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第十四話 「ドールの町の異変」

 結局野宿を一度挟んでの行程だった。

 ランスは体力も無いがやはり足腰の筋力が弱っていた。体力よりも先にそちらが根を上げるようだ。

 腕の方は歩きながら重りをそれぞれ手に持って鍛えている。身体への負荷を増やすその前向きな姿勢はいつかと違い、デルターを感心させた。

「すみません、また私のせいで到着が遅くなってしまって」

 ランスが乱れた息を整えながら謝罪する。

「良いって、気にするな。お前はよくやってる」

 デルターは応じながら入り口からドールの町を見渡す。

 肌寒い街中はひっそりと静まり返っていた。

 秋で日暮れも早いが妙な感じがする。

 デルターは灯りすら消えている建物という建物を見回し、腰のピストルに手を掛けた。

「ランス、一応油断するな」

「え? 何でです?」

「きな臭い気がする」

「そうですか? あれ、そういえば確かにどこも真っ暗ですね」

 ランスはいまいち締まりの無い口調でそう言いつつ、デルターを見倣い腰のピストルに手を掛けていた。

「大声でも上げてみます?」

「いや、敵がいるなら既にバレているかもしれないが、居場所を知らせるのは不味い」

 デルターが言うとランスが頷いた。

 二人は忍び足で建物に沿って動き始めた。窓から様子を窺い、中が分からないとなると扉を開けた。

 中は人の気配がなかった。

 外でランスが放置してあった荷車に膝をぶつけて呻いた時は、デルターは思わずそちらに向けて発砲するところだった。

「デルターさん、撃たないで! すみません」

「はぁ・・・・・・。頼むぜ、ランス」

 デルターは早鐘を打つ己の心音を聴きながら溜息を吐いた。

 その時だった。

 正面の教会の扉が開け放たれ、数人がピストルをこちらに向けて声を上げた。

「お前達は何者だ!? ならず者の一派か!?」

「落ち着け、俺達はただの旅人だ。王都を目指してる!」

 デルターは大声で応じ両手を上げた。ランスもそれに倣った。

 相手はピストルを下ろした。

 三人の男だった。

「とりあえず、こっちまで来い」

 そう言われ、ランスと顔を見合わせ、頷くとデルターは相手に合流した。

「随分物騒な街だな」

 デルターが言うと一人がかぶりを振った。

「俺達はここの住人では無い」

「先程、ならず者一派とか言ってましたが、一体何のことですか?」

 ランスが尋ね、デルターも思い出し相手を見る。

「まぁ、話は中でする。入ってくれ」

 教会の中に促されるとそこには老若男女十人ばかりがいた。

「あ、ハゲだ! ハゲだ!」

 五歳ぐらいの子供がはやし立てる。

 デルターは帽子を被っていたが、何故ハゲを見破られたのかが気になった。

「あ、シールの町で乗り合い馬車に乗っていた!」

 ランスが思い出したように言った。

「レンバス、静かになさい。失礼なことを言ってはいけません」

 若い母親がそう子供をなだめた。

 ハゲなんてどうでもいいが、問題はこの状況だ。訳が分からない。

「私達が町に着いた時には、保安官が一人生きていたが、少し前に息を引き取った」

 緑のカウボーイハットをかぶったデルターと同い年ぐらいの痩せた男が言った。

「アンタは?」

「俺はヤマウチヒロシ。家族旅行の最中だった」

 緑色のカウボーイハットのつばをクイと上げて相手は名乗った。彼は続けた。

「誰も彼も同じ状況さ。私達と同じくシールから来た者もいれば、この先のラーズから来た者もいる。そして当時重傷だった保安官が言うには、ならず者組織の一派が北の街道から外れた古い砦に立て籠もって、町の者達全てを人質にしているということだ」

「首領のスティングという奴の要求は金だ。国に対して脅迫状を叩きつけてきている。二日に一人のペースで人質を殺すつもりらしい」

 別の男が言った。

「そんな無茶な、王都の国王陛下のもとに報せが届くには長い道のりですよ!」

 ランスが言った。

「それでも、スティングは二日に一人、人質を殺している」

 老人が言った。腰にはピストルを提げていた。老人は続けた。

「更なる人質の犠牲者を出さぬためには、ここにいる我らで対応せねばならん、ということだ」

 デルターは腕組みした。

 シールへ馬を飛ばして半日ぐらいか。保安官達を呼べれば一番良いのだが・・・・・・。

「だが、正面から行っても、人質を突き付けられれば我々もどうしようもなくなる」

 ヤマウチヒロシが言った。彼は変わったピストルを持っていた。いや、ピストルというには長い。

「ライフルだよ。まぁこれが役に立つかは分からないが」

 ヤマウチヒロシが続けて応じた。

「それで戦力は?」

 ランスが尋ねる。

 ヤマウチヒロシの他、男が二人、老人が一人と言った具合だ。後は女と子供だった。

「そこに俺とランスが加わって六人か。すまないが、お嬢さん、馬には乗れるか?」

「ちょっと待て、うちの娘に何をさせるつもりだ!」

 ヤマウチヒロシが声を上げた。

「シールに援軍を頼むんだよ。保安官と保安官補、後は義勇兵が来てくれるだろう。俺達は先に行動を起こさなきゃならないが、一日二日で鎮圧できるとは思えねぇ。だから援軍を頼むんだ。行ってくれるな、お嬢さん?」

 デルターが頼むとヤマウチヒロシの娘は力強く頷いた。

「父さん、私行ってくるわ。必ず援軍を連れて来るから」

 そんな娘の頼もしい態度にヤマウチヒロシとその奥方が娘に抱き付いた。

「良いか、真っ直ぐシールへ行くんだぞ」

 ヤマウチヒロシが言うと父と娘は外に出た。

「乗合馬車の馬を一頭借りるぞ」

「ああ、良いとも」

 老人が頷いた。

「ラーズにも報せを送ろうぜ!」

 男のうちの一人、色褪せたカウボーイハットの男が言った。

「それなら私が行きます!」

 ヤマウチヒロシの奥方が名乗り出た。

「いや、待て、お前まで危険な目にあわせるわけにはいかない!」

 戻って来たヤマウチヒロシが必死に止めたが、奥方はかぶりを振り、外へ駆け出した。ヤマウチヒロシもその後を追う。

 さて、厄介な事になったな。

 デルターは帽子を取り頭頂部を掻いて悩んだ。

「人質がいるから正面から挑めないんだろう? だったらどうする?」

 デルターが男達に尋ねると、不意に頭上から声が轟いた。

「あの砦には水路がある。そこから中へ潜入すりゃ良いさ」

 見上げると、天井にクモのように張り付いていた影が落ちてきた。

 それは一人の男だった。

 黒いカウボーイハットをかぶり、首に黄色のスカーフを巻いていた。

「お前、何者だ!?」

 男二人がピストルをを抜いて天井から現れた男に向けた。

「まぁまぁ落ち着いて。俺は味方になるかもしれないし、そうならないかもしれない。アンタら次第だ。だが言っとく、俺はアンタ方にとって心強い助っ人になるはずだ」

 天井から現れた男が言い、ニヤリと微笑むと続けた。

「銃を下ろしな。俺の名はキンジソウ。さすらい人だ。金貨二十枚でアンタらに雇われてやっても良いぜ」

 不意に現れた男の言葉にデルター含め、一同は顔を見合わせたのだった。

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