第十八話 「しんがり」
継ぎ目のある石壁に囲まれている。それらはホコリをかぶっていた。
「デルター」
キンジソウがこちらを見た。
「何だ?」
「顔色が悪いぞ。いけるのか?」
デルターは神に祈り決めた覚悟が揺らいでゆくのを感じた。
「悪いが、足手纏いはいらないぞ。人質も含めて全員の危険に繋がる」
「いけるさ。心配すんな」
デルターはキンジソウを見て言った。戻って来た緊張の鼓動が言葉から漏れそうになるのを塞ぐかのように少しだけ強い口調で言った。
「ま、お前らは素人集団だからな。足手纏いであることに変わりは無い」
「だが、俺達の代わりもいない」
キンジソウの言葉にデルターが返すと相手は頷いた。
「梯子を上るって握力が入りますね」
ランスが上って来たようだ。
程なくしてヤマウチヒロシとベンも上り終えた。
「ペケさん、案内してくれ」
「ニャー」
黒猫が先頭に立って石造りの埃っぽく、薄暗い砦の内部を進んで行く。
少し進むと、左右に妙な大きな出っ張りのある廊下に出た。
「もしもしんがりをやるならここで踏み止まるべきだな。どう思う?」
ヤマウチヒロシがキンジソウに尋ねた。
「そうだな。アンタの意見に賛成だ」
キンジソウが応じた。
数段の階段を上るとペケさんが足を止めてこちらを振り返った。
「ペケさん、この先に人質がいるのか?」
「ニャー」
黒猫が鳴いた。
キンジソウが手で一同を制した。
ペケさんの言う通り、この先に人質がいるということだ。
キンジソウが忍び足になり先に歩きはじめる。
デルターも足音を静かにしながらその後に従う。
一方通行だが突き当たりを左に曲がるところでキンジソウが踏み止まった。
彼は人差し指を口に当て、こちらに頷いて見せた。そしてデルターを指差し、向こう側を指し示す。
覗いて見ろ。そう言っているのだ。
デルターは頷き、壁際に肩を付けてそっと顔を覗かせた。
そこは牢獄だった。
町の住人と思われる者達の姿も見つけた。無論、牢の中だ。広い場所だった。町の人々は左右にある複数の牢に詰め込まれるようにして拘束されていた。
そしてペケさんの知らせた通り、四人の賊と思われる男達がいる。
廊下の真ん中で木箱を囲みカードゲームに興じている。町の人々は静かだった。
子供もいるだろうに。
デルターは顔を引く。
続いてランス、ヤマウチヒロシ、ベンの順番で様子を見た。
全員状況を理解したわけだがどうするか。
ヤマウチヒロシがライフルを構え銃身を出そうとするが、キンジソウに止められた。
「ライフルだと一回ごとに弾をこめなければならない」
ひそやかな声でキンジソウが言った。
「じゃあ、どうするんだ。多少のリスクは覚悟して強襲し、さっさとこの場を後にすべきだ」
ヤマウチヒロシが言うとキンジソウが頷いた。
「その通りだ。ま、見てな」
キンジソウは不敵に笑みを浮かべるとピストルを引き抜き、廊下に飛び出した。
牢獄に四発の乾いた音が間を置かずに轟いた。
「さぁ、人質を助けるぞ」
キンジソウは声を上げ、駆けて行く。
デルターも後に続いた。
木箱の周りで倒れている四人の賊達の姿があった。
たった今まで生きていたのだ。
デルターはそちらから目を放した。見なければ良かったと思った。殺したのは自分では無いが罪悪感が己を蝕んでいる。
いつの間にか立ち止まっていたデルターを正気に戻したのはランスの声だった。
「錠前が掛かってます! 鍵を探さなきゃ!」
「おいおい、何のために銃を持ってるんだ?」
キンジソウが応じ、彼は錠前をピストルで撃って破壊した。
ランス、ベンが後に続く。
「デルター、アンタも行け。敵は俺が見て置く」
ライフルのスコープをまだ見ぬ廊下の先に向けヤマウチヒロシが言った。
「あ、ああ」
次々牢が破られ、解放された人々が安堵の声を上げたり、神に祈りを捧げたり、こちらに礼を言ったりして来た。
「まだ終わっちゃいない! 静かに! そのペケさん、いやその猫の後をついて行ってくれ」
キンジソウが言った。
ペケさんは一鳴きすると先に立って歩み出した。
まだ解放されていない牢の人々が急かす様に声を上げる。
デルターは錠前をピストルで破壊した。
「ありがとうございます!」
解放された人々が礼を言った。
感極まって泣き出す子供もいた。
その声が災いしたか、ヤマウチヒロシのライフルが火を噴いた。
敵が来たのだ。見れば一人の賊がまだ見ぬ曲がり角のところで倒れていた。
「急げ!」
ヤマウチヒロシが遠慮なく声を上げる。
「お前達は逃げろ! 先に行った奴らの後に続くんだ!」
ベンも大音声で人々のざわめきを黙らせ冷静に退路へ導いている。
「こっちです、さぁ、急いで」
ランスも目の前の牢から人質を解放してそう言った。
「奴ら逃げるぞ!」
ヤマウチヒロシのライフルが火を噴くが、賊は複数いた。
キンジソウが早撃ちでたちまち敵を撃ち殺した。
後ろを見れば、狭い梯子な上に赤ん坊も年寄りもいる列はたいして動いていなかった。
「ここで敵を食い止める。お前達に任せられるか?」
キンジソウが一同を振り返って言った。
「何とかしよう」
ヤマウチヒロシが言った。
「逃がすな!」
曲がり角から賊が六人現れ、ピストルを構えた。
「撃て撃て!」
ベンが声を上げると、デルターも弾かれるようにピストルを向けて引き金に手を掛けて引いていた。




