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第二十話 「最終防衛ライン」

 デルターは夢中になって駆けた。

 見えざる悪魔がすぐ後ろに迫っているような気分だ。その魔手から逃れるべく必死に駆ける。これほど臆病な気持ちになったのは始めてだ。

 段数の少ない階段を跳び越し、駆けに駆ける。すると見えた、水路への入り口の蓋と、左右のでっぱった壁。

 デルターはその左側に飛び込んだ。

「デルターさん!」

 ランスがいた。

 向かいにはヤマウチヒロシがいる。

「ここで持ちこたえるぞ」

 デルターが言うと二人は頷いた。

 壁から顔を覗かせ銃口を向けていると、賊が不用意に飛び込んできた。

 デルターは反射的に引き金を引いた。

 乾いた音がし、それは賊の左胸に当たった。デルターは尚も発砲し今度は眉間を割った。敵は倒れた。もう動かない。

 俺がやったのだ。だが、罪の意識の芽生えを敵は嘲笑うかのように許さない。

 再び凶弾が壁にぶつかる音がする。デルターは既に身を引きその音を聴いていた。

 音が止む。

「反撃!」

 ヤマウチヒロシが声を上げ、ランスと共にピストルを二発ほど撃った。

 あくまで牽制することだ。時間を稼ぐことが自分達の役目だ。

 キンジソウは今どの辺りだろうか。援軍は編成されたのだろうか。自分達は見捨てられてはいないだろうか。

 夕暮れが過ぎ、視界が暗くなってきている。

「おい、降伏しろ! そっちがたった三人なのが分からないとでも思ってるのか!? こっちは五十人いるぞ!」

 敵の声が静かな建物内に響いた。

 デルターは返事をしない。ランスもヤマウチヒロシもだった。

 たった三人に五十人も派遣するわけがない。デルターはそう思った。せいぜい、十人ぐらいだろう。

 返事の代わりにデルターとヤマウチヒロシは頷き合い、銃弾を見舞ってやった。

 そして反撃に出たことが正解だったことを思い知る。今の間にこっそり足音を忍ばせ敵が三人近付いて来ていたのだ。

 一人は逃がしたが、二人はそれぞれの銃弾が仕留めた。

 いつの間にか陽が落ちていた。

 静かだった。どんな鮮明な音でも聴き逃さないほど、神経は研ぎ澄まされていた。目は冴えきっている。

 ヤマウチヒロシがライフルの弾を装填している音だけが聴こえている。

「援軍、来てくれるんでしょうかね?」

 弱気な口調でランスが尋ねて来た。

「心配するな、必ず来る」

「ニャー!」

 その時、ペケさんが高らかに鳴いた。

 何事かと思った時には振り返った薄闇の中、木の蓋が弾き跳び何者かが侵入してきた。

「ランス!」

 デルターはランスを庇おうとしたが、逆にランスの方が早かった。

 ピストルの乾いた音色がした。

 ヤマウチヒロシが反撃したが蓋は閉じられた。

「ちっ、そっちは大丈夫か!?」

 ヤマウチヒロシが尋ねる。

「ランス!」

 デルターがランスに声を掛けると目の慣れた闇の中、ランスは左腿を押さえて呻いていた。

 撃たれた。ランスが撃たれた。この俺を庇って!

「馬鹿野郎! 何で飛び出した!」

「知りません。反射的にですかね。あれですよ、この人だけは失いたくないと思って。ふふはは、恋人みたいですね」

 ランスは苦痛に満ちた声で言った。

「止血を!」

 反対側でヤマウチヒロシが言った。

 その時、声が響いた。

「水路があったとは知らなかった。だが、これでお前達は袋のネズミだ。武器を捨てて出て来い!」

 ランスを今すぐ助けてやりたかった。ランスのズボン越しに両手で傷口を押さえているが、湧き出る血でベッタリになるのを感じた。

 降伏すればランスを助けてくれるだろうか。

 その時、ランスが飛び出し、ピストルを見舞った。

「ランス、無茶するな!」

 デルターは戻って来たランスを引き寄せた。

「ニャー!」

 ペケさんが鳴いた。

 デルターとヤマウチヒロシは同時に背後を振り返り、持ち上がった蓋の下にいる敵を撃った。

 悲鳴が一つ上がり、水の中に落ちる派手な音が聴こえた。だが、まだ新手がいるだろう。

「ランス、傷口を押さえてろよ。お前はもう動かなくて良い」

「いいえ、まだ動けます。まだ戦力になれます」

 ランスは気丈に応じた。

 銃弾は次々撃ち込まれて来た。

「しかし、敵は人質に逃げられたのに何故ここを諦めないのでしょうか?」

 ランスが尋ねて来る。

「今度は俺達を人質にしたいのかもな」

 デルターは応じた。

「それか、数を割いて今頃再び町を襲っているか、略奪しているか」

 ヤマウチヒロシが言った。

 デルターは身震いした。

 そんな発想は無かった。援軍が合流していなければキンジソウ一人だけしか戦える者はいない。いや、教会の守備に就いている老人ともう一人の男がいたが、それでも多勢に無勢だ。

 ふと、どれぐらい静寂の中考えていただろうか、ランスの呻く声だけが相変わらず聴こえていた。

「仕掛けて来ないな?」

 ヤマウチヒロシが言った。

「そうだな」

 デルターも頷く。

 すると向こう側でヤマウチヒロシが動く気配があった。

「お、おい!」

「様子を探って来る」

 ヤマウチヒロシがそう言った時だった。

 闇と一体化したペケさんが先へ駆けた。

 程なくして戻って来た。

「おい、ペケさん、敵はいるのか?」

 その問いに黒猫ペケさんはデルターを見上げ黙したままだった。

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