第二十二話 「相棒」
「騙しやがったな!」
平和の訪れたドールの町の中心で、大勢の町民が輪を作るその中心に、賊の頭目スティングとその手下が六人、手足を縛られ、喚き散らしていた。
保安官殺しの罪は重い。助けに行ったベンも殺し、そして町中を脅かしたことも同じだった。指揮を執っているのはシールの町の保安官だが、普段のやる気の無さは何処へ行ったのか、厳粛な態度で臨み、裁判も抜きで彼らに縛り首を宣告した。
その様を眺める群衆を後にし、デルターは診療所へと向かった。
二
比較的大きな診療所にはランスだけしかいなかった。
「デルターさん」
ランスはベッドから起き上がり嬉しそうに手を振る。
「ああ」
だが応じるデルターの胸中は複雑だった。
罪悪感があったのだ。
砦でランスの命と町の人々の命を秤にかけたこと。そこでランスを見捨てたことだった。
幸い、町の中で賊達を殲滅、あるいは身柄を拘束することに成功し、砦への危険は無かった。だが、もしも賊が撤退し砦へ戻ったらランスの命は無かっただろう。
夜、あの後、デルターは町の男達を引き連れ、担架を持って砦へ戻っていた。
疲労困憊だったが、ランスは血を流している。もしも血が止まらなかったら・・・・・・。
実際、ランスはあの最終防衛ラインで気を失っていた。
息はあったことにデルターは神に感謝していた。
そして彼を担架に乗せ夜通し町へ急いだのであった。
診療所でランスの脚に深く刺さった弾丸を手術で取り出し、今は安静の身である。もう三日ほど待つようにと医者の老爺が言った。
彼の笑顔が眩しかった。
俺はお前を見捨てた男だというのに。
デルターはあらかじめ結論を出していた。
ヤマウチヒロシと町まで急行する際、既に考えていたのだ。そしてそれを実行に移す。
デルターは革袋をランスのベッドに置いた。
乱暴に置いたわけではないが中身が音を立てたのでランスにも分かったらしい。
彼は歓喜し袋を覗いた。
「お金ですね。今回の我々のことが賞されたわけですか?」
明るい顔を向けられ、デルターは更に居心地が悪くなった。だが、言った。それを言いに来たのだ。
「いや、俺の金だ。半分に分けた」
ランスの表情が考える様に変わった。
「どういう」
相手が言う前にデルターは言葉を遮って応じた。
「お前とはこれまでだってことだ」
「・・・・・・やはり、足手纏いと言うことですよね?」
「違う、そうじゃない」
デルターは悲しそうな顔をするランスに向かってその目を見て言った。
「俺はお前を見捨てた男だ」
「それはあの時ですか? 町の人を助けるために向かおうとした、あの時ですよね?」
デルターは頷いた。
「それなら私は気にしませんよ。デルターさんの判断は正しかった。むしろそうしくれて私の方も安心しました」
ランスは微笑んでそう言った。
「それにその後、ちゃんと私を助けに来てくれたじゃないですか。夜も明ける前でクタクタに疲れ切っていたというのに。本当に嬉しかった。担架に揺られている時、少しだけ目を覚ましたんですよ。最初に見えたのがデルターさんでした。私はそれで安心して眠ってしまいました」
ランスはそう言うと表情を真面目にして尋ねて来た。
「でもデルターさん、あなたにとって今までの私が足手纏いだと言うなら、その言葉を受け入れましょう。実際、迷惑と苦労だけしかかけてませんからね」
デルターは気圧されたが頷いた。
「お前を誘ったのは俺だ」
「そういう責任感は無しで。どう思われているのです?」
デルターは考える間もなく答えた。
「お前は確かに軟弱だが、頑張ろうとしている。それを足手纏いだなんて俺は思わない」
ランス・トラヴィスを見詰めてデルターは言い考えた。
本当にこの男を連れて行って良いのだろうか。一度、見捨てた俺にその資格は本当にあるのだろうか。ランスはひ弱な男だが、いつだか街道で賊と出くわした時も俺を気遣い声をあげてくれた。そして今回の賊から人質を救うというたった数人で困難で危険なことにも不平不満を言わず言わば進んで志願した。
何と勇気のある男じゃないか。それが無知の蛮勇だとしても彼は尻込みせず捕まった人々のために頑張った。
デルターの心は決まった。
「だからランス、もう一度、俺の相棒になってくれないか?」
デルターが真剣に問うとランスは頷いた。
「私のことをそう評価していただいて本当にありがとうございます。頑張りますので、もう一度、あなたの相棒にして下さい」
「喜んで」
デルターが応じるとランスが手を差し出してきた。デルターも倣い二人は握手した。
「と、いうわけでこのお金はお返しします」
「いや、持ってろよ。お前、金無いんだろう?」
デルターが言うとランスは苦笑いした。
「すみません、働いて返します」
その返事を聴いてデルターは笑った。心の霧が晴れた。晴れた先にあるのは陽光だ。
「回診です」
看護師が入って来た。
二十代ぐらいだろうか。若い女性だった。自分が若ければ恋したかもしれない。可愛らしい女性だった。
「あ、はい」
と、ランスの目が泳ぐのをデルターは見逃さなかった。
こいつめ。
デルターは内心で笑い部屋を後にした。
三
「ランスさんの具合はどうですか?」
診療所を出たところでイヅキ教官が待っていた。
彼、いや、彼女、どちらだろうか。未だにこの綺麗な人物に性別を訊けないでいる。
イヅキ教官はシールの町から保安官と義民兵と共に援軍として駆け付けてくれたのだった。
「もう問題は無さそうだが、あと三日入院だとさ」
「そうでしたか。デルターさん、ランスさんは銃を当然撃ちましたよね?」
「ああ。そりゃあな。アンタが以前心配したことにはなっていない。ランスの弾丸は悪者とはいえ、誰かを殺したか、傷つけたかもしれない。だが、まだ楽観的なもんさ。幸か不幸か・・・・・・な」
「そうでしたか」
「だが、アイツのことだ。どんな形かは分からないが、いずれアンタの懸念通り、人を殺したり傷つけたりすることがどんなに罪深いか知る時が来るだろう。まぁ、俺に任せて置け。アイツは俺の相棒だからな」
デルターが言うとイヅキ教官は頷いた。
「そうですね、頼りはデルターさんしかいませんからね。あなたがそこまで思って考えていて下さるならきっと大丈夫でしょう」
「ああ、ドンと任せておきな」
デルターが言うとイヅキ教官は微笑んで頷いたのだった。




