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第二十一話 「急行」

 ペケさんが黙っている。ということは。

「敵はいない」

 デルターは言った。

 ヤマウチヒロシが動き、水路の蓋を開けてピストルの弾を見舞った。

「こっちにもいないな」

「敵はまた町へ行ったのか?」

「かもしれない」

 デルターの問いにヤマウチヒロシが答えた。

「急いで合流しましょう」

 ランスが立ち上がり呻き声を上げて倒れた。

「ただの一発なのに物凄く厄介だな。脚じゃなければ良かったのに」

 ランスは自嘲するように言った。

 俺を庇った一発だ。

 デルターは後悔していた。俺なら耐えられたかもしれないと。俺が撃たれるべきだったと。

「命があってだけ良しとしろ。ベンの奴は不運だった」

「・・・・・・軽率でした」

 ヤマウチヒロシが言い、ランスが小さく謝った。

「ニャー」

 ペケさんが鳴いた。

「ああそうだ、町へ戻ろう!」

 ヤマウチヒロシが言う。彼の家族がいるのだからそう主張するのは当然だろう。

 だが・・・・・・。

「ランス掴まってろよ」

 デルターはランスを肩に担ぎ上げようとしたが、ヤマウチヒロシが非情とも言える様なことを言った。

「ランス、悪いがお前は置いて行く。デルターと私で町へ向かう」

「おい、賊がまたこっちに戻ってきたらどうするんだ!?」

「・・・・・・その時はその時だ」

 歯切れ悪くヤマウチヒロシが応じる。

「デルター、アンタもここに残るなら俺一人で町へは行く。こうやって口論をしている時間だって私には惜しい! ついて来る気があれば追って来い」

 ヤマウチヒロシは駆け出した。ペケさんが先行しているようだ。砦の内部の方へ向かっている。あの街道から続く森の小道がきっとあるだろう。

「デルターさん、行って下さい。一人でも多い方が良い」

 暗闇の中ランスが言った。

 デルターは舌打ちした。秤にかけた。ランスと町の人々の運命を。

「ランス、必ず戻る」

「ええ、デルターさん」

 デルターは格子窓から漏れる月明かりを頼りに駆けた。

 程なくしてヤマウチヒロシに追い付いた。

「デルター、すまん、非情な決断をさせてしまった」

「お前さんには家族がいる。仕方が無いさ。早いところ行こうぜ」

 ペケさんを先頭に二人は駆けた。



 二



 砦の中をペケさんは迷わず案内し、出口へと導いた。

 デルターも、ヤマウチヒロシも、肩で息をしていたが、先に続く森の道を駆けに駆けた。

 夜更け、街道に出ると、乾いた音が幾つも飛び交うのを聴いた。

 南、ドールの町の方角だ。

「急ごう」

 ヤマウチヒロシがフラフラになりながらも駆ける。

 デルターも後に続いた。

 町の中の入り口が見える。

 罵声に怒声、そして発砲する音が轟いていた。

「間違って撃たれたりしないようにしなきゃな。しかしどうすれば良い」

 ヤマウチヒロシが言った。二人は建物の影から様子を窺った。

 篝火が幾つも焚かれ教会の前を照らしていた。

 二人は頷きあって迂回して教会へと辿り着いた。

「敵か!?」

 鋭い声と向けられた銃口に二人は手を上げて応じた。

「俺は味方だ」

「俺もだよ」

 ヤマウチヒロシが自分のことしか言わなかったのでデルターも続いて口を開いた。

 銃弾が飛び交っている。

 付近の建物の陰に隠れてピストルやショットガンを見舞っている者達がいる。

「無事じゃったか! ん? 人数が足りんようじゃが」

 留守番役の老人が現れた。

「一人は負傷して砦の中だ。もう一人は死んだ」

 デルターが言うと老人同情するかのように頷いた。

「私の家族は?」

 ヤマウチヒロシが尋ねる。

「救われた町人と共にラーズの町へ避難している」

「デルターか!」

 突然名を呼ばれた。振り返るとシールの町のやる気の無い保安官がいた。

「保安官、何日か振りだな」

 デルターが言うと保安官は言った。

「状況は大体把握できたと思うが、賊と交戦中だ。既に包囲はしているが、奴ら、縛り首になるぐらいならと躍起になってな。なかなか苦戦しているところだ。だが二人とも休んでて良いぞ。こちらが優位だ次期に終わる」

 それから保安官は現場の指揮を執りながら話して聴かせた。

 キンジソウが気を利かせて捕まっていた人々を元の町ドールでは無く先のラーズへ逃がしたこと。彼がこちらへ寄りヤマウチヒロシの家族や戦えない者もラーズへ促したことを。奴らの襲撃の少し前に援軍が集結したことを。

「あのキンジソウという男、さすらい人とか言っていたがタダ者では無いな」

 すると見覚えのある保安官補が駆け付けて来て言った。

「敵が縛り首を回避できるなら降伏すると言っています。見たところもう十人もいませんね」

「そうか。だが、あいつらはここの保安官を殺している。縛り首にする」

 保安官はそう応じた。

「ではどうします?」

「降伏を受け入れよう。ただし、縛り首にすることは黙って置け」

「お、おい!」

 デルターは反論しようして黙った。

 あいつらはベンを殺し、ランスを傷つけた。多くの人々を恐怖の底に陥れた。

 程なくして頭目のスティング共々、六人の賊が捕縛された。

 これでドールの町を襲った惨劇は幕を下ろしたのであった。

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