤毛の彼女は振り返った。
「明日の朝、八時に北門で待ってるわ」
ユキはそう言うと手をヒラヒラさせて歩いて行った。
「この治安の悪さだ。一人よりは三人ってとこだろ?」
「ええ、そうです。何かまた街道で撃ち合いにでも巻き込まれそうな気がして」
「神が俺達を試しているのかもな。宿へ行こうぜ」
「そうしましょう」
二人は歩き始めた。
「ちょっと! おい、ちょっと、俺には何も訊かないのかよ! ここまで一緒にやってきた仲だろうがよ!」
コモが慌てた様子で回りこんできた。
「おう、コモ、お前は傭兵の仕事の方は良いのか?」
デルターが尋ねるとコモは少し思案するように顔をそらし、改めてこちらを見た。
「南に行っても仕事があるかは分からねぇし、ボーイには支部があるからそこで当てを探すつもりだ」
「だったらコモさん、御一緒できますね」
ランスが嬉しそうに言った。
「おう、そういうことだ」
コモもまんざらではない様子で応じる。
「とりあえず、今日は休もう。宿に向かうぞ」
「はい」
「おう」
デルターが言うと、ランスとコモが異口同音で応じたのだった。




