第百一話 「助っ人」
鴉団の手下どもは一体どれぐらいいるのだろうか。一つ言えるのは纏まった小規模の軍隊並に人数だけ入る。そして人の数だけ銃があるということだ。
遮蔽物からランスが飛び出し銃撃を見舞う。
デルターは慌てて彼を引きずり下ろした。
「無茶は止めろ」
「ですが、キンジソウさんがいない今、私達も多少の無茶をしなければ道は開けないと思いますよ」
キンジソウという司令塔を失くし、ランスは最初こそおっかなびっくりだったが、敵の命中精度が悪いと知ったようで、積極的に攻撃に出ている。デルターは苦悩した。ランスの言う通り、道を開くには対象の無茶をしなければならない。
「下がってろ」
デルターはランスを押し退け、六連発を放った。
デルターの狙いは自分でも恐ろしいほど正確で遭遇した七人の賊をあっという間に一人にした。
最後の一人が逃げようとした時に、凄まじい連射の音が木霊し、賊は背を撃ち抜かれて倒れた。
誰だ?
ランスもデルターも周囲を見回した。
右手の民家の屋根の上から一つの影が跳び下りた。
カウボーイハットをかぶった長い黒髪の若い女性がそこにはいた。
「助けていただいてありがとうございます」
ランスが律儀に礼を述べるが、デルターは女の冷厳な雰囲気を纏った綺麗な色白の顔と、珍しい黄緑色の目を見ていた。鼻は高く、唇は薄い。
「王城へ向かうわよ」
女性は名乗りもせず、または尋ねもせずにそう言い、歩み出す。
「ちょっと待て、あんた何者だ?」
デルターが問うと、女性はしばしの間を置いて答えた。
「ケペよ。普段は傭兵紛いのことをしている」
「ケペか。俺はデルター。こいつはランス。一緒に行動してくれるのか?」
その問いにケペは頷いた。そして颯爽と歩み始めた。
デルターはランスと顔を見合わせ、目的も同じようなので彼女について行くことにした。
2
十字路は再び賊達の兵站線と成り始めていた。
民家の戸口に隠れようかと思ったが、ケペが素早い動作で銃を連射し、賊を次々撃ち抜いた。彼女は拳銃をもう一丁持っていて、一つが空になると、もう一方をも空にした。立っている賊はいない。屍の上に屍が折り重なっている。
デルターらは賊の引いてきた荷馬車の荷を漁っていた。弾薬ばかりだが、必ずしも、こちらの拳銃に見合った弾があるとは限らなかった。それでも百発分手に入れ、分配する。ケペはここでトマホークを予備の武器として手にし、腰のガンベルトに挟んだ。
「おーい、交代の時間だぞ」
恐らく賊だろう声が聴こえた。
慌てて荷馬車から出ようとしたところ、ケペが素早く駆け下り、次に下りたデルターの目にさえも止まらぬ速さで五人の敵の間合いに入っていた。
ケペはトマホークを一閃させ、纏めて賊の喉頚を穿ち切り裂いていた。
鮮血が噴水のように飛び出る。賊達は何が起きたのか分からぬまま地面に伏し、痙攣し、動かなくなった。
「つ、強いですね」
ランスが呆気に取られたように言った。
「ああ、キンジソウ以上かもしれない。何にせよ、頼もしい味方が出来た」
デルターらが合流すると、ケペは大きな六連発式の拳銃をデルターに渡した。
「私ではこいつを支えきれない。デルター、有事の際の時に備えてお前が持っていろ」
押し付けられ、ずっしりする重みを感じる大型拳銃をデルターはガンベルトに挟んだ。
「行くぞ」
ケペさんが言い、返事を待たず、中央通りを王城へ向けて歩み始めた。
デルターとランスは後に続くが、ケペは急に駆け出した。二人も慌てて後を追う。
「どうしたんでしょうか?」
「急いでるんだろ。俺達がボヤボヤしてる間に王城の守りが一人ずつ減っているかもしれない」
ランスは頷いてデルターと並走した。
そしてケペが立ち止まった頃には高級住宅街に足を踏み入れていた。
門番が、身形の豪華な貴族達が血の海に沈んでいる。孤児だったデルターは偉い人間が好きでは無かったが、今は不幸な彼らの冥福を祈った。
乾いた発砲音がその時、無数に聴こえて来た。
騎兵隊に違いない! 王城はまだ無事だ!
王様の治政はよく分からないが、この国は安定していると言えよう。万が一、鴉団が実権を握ったらと考えると足は更に早くなった。
ケペが貴族街の門柱に身を隠したのでデルターらも続いた。
「踏ん張れ! 絶対にここを通すな!」
騎兵隊の声が木霊するが、すぐに銃撃によって掻き消される。ケペの後に続いてデルターは先の様子を見た。
賊の数は三十人近い。騎兵隊もそのたくさんの亡骸を見れば分かる通り数を減らしていた。両者は木製の盾を持って身を隠しながら銃弾の応酬をしていた。
「賊どもは背後の俺達に気付いていない。挟み撃ちにするか?」
デルターが問うとケペは頷き、颯爽と飛び出した。
合図ぐらいくれても良いだろう。
銃口を前に向けながら、デルターとランスも続いた。




