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第十一話 「六秒」

 銃砲店から出て来た二人の様子は今までとは若干違っていた。

 デルターはランスを見て、ランスはデルターを見た。

 腰の革製のガンベルトと、同じ革製ホルスターがある。そこには一丁のリボルバー式拳銃がそれぞれ収まっていた。

「デルターさん、お金の方は必ず働いて返しますから」

 ランスが真面目な顔で言った。

「ああ。楽しみにしてるぜ」

 デルターはそう微笑み掛けた。

「それにしても、銃ですよ、銃。これで襲ってくる悪党どもを撃退できますね」

 嬉しそうにランスが言い、デルターは複雑な心境になりながらも頷いた。

「そうだな」

 銃の他には大振りのナイフも合わせて購入した。樫の棍棒は雑貨屋で安く売り払ったが、これで片腕が空くことになった。ナイフは腰の後ろに鞘に入って収まっている。

 銀行で銃の税金を払ったり、野宿のための食料を求めたりして、時間はいつの間にか夕方になっていた。

「ヘトヘトですね」

 ランスが表情通りのことを言った。

 二人は宿に戻ろうとした。

 その時、ランスに誰かがぶつかってきた。

 ランスの方はよろけるだけだったが相手の方は盛大に尻もちをついた。

「いてて、おう、どこ見て歩いてやがんだ」

 強面の男はそう言いランスに詰め寄った。

「すみません」

 ランスは謝った。

「いてて、こりゃ、腕の骨が折れたな」

 男が左手を押さえながら言った。

「そ、そんな」

 泡を食ったようにランスが動揺する。

「治療代払え。金貨一枚だ」

 相手は怖い顔を迫らせて言ったが、ただのチンピラ風の男で、デルターの方は怖くもなんとも無かった。

「だったら医者行こうぜ。本当に折れてるのか確認する必要がある」

 デルターが提案すると、相手はかぶりを振った。

「いや、間違いなく折れてる。いててて」

 わざとらしい演技にデルターは面倒くさく思った。

 こんな奴、さっさと殴り飛ばして宿に戻りたいぜ。

 銃を買ったり色々忙しかったため、デルターも多少の疲労を感じ、苛つきが目を出し始めていた。

「だったら保安官のいる事務所まで行くか?」

 デルターが尚も提案したが、相手は頑なに演技を止めず金貨を要求してくる。

「わざとぶつかって来やがったんだろう? 分かってんだよ、んなことはよ! わざとらしいことばっかりしやがって!」

 デルターは急激に募る怒りのあまり声を荒げていた。

「うるせぇ、ハゲ、やろうってのか?」

「誰がハゲだおうコラ!」

 デルターは握りこぶしを作った。

「ちっ、おーい!」

 チンピラが声を上げると似たような連中が四人ほど現れた。

 いつの間にかデルター達を遠巻きに群衆が眺めていた。

「どうした?」

 合流したチンピラの一人が尋ねて来た。

「こいつら人にぶつかっておいて謝りも賠償もしないのよ。ああ、左腕が痛いなぁ、折れてるなぁ」

「謝罪はしたじゃないですか」

 ランスが彼なりに勇気を持って抗議したが、チンピラは聞き流して、痛い痛いと騒いでいた。

「とりあえず、賠償金をくれや。なぁ、ハゲのおっさんよ」

 別のチンピラが言った。

 デルターは頭のことを馬鹿にされ怒り心頭だった。

「デルターさん、落ち着いて。怒りのピークは六秒だと聞いたことがあります。ですから」

 ランスがなだめる様に言った。

 六秒だと?

 デルターは自制しようと努めた。

 一。二。三。

「来いよ、ハゲ野郎」

 その途端にデルターの腕が動いていた。

 拳が一人のチンピラの顔面を殴り、吹き飛ばす。

「や、やりやがったな!」

 チンピラ達が慌てて腰からナイフを抜いた。

「おう、上等だコラ! ケツの毛までひん剥いてやるぜ!」

 デルターはそう叫び拳を構えた。

「デルターさん、落ち着いて!」

 ランスが肩に手を置いたがデルターは振り払った。

 その時だった。

 けたたましい笛の音が鳴り、三人ほどの人間が駆け付けてきた。

「何事だ!」

 保安官と保安官補達だとデルターは悟り、己の過ちを悔いた。

「のびてますね」

 デルターに殴られ動かなくなったチンピラを見て若い保安官補の一人が言った。

「手を出したのはどっちだ?」

 口髭は立派だったが保安官はやる気が無さそうな態度で双方を見て尋ねた。

「そのハゲだ! そのハゲが手を出してきたんだ」

「なるほど、だが、お前達はナイフを抜いているな」

 保安官はやる気が無い態度だったが鋭く指摘した。

「保安官、先に向こうがこちらを挑発してきたんです」

 ランスが必死に弁解する。

「そう言うテメェが俺にぶつかって怪我させたんだろうが!」

「怪我ね。お前達もいい加減悪どいことから身を引いたらどうなんだ? これで何回目だよ」

 保安官がチンピラ達に言う。

「だが、過剰防衛かもな」

 未だに目を覚まさないチンピラの方を見て保安官は続けた。

「チンピラどもも、そこのアンタらも調書を取るために事務所まで来てもらうぞ」

 その途端に逃げようとしたチンピラ達を保安官補達が捕まえた。

「放しやがれ、俺は右手を負傷してるんだ、いてて」

 因縁をつけてきたチンピラが言った。

「怪我したのは左手だと言ってましたよね?」

 ランスが指摘する。純粋で少々弱気な彼も、自分がはめられたと知り、憤りをあらわにしていた。

「まぁ、とにかくだ、全員連行する。逆らう者は逮捕だ。武器を取り上げろ」

 保安官が言い、保安官補達が両脇についてチンピラ達からナイフを、デルター達からもナイフと銃を取り上げた。

 そして保安官を先頭にしてチンピラ達と共にデルターとランスも連行されてしまったのだった。

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