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第十九話 「銃撃戦」

 デルターの弾は賊には当たらなかった。

 当たったのは結局キンジソウの早撃ちだけだった。

 まだ人々の列は進んでいない。彼らの背を守らなければならない。

 ヤマウチヒロシとベンが角に駆けて行く。

 そこで遭遇した敵と撃ち合っている。

「デルター、後はお前達に任せるぞ」

「あ、ああ。分かっている!」

 デルターは正気に戻った様にハッとしそう答えていた。

 頼みのキンジソウが人々の列を掻き分けて消えて行った。

「デルターさん、行きましょう!」

 ランスが先に駆けて行く。倒れている賊の死体などお構いなしにヤマウチヒロシ達と合流する。

 こいつもさっきまでは生きていたんだよな。

 いいや、悪者だ。

 いつかのイヅキ教官の言葉が思い出される。自分が撃つのを戸惑ったがために自分か誰かが死ぬ。

 そうだ、俺は殺し合いに来たんだ。

 デルターは駆けた。

 ランスとベンが上と下から顔を覗かせピストルを撃っていたが、敵の人数が多いらしく断続的に浴びせかけられる凶弾に反撃する隙を見付けられないでいた。

「不味いぞ、近付いて来る」

 ベンが慌てるようにそう言い、顔を覗かせ引っ込める。

 ヤマウチヒロシがランスと代わった。

「十五人はいますね」

 ランスはデルターに向かって弱気の笑みを浮かべていた。

 その十五人を殺さなければならない。

 覚悟が鈍って行く。

 その時だった。

「がっ!?」

 声を上げ顔を覗かせていたベンが倒れた。

 色褪せたカウボーイハットの額部分に一つの穴が開いていた。

 やられた。彼は死んだのだ。たった今まで生きていたのに。

「こ、この野郎!」

 ベンは不平を口にしたり疑い深い性格だったが、善人で、良い仲間だった。

 俺が撃たなかったがためにこうなるのは御免だ! デルターは怒りの声を上げ廊下に飛び出した。

「デルターさん!」

 ランスが驚きの声を上げる。

 敵がたくさんいる。カウボーイハットをかぶったならず者達。

 そいつらが一斉に銃を向けた。デルターが対抗しようとしたところで、思いっきり腰を掴まれ角に引き戻された。

「デルター、正気になれ! ベンのことは仕方が無かったんだ! その怒りは後に取って置け!」

 ヤマウチヒロシがこちらを見詰めて力強い口調で訴えた。年齢も近いせいか説得力があった。

 ヤマウチヒロシには奥方と子供がいる。

 ランスにも家族がいるだろう。

 ベンにだっていたはずだ。

 デルターは言っていた。

「お前らくれぐれも生き残る事だけを考えろ!」

 ランスと、ヤマウチヒロシが頷いた。

 背後を振り返る。民衆の列は先程よりは進んでいた。

 赤ん坊の泣き声が聴こえる。

「赤ん坊まで苦しめるとは許せん奴らだ」

 ヤマウチヒロシが怒気を含んだ声で言った。

「降伏しろ! こっちはお前達より数も上だぞ!」

 向こう側から声が轟く。

 その隙を見てランスが顔を覗かせ反撃して戻った。

 彼は弾を装填している。デルターが代わりに顔を覗かせた。

 凶弾が幾つも飛び交い、突き当りの石壁にめり込んだ。

「後ろは?」

 デルターは反撃の隙を窺いながら尋ねる。

「まだだ。安全圏に到達するまで時間が掛かるだろう」

 ヤマウチヒロシはベンの亡骸の足を引っ張った。ランスもそれを手伝う。

 そしてヤマウチヒロシはベンのピストルと弾薬を探り手にした。

 ライフルを肩に掛け、ピストルを構える。

「ベン、短い付き合いだったが、お前の無念は俺達が晴らしてやるからな」

 ヤマウチヒロシが感慨深く言い、ランスと共に顔を出し銃を見舞った。

「仕留めようとは思うな。牽制だけして足止めだけしてれば良い。キンジソウの奴もそう言ってただろう」

 デルターは訴える様に言っていた。

「確かに」

 ランスが頷いた。

 デルターは弾を装填している二人に変わり、凶弾が止んだところを顔を出しピストルを滅茶苦茶に撃った。

 悲鳴が二つ上がったが、素早く顔を戻した。

「列が見えなくなりました」

 ランスが言った。振り返ると彼の言う通りだった。例の最終防衛ラインまで下がろうかと提案しようとしたとき、黒猫が駆けて来た。

「ペケさん!」

 ランスが声を上げる。

 デルターはその声を背に角から顔を覗かせようとしたが、銃弾が雨あられと撃ち込まれ顔を引っ込めた。

「ペケさん、私達は下がって良いのかい?」

 ランスが尋ねると猫は黙したままだった。

「これはまだここで頑張れということに違いありません」

 ランスが言った。

 ヤマウチヒロシが顔を出しピストルを見舞い、再び顔を引っ込める。悲鳴が幾つか上がった。

 次はデルターの番だ。

 デルターが顔を覗かせた時、敵は強気に無防備に展開したはずだが、今は後退していた。三つ、動かなくなった身体があった。

 誰がやったのか分からない。自分の銃弾かもしれない。

 だが、戸惑うだけではいけない。二人を守るんだ。

「距離を取ったな。向こう側の角に身を潜めている」

 ヤマウチヒロシが顔を覗かせ、発砲した。

 一つ呻き声が上がった。

 その時、ペケさんが鳴いた。

「ニャー」

 デルター、ランス、ヤマウチヒロシは顔を見合わせた。

 黒猫は駆け出し地下水路の方へと行く。

「下がりましょう、最終防衛ラインまで駆けて!」

 ランスがしんがりを務めようとしたのでデルターは襟首を引っ張った。

「俺が残る、行け!」

「デルターさんでは足が遅いでしょう!」

「見掛けで判断するな、俺は走れるデブだ! お前の萎えた健脚より早い! さぁ、二人とも行け!」

 神よ、我らを守りたまえ。

 ヤマウチヒロシとランスが退却して行く。

 デルターは角からピストルだけ出して発砲した。

 弾は六発までしか入らない。あっと言う間に撃ち尽くしてしまう。冷静に、冷静にと努めながらシリンダーに弾を入れて行く。まだまだ弾はある。こいつを器用に使いながら援軍が来るまで待つ。

 長い夜になりそうだ。

 凶弾が壁に当たる。

「ニャー」

 ふと猫の声がし、見るとペケさんがそこにいた。

「ペケさん。俺も退却しろってか?」

「ニャー」

 肯定するように猫は鳴いて地下水路の方へ駆け出して行く。

 デルターもその後を追おうとし、ふと、ベンの亡骸に目を向けていた。その見開かれた両目を閉じてやり色褪せたカウボーイハットで顔を覆った。

 必ず後で迎えに来るからな。

 デルターはそう心の中で言うとペケさんの後を追った。

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