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第百二話 「首領」

 弾丸が次々刺さる。ケペに続いてデルターもランスも発砲をした。だが、六連発式である。すぐに弾薬は無くなった。しかし、デルターらの奇襲を受けて敵陣が崩れたのを見た王国騎兵隊が馬には乗っていないが、盾を放り捨てて、シミターを抜刀し、鴉団に襲いかかった。

 乱戦となるが、王国騎兵隊の方が士気が高い状態だった。ようやく脅威を排除できる。いや、この機を逃せば次は無い。そういう意気込みが感じられた。

 ランスは茫然とし行方を見ていたので、デルターは言った。

「お前は隠れてろ」

「は、はい!」

 相棒は慌てて敵の落とした盾を拾い身を潜めて佇立した。逃げなかった。デルターは愉快に思いつつも、銃をホルスターに収めて棍棒を引き抜いた。

「オラアッ!」

 デルターの膂力ある一撃が鴉団の一人の横顔を殴打する。鴉団はこの期に及んで尚も銃で対抗しようとしていた。銃を過信し過ぎている。いや、銃以外まともに扱えた経験が無いのであろう。

 ケペはトマホークを振り上げ、鴉団を血の海に沈めている。騎兵隊も容赦なかった。

 デルターは棍棒で次々敵を打ち据えていたが、必死な騎兵隊に斬られる寸前だった。

「待て、味方だ!」

「わ、悪い。つい人相が」

 デルターと中年の騎兵隊員はそう言葉を交わした。

「逃げろ! 撤収だ!」

 生き残った六人ほどの賊が逃亡するが、王国騎兵隊が反応する。

 しかし、それよりも早く、ケペの拳銃が火を吹いた。一瞬の早撃ちの連続後、逃亡していた賊達はその場に倒れたのであった。

「御助力、感謝する」

 騎兵隊の壮年の隊長が言った。

「あんたらがここに釘付けにされてる間に街はすっかり酷い有様だ。せめて生存者に戦いが終わったことを正規兵として知らせには出てくれないか?」

 デルターの頼みに壮年の騎兵隊長は悩む素振りをみせた。

「実は、鴉団の首領がまだ見つかっていないのだよ。これで平和になったとは今は言い難い」

「首領はどんな奴なんです?」

「名前だけは知っている。ゼビックという奴だ。だが、残念ながらどのような容姿をしているのかまでは分からん」

 思わぬ言葉にデルターは唖然とした。首領の姿が分からない。確かにそうなれば騎兵隊長の言う通り、街に平和が戻ったとは言い難い。

「それに王陛下や、要人達のいるこの城門を守備するのが先決だ」

 その言葉に反応したのはケペだった。

「行くぞ、デルター。首領を探しに」

 ケペが城に背を向け歩み始めた。ランスも盾を置いて、デルターを見る。

「ここにいるのかさえ怪しくなってきたな」

 デルターはそう言い、ペケの後に従った。



 2



 未だ訪れていないのは街の西側だ。

 善良だった人々の亡骸があり、更に屯所には共に額を撃ち抜かれた五人の衛兵の死体があった。

 西の端まで行ったが、鴉団とは遭遇しなかった。

「首領はこの戦いに加わらず別の場所で高みの見物でもしているんでしょうか?」

 ランスが問う。デルターは別の見解を述べた。

「あるいは、気付かないうちに既に死んでるか。ケペ、あんたはどう思う?」

 ケペは振り返る。

「それとも内部の者がその実、手引きした首領かもしれない。王都の門は頑強で警備も厳重だ。鴉団が予想よりも入り込んでいる。然るべき身分の者が手引きしたのかもしれないな」

 その意見にデルターは心臓がドキリとした。

「おい、だったら!」

 それだけでケペは頷いた。

「王城へ急ぐ」

 三人は駆けた。必死に駆けた。

 そうして王城の前に着いた時には騎兵隊の亡骸だけがあった。

「遅かったか!」

 デルターは拳を壁に叩きつけた。

「こうなっては国王陛下が危ないです。急ぎましょう!」

 ランスが言い、デルターとケペは頷き、三人で城の中へと踏み込んだのであった。



 3



 城の中も死体だらけだった。兵士に侍女に文官、尽く殺戮されていた。

「急がないといけませんが、どう進みましょうか?」

 ランスが緊張の面持ちでデルターとケペに尋ねて来た。

「階段を探せ」

 ケペが言った。まるでここから動かないと言わんばかりの言葉にデルターは尋ねた。

「来てくれるんじゃ無いのか?」

「退路を確保しておく必要性がある。お前達二人でケリをつけて来い。キンジソウがお前達を信じて後を託したように」

「何でキンジソウのことを知っている?」

 だが、ケペは無言で背を向けた。

「デルターさん、急ぎましょう! 王様まで殺されてしまったら、混迷の世の中になってしまいます!」

「わ、分かった」

 デルターはケペの背を見て、回廊を駆けた。

 背後から銃声が聴こえた。幾つも幾つも、だが、キンジソウの思いもケペの決意も無駄にはできない。デルターとランスは運良く階段を見付けて駆け上がった。



 4



 兵士は殺され、豪華絢爛な謁見の間に立っているのは、大臣、王妃、そして国王と、もう一人だった。

 最後の一人、豪華な身形をした貴族が銃口を三人に向けていた。

「ピロスー男爵、これは一体どういうことか?」

 大臣が尋ねると、ピロスー男爵はそちらへ向けて発砲しようとした。

「待て!」

 気付けばデルターは飛び出していた。

「何だ、お前らは? ゴミの相手をしている暇はない。死ね!」

 銃口がこちらへ向けられた瞬間、デルターも銃を向けたが遅かった。だが、弾は幸い身体では無く銃に当たった。しかし、その衝撃で銃は真紅の絨毯の上を転がり、デルターは無手となった。

 ランスが銃を向けるが、ピロスー男爵、いや、ゼピックはせせら笑い言った。

「撃ってみろ」

「く、くそおっ!」

 ランスが銃を連射するが、それは全て明後日の方角へと飛んで行った。

「ああ、何てことだ」

 ランスが己の不甲斐無さを嘆くと、ゼピックは嘲け笑った。

「そこで見ているが良い、今、国が生まれ変わろうとしているのだ」

 ゼピックが国王へ銃口を向けた瞬間、ランスが言った。

「デルターさん!」

 その言葉だけで充分だった。デルターはケペに託された四十四マグナムを素早く抜いた。

 ゼピックも慌ててこちらへ発砲した。同時だった。マグナムは強烈な威力だった。反動の衝撃が凄まじく、歯が揺れ、しっかり握っていなければ軌道が逸れる可能性があった。

 ゼピックは胸を押さえた。

「あばよ、悪党。地獄がお前を待ってるぜ」

 デルターは慣れないマグナムを次々撃ち、踊るようにのけぞる鴉団の首領への最後の六発目がどうにかその頭を貫いた。

 敵の首領を討った。

 倒れる相手を見てデルターは溜息を吐く。

 国王らが歓喜する中、デルターは激しい疲れを感じていたのだった。

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