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第二十六話 「応戦」

 だから言っただろうが。

 あの時の自分自身を悔いる様な目で見てくるランスに向かってデルターはそう言ってやりたかった。

 乾いた発砲音が街道中に響き渡る。

 賊は十人はいるだろうな。

 デルターは馬車と馬の隙間から反撃したが、当たったかどうかは分からなかった。

 コモのショットガンとランスのピストルも火を噴くが人手不足だ。

「降参して荷を渡しやがれ!」

 鉄の荷馬車越しに賊から声が上がった。

「渡すかよ! こちとら任務を完遂させて報酬ウハウハ狙ってんだよ、ボケナスが!」

 コモが弾丸と共に叫び返した。

 一つ悲鳴が上がった。

「そら見たことか、ショットガン・コモ様を舐めるんじゃあねぇぜ!」

 だが、多勢に無勢。弾薬にも限界がある。相手は草木の生い茂った中に身を潜めているため場所が特定できない。撃たれるのを覚悟で出てみるか。

 デルターはシリンダーに弾をフル装填し馬車の隙間から相手を窺う。

 敵も後々が面倒だと思っているのか、馬には当てないでいた。

 これだ。

 デルターは素早く駆け馬の陰に隠れて顔を出した。

 幸い気付かれていないようだった。

 見えた賊はランスとコモに気を取られている。コモが口だけじゃなく実際に命知らずなほどに勇ましく弾を浴びせかけているのが、敵の気を引いているらしい。

 デルターは狙いを定めた。

 茂みの中に黒いカウボーイハットが見える。

 神よ、許したまえ。

 デルターは引き金を引いた。

 乾いた音がし、直後、黒いカウボーイハットは茂みの中に沈んで見えなくなった。

 また一人俺は殺したんだ。この手でな。

「そっちにもいるぞ!」

 賊の声がしたが、撃って来ない。馬を盾にしているからだ。デルターは馬に謝りつつピストルを構えた。

「デルター、ランス、援護を頼むぜ! あれをやる!」

 コモが叫んだ。

 デルターは舌打ちし、ランスに合わせて身を乗り出し、ピストルを茂みに浴びせかけた。

 それが終わるとコモが、蛮勇とも言える行動で馬車の前に飛び出しショットガンを連射した。

 一つ悲鳴が上がった。

 コモは撃ち尽くし、戻って来た。

 だが、賊は撤退しない。それもそうだ、こちらが少数なのだから。

 このままじゃ、ジリ貧だ。

 デルターはコモとランスの方へ駆けた。

「馬を走らせろ。ガールまで逃げ切るしか道はねぇぞ」

「馬鹿言うな、グラついて工芸品に傷でもついたら報酬がパーだ」

 コモが反論した。

 ランスがピストルを浴びせかけながら驚きの形相で声を上げた。

「後方から馬の影が見えます!」

「何だって?」

 敵か味方か。

「ヒュー、ガラスの乙女像は俺達の物だ!」

 そのもてはやすような声は敵だった。

 馬影が十騎ほど見えた。

 デルターは絶望し、即座に決断した。

「二人とも退くぞ!」

「冗談じゃねぇ、ガラス像を奪われてたまるかっての!」

 コモはそう言うと増援に向かってショットガンを浴びせかけた。

「ランス、退くぞ!」

 デルターは銃を構えているランスの首根っこを捕まえて引きずり背後の茂みに飛び込んだ。

「コモさんは!?」

 神よ、俺を許したまえ。ランスの問いにデルターは答えなかった。

「降参しろ!」

 賊達が次々現れコモを包囲する。

「ふざけんな! 俺の夢を、野望を台無しにしやがって!」

 コモは半狂乱になりショットガンを二発浴びせた。

 デルターとランスは様子を見ていた。

 コモは殴られ、ショットガンを取り上げられ、足蹴にされ、いたぶられていた。

 飛び出したい気持ちをデルターは押さえていた。ランスもその様だった。だが、敵は見た限りだと二十人はいる。どいつもこいつもガラの悪い荒くれ者のようだ。

 デルターはひたすら神に祈っていた。見切りをつけ見捨てたのは自分だが、それでもコモが殺されませんようにと。

「狙い通りの襲撃だったな」

「もっと護衛がいるかと思ったが」

「二人ぐらい逃げ出したけど、追うか?」

「いや、放って置け。そんなことよりこうも上手くいくとは思わなかった」

 賊達は会話をしながらコモをなぶっていた。コモはもう動かなかった。死んではいないはずだ。気を失ったのだろう。

 そして賊達は鉄の馬車の両開きの扉を開いて彼らなりに粗野に感嘆の声を上げていた。

「こいつは迂闊に馬車を走らせられねぇぞ。アジトまで慎重に歩いて行くようだな」

「こいつはどうする?」

「仲間がやられた分、たっぷり痛い目に合わせてやろうじゃねぇか。まだ生かしたままにしとけ」

「わかった」

「案内」

「へい! こっちでさ」

 賊達が高笑いを上げながら反対側の茂みへ入って行く。

 デルターは見た。賊の頭目と思われる男は左目に黒い眼帯をしていた。そいつが振り返る。茂み越しに目が合った。だが、相手は気付かなかった様でそのまま手下の後を追って行った。

「デルターさん、ラーズへ戻って保安官に協力を頼みましょう」

 賊が消えるとともにランスが提案するがデルターはかぶりを振る。保安官は今頃検分に赴いているはずだ。

「ではガールへ行って」

「距離が分からねぇ」

 デルターがそう答えるとランスは目を見開いて言った。

「見捨てるんですか、コモさんを!?」

「・・・・・・二十対二だ。それでもお前は行くか?」

 デルターはランスを真っ直ぐ見詰めて尋ねた。

 ランスは目を逸らさず応じた。

「無謀とは思いますが、コモさんを見捨てることに納得はできません」

 デルターは両眼を閉じた。

 コモとの付き合いは短いが、それでも仲間だった。

 僅かながらの思い出が脳裏を過ぎる。

 やれやれ。

 目を開くとランスの両肩に手を置いた。

「後を付けるぞ」

「ええ」

 ランスが頷き返した。

「行くぞ」

 デルターはそう言うと街道に出てランスと共に賊の後を追うべく反対側の茂みに入ったのであった。

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