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第三十三話 「急造パーティー」

「では、現在の状況について説明しよう」

 保安官が町の見取り図を出した。

 町というだけあって広かった。北と南に門があり、番兵がいる。と、保安官は言った。

「番兵がいるのに入られてるってことは、町を囲む壁が低いのか?」

 デルターが疑問を口にする。

「その通りだ」

 恰幅の良い保安官が突き出た自分の腹のゼイ肉を弄びながら言った。麦酒の飲み過ぎだ。と、デルターは内心で毒づいた。それに鍛錬も怠けている。そんなデルターの評をよそに保安官は続けた。

「今までの被害は七件。そのうち六件は被害者の喉と身体の一部が噛みちぎられていた」

「マジかよ」

 コモが言った。

「で、そのうち一件は被害者は無事だったというんだね?」

 速射のユキが誰ともなく尋ねてきた。

「そうだ。ギュンターという金物屋の男性だ。彼は右肩を噛まれたが命に別状はない」

 保安官が応じる。

「ところでさ、本当に狼男なのか? そんなのが存在するってのは信じられねぇよな」

 コモが言いデルターを見たので頷いた。

「だが、保安官言葉からすれば人喰い野郎ってことだけは間違いない」

 デルターが言い返すとコモは「確かに」と頷いた。

「襲撃は夜なんですよね?」

 ランスが保安官に尋ねる。

「ああ、そうだ。主に深夜。地図の点が示す通り無差別に一人身の民家を襲撃しているようだ」

 保安官が応じ、彼は一同を見て言った。

「とりあえず戦力は我々だけだ。州警察も大盗賊退治にかかっていて動いてはくれない。班分けをしよう。あみだクジだ」



 二



 保安官の作った即席のあみだクジで班分けは決まった。まぁ、各々の技量は知らないが、ランスがコモと組めたことには少し安堵を覚えたデルターだった。実際、コモは強い。実戦経験も傭兵だけに豊富だろう。自分の腕前ではまだランスまで守り切れないとデルターは思った。

「アンタ、走れるんだろうね?」

 速射のユキがパートナーとなったデルターに尋ねる。

「大丈夫ですよ、ユキさん。デルターさんは走れるデブですから」

 ランスが地味な顔を得意気にしフォローになってないフォローをする。

「当てにはしてないけどね。足引っ張るんじゃないよ」

 速射のユキがこちらを見上げて鋭い目つきで言った。

 こうして、デルターとユキ、ランスとコモ、六人の保安官補達が二人ずつの五組に分かれた。

「それぞれの担当場所を決めよう」

 保安官が言い、デルターとユキ組は町の北側、自分達が次の目的地にしているボーイの町に続く道を担当をすることになった。ランス、コモ組は町の中心部だ。どこへでも助勢に行けるような位置になっていた。

 保安官補達がどれほど訓練されているかは知らないが、見知った顔がすぐに救援に来てくれるのは安心するとデルターは思った。

「ではこれでやることはないな。夕方まで解散」

 保安官が相変わらず自分の腹のゼイ肉を摘まんで言った。



 三



「さて、どうしましょうね?」

 外に出るとランスが尋ねてきた。

「まず、ギュンターとかいう奴に話を聴きに行くべきじゃねぇの。面倒だがな」

 コモが言った。

 なるほど、確かにそうだ。

 デルターは頷いた。唯一生き残った被害者だ。件の犯人を間近で見ている。保安官の情報なんかより、もしかすれば精度の高い情報を仕入れられる可能性がある。

 するとその脇を速射のユキが通り過ぎようとしていた。

「アンタはどこへ行くんだ?」

 デルターはその背に声を掛けた。臨時とはいえパートナーとなったのだ。少しでも打ち解けておきたかった。無駄だとは思うが。

「関係ないだろう?」

「そうかもしれねぇが、とりあえず、俺達は被害者の生き残りのギュンターという人物に会おうと思ってたところだ」

 するとユキが口元を不敵に歪ませた。

「アンタら揃ってぼんくらかと思ったけど、なかなか良い勘してるじゃないかい。私もギュンターを訪ねようと思っていたところさ」

「だったら御一緒しませんか?」

 ランスが誘うとユキは頷いた。

「良いわ。どうせ、酒も飲めないしね。それとアンタ、煙草は離れて吸ってくれない? 臭くてかなわないわ」

 ユキが迷惑そうに言うと煙草を吸っていたコモが不機嫌な表情になって煙草を落とし足で揉み消した。

「そういうのも止めて欲しいわね。喫煙者のくせして携帯灰皿も持ってないの? マナーがなってないわよ。他の喫煙者達の迷惑だね」

「へいへい悪かったよ、お嬢様」

 コモは煙草を拾うと鉄の携帯灰皿に入れた。

「それじゃあ、行くわよ」

 ユキが言った。

 だが、誰も足を動かさなかった。

「先導して頂戴」

「ギュンターさんの御宅の場所を聞いてきます」

 ランスが保安官事務所に戻って行った。

 ユキが呆れたように溜息を吐いた。

「速射だかなんだか知らねぇが、姉ちゃん、ちょっと態度悪すぎやしませんか?」

 コモが言った。

「自称ショットガン何とかだっけ? 私は馴れ合いはしたくないのよ」

 ユキが応じる。

「へいへい、そうですか。すみせんね、お嬢様」

 コモは嫌そうに目を背けて応じた。

「そのお嬢様っていう皮肉を止めてもらえるかしら?」

 ユキがコモを睨む。

 デルターは呆れて仲裁に出ようとしたが、ちょうど良いところにランスが戻って来た。

「皆さん、お待たせしました。町の南の通りです。件の狼男を恐れてか、最近はギュンターさんは店を出していないそうですが、軒先に看板は出ているとのことです」

「分かった」

 デルターは頷き歩き始める。その後を残りの三人が、コモとユキは並んでそっぽを向き合い続いて来たのだった。

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